2023 Nov

21

Tue

セミナーレポート

生成AIによってIT人材のキャリアは変わるのか?

漆原 茂氏 ウルシステムズ株式会社 代表取締役会長

大植 択真氏 株式会社エクサウィザーズ 常務取締役

古嶋 十潤氏 株式会社cross-X 代表取締役

パネルディスカッション

古嶋

ChatGPTをはじめとする生成AIの出現が、社会に大きなインパクトをもたらそうとしています。ビジネスに実装されるケースも増えているなか、この環境変化に対応してデジタル人材はどのようにキャリアを形成していくべきなのか、お考えを聞かせていただけますか。

漆原

ディベロッパー側の観点から言えば、自然言語でコメントすることでコード生成を支援してくれるGitHub Copilotの登場によって、開発の生産性が格段に向上しました。今や多くのエンジニアが活用していて、もう後戻りはできないと思います。言われたプログラムを部分的に作るだけのエンジンアは必要とされなくなるでしょう。一方で、業務からシステム全体を理解し、どんなアーキテクチャにすべきか等の設計などはGitHub Copilotにはまだ担えない。そこはこれからもエンジニアが大いに能力を発揮できるポイントだと思います。

大植

いま漆原さんがおっしゃったように、上流側の設計ができるエンジニアの付加価値はこれからも絶対に高いと思いますね。

古嶋

生成AIは開発業務に大きな影響を与えていますが、ビジネスも大きく変えようとしています。これまで、さまざまな業種業界が抱える課題をAIで解決しようと試みられてきましたが、そこにフィットするAIを作成するのは難しかった。しかし、今回、技術が大きく進化したことで、生成AIが汎用的に使われるようになり、課題解決にフィットするソリューションが作りやすくなったように思います。これからは、どこに生成AIを適用させるのかという、そのアイデアが重要になってくるのではないでしょうか。

漆原

そうですね。いま関心が高いのは、業種業界ごとにバーティカルに生成AIを活用して価値を生み出そうとする試みです。そのためには、開発側とビジネス側がいっそう連携する必要があり、エンジニアも事業側へ積極的に越境していかなければならない。技術屋のなかにはビジネス側の人間と話すのが怖いという人も多いようですが(笑)、バウンダリーを越えることが、お互いに面白いと感じられる、そんな文化を築いていくことも、生成AI活用で成功するには必要になってきます。

大植

これはバウンダリーを超えてチームワークするという話にもつながるのですが、大谷翔平選手みたいな二刀流を目指すというのもキャリア形成で有効だと思います。たとえば弊社のエンジニアでいうと、もともと製薬会社で創薬研究に携わり、ディープラーニングにも通じた人材がいます。特定のドメインのスペシャリストで、技術も操れる。また、いま日本の介護業界が抱える課題をAIで解決する取り組みに注力していますが、そこでも、介護のプロのインストラクターで、かつフルスタックのエンジニアがいる。そうすると、もう一人でプロダクトを創れてしまうんですね。ですから、今後のエンジニアは、技術だけではなくドメインの知識も身につけて、ベン図でいうところの掛け合わせの部分を持つことが大きな強みになる。そのベン図の円を2つ、3つ、4つと増やしていけば、本当に価値のある人材になれるのではないでしょうか。

漆原

まったく同感です。それこそディープラーニングのあるアルゴリズムだけで勝負しようと思ったら、世界トップレベルの数学者にならない限り、きっと通用しない。新しいソリューションというのは、いろんな技術が積み重なって生まれるものですから、二刀流三刀流であることは強力なキャリアになります。またキャリア形成にあたって、パッションというか、いわゆる「エモさ」も大切じゃないかと思います。たとえば自動車メーカーのエンジニアって、エンジンのことを話し出すと止まらなくなって、クルマへの愛にあふれた方がたくさんいらっしゃるじゃないですか。自分の中に「これが好きだから究めたい」というパッションを秘めて、同じ志を持つ人たちとチームを組んで共感しあいながらプロジェクトを進められれば、すごく成長できると思うんです。

大植

私も「意志」がより重要になってくるだろうと思っています。生成AIが一般化すると、情報を集めて処理するとか、これまで人間が担ってきた一部の簡単な思考の価値が下がっていくでしょう。しかし、AIには「私はこれがしたい」という、理屈じゃないところで湧き上がってくるような意志はない。ここの部分が大事になってくるんじゃないかなと考えていて、あとはそれを埋める好奇心ですね。生成AI時代の新しいキャリア形成を語るキーワードは、これはエンジニアに限ったことではありませんが、「意志」と「好奇心」なんじゃないかと私は思っています。

