2020 Nov

17

Tue

セミナーレポート

未来を生きる子供達により良いバトンを繋ぐために

永田 暁彦氏 株式会社ユーグレナ 取締役副社長COO

小林 正忠氏 楽天株式会社 CWO (Chief Well-Being Officer)

流郷 綾乃氏 株式会社ムスカ 代表取締役CEO(当時)

森山 和彦氏 株式会社CRAZY 代表取締役社長

第一部:プレゼンテーション

永田

まず私の自己紹介ですが、2007年に新卒で投資ファンドに入り、投資ファンド時代にユーグレナ社に関わったことがきっかけで、ユーグレナ社に移籍をしました。代表の出雲と私はミレニアルズと言われる世代で、ミレニアル世代の価値観を持った経営をしているところが一番のポイントです。

ユーグレナ社は東京大学発のベンチャーで、食用の微細藻類ユーグレナの大量培養技術が世界で唯一というところからスタートしました。コーポレートアイデンティティが「サステナビリティ・ファースト」なのですが、恐らく上場会社の中でもサステナビリティをすべての中心に置いている会社は当社くらいかと思います。

東大発ベンチャーとしては初の東証一部上場企業で87,000人の株主がいらっしゃいます。これはJALさんと同じくらいの株主数であり、本当に多くの個人の株主の方々に応援していただいている会社です。売上規模は130億円と本当にまだまだ小さい企業ですが、ずっと成長してきました。

私たちがユーグレナ社をやっているのは、代表の出雲が東京大学の学生だった頃、バングラデシュのグラミンバンクで目の当たりにした栄養失調問題を解決しようと思ったのがきっかけでした。その後、出雲は文化三類から農学部に転部し、そこで出会ったのが微細藻類ユーグレナです。

ユーグレナは体の中に59種類の栄養素を含んでいて、これさえ持っていけばバングラデシュの栄養失調の子ども達を救えるはずという想いから研究をスタートして2005年に世界で初めて食用ユーグレナの屋外大量培養に成功しました。

私の前職の投資ファンドがユーグレナ社に出資したのが2006年で、その頃から今までずっと一緒にやってきました。そういう生い立ちの会社ですので、私たちの一番大切な価値観として「自分達の幸せが誰かの幸せと共存し続けていること」を意味する「サステナビリティ・ファースト」というユーグレナ・フィロソフィーを持っています。自分達の経済活動と持続可能性との共存という意味でもあり、自分達と反対側の思想の方も幸せになれることを目指すのが根本的な考えです。

「サステナビリティ・ファースト」を達成するイメージは、自分達の事業が10倍成長すると社会へのインパクトも10倍になり、社会問題がその分縮小することに直結する事業だけに人生を賭けていこうといことです。

私たちはユーグレナの大量培養技術や遺伝子解析技術、先端技術研究に非常に多くの資金を投資しており、バイオ燃料事業、バイオインフォマティクス事業、ヘルスケア事業、ソーシャルビジネスを行っています。これらを通じて、地球環境問題に対する解決策の提案、人々を健康にしていく、発展途上国の栄養失調問題の解決をすべてやります。逆に言えば、このようなことにそぐわないことはやらないのが基本的なスタンスです。

バイオ燃料の研究は12年やってきていますが、ついユーグレナでつくった燃料で飛行機が飛ぶ直前という段階まで来ました。これで石油を使わない世界をつくる。健康に一番想いがあるのが代表の出雲ですが、当社で環境に一番想いがあるのは私です。

バイオインフォマティクスは人の状態を分析して将来の病気のリスクを無くそうという先端領域です。例えばインフルエンザにかかりにくいとか、体質の傾向や疾患のリスクの傾向を遺伝子から解析し、そのデータを販売するビジネスを行っています。

そして、バングラディシュではノーベル平和賞を受賞したユヌス先生のグラミンバンクと、グラミンユーグレナという合弁会社をつくって、スラム外の小学校などでユーグレナ入りクッキーを配布する活動を続けています。一過性のプロジェクトにならないように、ソーシャルビジネス化して収益を上げるプログラムになっています。

WFPと連携しロヒンギャ難民に対して農作物を生産して食糧の供給を行うプロジェクトもあります。さらに、買収した会社をグリーンな経営方針に塗り替えて社会インパクトを出すグリーンM&Aを行っています。