漆原

あともうひとつ、ちょっと違う観点としてコミュニティの重要性についてお話しさせてください。エンジニア同士が社外のコミュニティの場で出会って、会社を超えてお互いに繋がりあえる、その信頼関係って実はものすごく大切なんです。オープンソースコミュニティというのはそうした関係のもとに成り立っているのですが、そこで相手の能力を理解して信用できると思ったら、じゃあ彼らが作ったものを使ってみようと。そうしてコミュニティで築いた信頼関係が、自分の大きな武器になる。これからは、個の信頼関係のほうが、会社の信頼関係を上回る時代になっていきます。キャリア形成も社内だけでなく社外との繋がりを強く意識したほうがいいのではないでしょうか。

古嶋

私もたいへん共感します。いまお二人にお話しいただいたのは、主に技術者のキャリア形成についてのお考えですが、今日お集まりいただいている方、あるいはWeb上で参加いただいてる方のなかには、コンサルティング業界などビジネス側で活躍されている方もいらっしゃいます。そうしたみなさんも、この技術の革新によって大きな影響を受けていると思いますが、今後のキャリアに対してご意見をいただけますか。

漆原

生成AIの利活用はいままさにスタートが切られたところです。どのようにビジネス側に効果的に適用していくかを考えるのは、一斉にヨーイドンです。別にエンジニアだから有利かというと必ずしもそんなことはなく、むしろビジネスを変革する肝のポイントを知っているビジネス側の人こそ、こうした生成AIを上手く活用できることも多い。エンジニアだけで考えてると、すぐ目先の目新しい技術に飛びついて、特にビジネス上で価値がないのに余計な自動化などを施し、大量のスパムメールを送り続けるマーケティングオートメーションとかを作りがちなんです(笑)。本質を突いて的確に生成AIを活用できるコンサルタントは本当に価値がありますし、エンジニア以上に活躍できるチャンスは大いにあると思いますね。

大植

私も前職は外資系のコンサルティング会社に在籍していましたが、振り返って考えてみると、企業の役員とエンジニアの間には極めて大きな認識のギャップがあって、これを埋められるのはやはりコンサルタント。まだまだ日本の企業の経営者は技術に明るくない方が多いですし、彼らと対話して経営課題を明確にして構造化し、インパクトが高い領域と技術を繋げていく。要は経営と現場のエンジニアを繋げられるコンサルタントは、きわめて付加価値が高いと思いますね。今後、日本の企業の経営者のデジタルリテラシ―が上がっていくと、それこそ経営と技術がわかる二刀流のマネジメントも出てくるかもしれませんが、そこに至るにはまだまだ時間がかかるでしょうし、コンサルタントの方々が力を発揮できる余地は大いにあると思います。

古嶋

やはり経営の言葉が理解できる人はかなり限られている印象がありますし、コンサルタントの方は日々その力を鍛えてられているので、それを最大限に活かしてほしいですね。最新のテクノロジーをキャッチアップしながら、経営課題解決に繋がるアーキテクチャやソリューションを創り出せる人材は、日本ではきわめて稀有です。この場に参加されているみなさんに、ぜひそうしたキャリアを目指していただいて、生成AIがもたらす新しい社会をリードほしいと思っています。

参加者からの質疑応答&ディスカッション

Q.

GitHub Copilotなどの生成AIによって開発リードタイムが短くなり、工数も少なくなることで、SIerは成長戦略や勝ちパターンが大きく変わると思われます。これからのITサービス企業の差別化の方向性と、ITサービス企業で働くエンジニアがどのようにキャリアを積めばいいか、お考えがあれば教えてください。

古嶋

先日、マイクロソフトがCopilot Studioをリリースしましたが、たとえば自社のWebサイトの裏側で動く生成AIを、企業が自らノーコードで作れるような世界になろうとしています。これまではそのAPIの部分をSIerが担っていたと思いますが、Copilot Studioの出現はSIerのビジネスモデルにも関わる大きなインパクトがあるのではないでしょうか。

漆原

私自身エンジニアなのですが、生成AIの台頭によってエンジニアに非常に面白いチャンスが訪れていると思っています。これまでビジネスサイドに虐げられて、言われたことだけやっていつも不完全燃焼で、トラブルが起こった時だけ付き合わされるという(笑)、そんな時代が変わるかもしれないチャンスが来ていると。実は、日本はピンポイントで良いサービスをたくさん創っていて、生成AIでそれをもっと加速できる。自分が創ったサービスをAPI化してオープンにしたり、たくさんの人に使っていただいて社会に貢献できたりと、エンジニアが主役になれる時代が到来しようとしています。これまでのSIerやコンサルの枠にとらわれ過ぎず、変化とチャンスを大いに楽しんで、キャリアを築いていってほしいですね。

構成:山下 和彦

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