例えば食品会社を買収すると、粗利を下げてでも資材や原材料をすべて環境負荷が低減するものに変えることで、改善に次ぐ改善を重ねていくM&Aを実施してキャッシュフローを生み出しています。

全体的にはヘルスケアで約10億のEBITDAを出していますが、バイオ燃料等の先端領域に年間約9億、ソーシャル領域に年間約1億円の投資をしながら自分たちの夢を追いかけています。そんなソーシャルなことをやるなという投資家の方もいらっしゃるのですが、私たちのやることを理解した上で当社の株を持ってくださいというコミュニケーションをしています。

これも「サステナビリティ・ファースト」の世界を実現するために資本主義の概念と戦おうとしているのだと捉えています。バイオ燃料事業やソーシャルビジネスを2025年に向けて一気に収益化・黒字化していく分岐点に立つ年であり、仲間全員がワクワクしています。

最後に、誰かの幸せと自分達の幸せが同じことの筆頭が「未来の世代と自分達の世代が両方幸せであること」だと思っています。そのためには、経営体制もダイバーシティ&インクルージョンがある必要がある。

現在、ユーグレナ社にはCxOは4人いて最年少が10代で最年長が50代です。非常に統制が取れている取締役会で、71%が社外または非常勤取締役であり、未来・社会・環境に対するガバナンスをもって経営に取り組むことをモットーにしています。

昨年、CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)の募集広告を出したところ非常に多くの反響をいただき、初代CFOに就任した17才の彼女に私たちの未来に関するすべての決定権を与えた結果、既存のペットボトル商品全廃と2021年中に商品のプラスチック使用量の50%削減を会社として決定しました。責任が取れない目標ではなくて、今日決めて明日やろうとペットボトル商品も3ヶ月ですべて撤廃しました。当然売上も利益も下がりますが、それぐらい未来の世代に対する責任を持った経営をしていこうと決めています。

また、CFOは18才以下と定めており、初代CFOが18才になり定年退職をしまして(笑)、15才の第2期のCFOが決まりました。彼女も素晴らしい働きをしてくれていて、彼女たちと共に未来に向けた経営をしていきたいと考えています。「未来を生きる子どもたちにより良いバトンを繋ぐために」というテーマでしたので、このようにユーグレナ社のご紹介をさせていただきました。以上です。

第二部:ディスカッション

森山

画面越しからでも非常に永田さんの熱量を感じられましたね(笑)。ワクワクしていて色々な話をしたいのですが、最初に正忠さんと流郷さんから自己紹介をお願いします。

小林

こんばんは。私は25才の時に楽天を三木谷と創業し、ショッピングモールの責任者を務めた後、アメリカ・シンガポールで現地の代表を歴任し、帰任後の現在はCWO(チーフ・ウェルビーイング・オフィサー)としてコーポレートカルチャーやサステナビリティ領域を担当しています。

今日のテーマと関連して未来の子供達に自分がどんな背中を見せたいかと考え自己紹介として整理すると3つあり、1つ目は25才の頃に毎日20時間×7日間働いて上場を実現したという、色々な不可能に挑戦してきたこと。もう1つは、TOEIC320点だった私が40才で英語を始めてアメリカ・シンガポールで代表を務めた経験から、あきらめなければ何でもできること。3つ目は社会的な活動やプライベートで、上場した時は28才の若者でそんなにお金は要らなかったので「正忠奨学金」をつくったり、また、3.11震災以降偶々巡り合わせがあり、高校生を支援するBeyond Tomorrowという活動も行っています。

また、石川善樹さん達と一緒にWell-being財団を立ち上げ、国連が出しているGlobal Happiness Reportを2022年にはWell-being Reportに変えよう、GDPではない人類の幸せの新しい指標をもたらそうと活動しています。最後に19才~10才の5人の子供達の父親もやっております。今日はよろしくお願いします。

流郷

お二人が濃すぎてどうしようかと思っています(笑)。

私は、昆虫テクノロジー企業のムスカで代表取締役をやらせていただいていますが、虫が嫌いです。なんでしているかというと、私が仕事を受ける基準が、自分の子供達が80才になった時にこの事業は面白いと思えるかどうかで選んでいるからです。

これは以前クライスさんに取材いただいた記事(https://www.kandc.com/turning-point/v024/)でもお話したことですが、本当にその軸があるからこそ私は2017年からムスカにジョインして広報戦略に携わり、今に至るという状況です。子供達や次の世代に対する想いがものすごく熱い人間なので、今日は本当に楽しみにしています。よろしくお願いします。

森山

最高ですね。今日は楽しい会になりそうです。僕自身も結婚式の会社・CRAZYを運営していますが、今はパートナーシップ領域に事業を広げていて、サステナビリティにももちろん共感していますし、人々がどうすれば共感性を持って愛し合えるのかテクノロジーを開発し始めています。

当社は「Style for Earth」という創業理念を掲げていて、僕自身も地球との共存に熱い想いを持っており、脳科学や心理学も学んで人の進化にすごく興味がある人間なので、ファシリテーションも大好きです。

今日はモデレーターとして、あまり前面に出ず皆さんに質問しながら化学反応が起こるようにしていきたいと思います。早速、永田さんのプレゼンを聴いてお二人が感じられたことからスタートしていこうかと。

小林

自分達の幸せが誰かの幸せと共存し続けるということをちゃんと明確にしているので、分かりやすくていいですよね。何かやろうと思った時に、「それって本当に自分達の幸せ?誰かの幸せにつながる?」と社員全員が立ち返れる場所が定義されているのは、簡単なようで実はできていない会社が多いのではないかと。それはすごいなと思いましたね。

永田

私も環境問題を解決する事業などを行っていく中で、どうしても環境問題に対して攻撃的な人が結構いましたね。正義の反対は正義なので、それを許容していかないと結局は世代間競争になったり主義主張の戦いになったりするのがすごく良くないなと思ったのが論点のスタートでした。

何かを達成しようというToDoが会社の理念になりがちな中で、これまでの会社が設定していたミッション・バリューとは全然違って、私たちはToBe(あり続けること)が大切なのではと、こういう言葉に行き着いた経緯があります。

森山

Beingというのは人材業界でもよく使われる言葉ですが、あり方ですので内側に入っていくイメージですね。対して、ミッションは外側に向かった実現のエネルギーです。そう言う意味では、パーパスは自分に問いかけるものなので、少し捉えづらいかもしれませんが、今の時代にはあっている考え方だと思います。

小林

楽天市場を始めた当初は、月5万円で出店というモデルでどんどんお店を増やしていくことを頑張っていましたが、上場して2年後に手数料もいただくビジネスモデルに転換しました。それが大正解でした。

お客さんの店舗が成功しなければ手数料が入ってこないので、全力でお客さんの成功・成長を信じて伴走させていただけるのですが、その前のモデルだとそのお店が売れなくてもお店の数さえ増やせば一応売上が立っていくので同じ方向が向けていなかった。同じ方向を向けたことで初めて自分達の幸せと誰かの幸せが共存できて、すごくヘルシーで本当に良かったと思っています。

他社から転職してきて一番ハッピーになった人間は、英会話学校の営業職でした。英会話学校では、「英語ができたら海外でも働けてこれだけハッピーですよ」とお客さんを勧誘するものの、本当に英語がうまくなると全員卒業してしまうので困るわけです。彼らが楽天でECコンサルをやったら、「本当にお客様の幸せを信じていいんですね!こんなに幸せな仕事はありません」と感動してました。だから、ユーグレナさんの考えは非常にヘルシーでサステナブルだと感じました。

森山

本当にそうですよね。先ほど永田さんがおっしゃった「同じ方向を向くことが大事」という意味でも、次の世代の人達に経営参画いただくことで社会が同じ方向を向くうまい方法だなと思いました。

永田

大きく2つの意図があって、1つは現在ユーグレナの常勤経営者である出雲と自分も世の上場企業の経営者としてはかなり未来志向でサステナビリティのある方だと思いますが、それでも今期や来期の利益を当然考えるわけです。

でも、10代の彼女らはそんなことを考えない(笑)。「私が生きている2050年の世界はどうなっているのか」にしか議論が集中しないことが私たちとしては理想ですが、理想と現実の間に大人はどうしても挟まれてしまう。

私がCFOの条件を18才以下にした理由は、18才以上の人だと起業やインターンシップなど社会参画ができますが、18才以下の人だと起業もできるけどまだそのことを認知していないし、場を与えてあげることで、責任を取らなくて良いけど自分の未来に責任がある状態が生み出せているのは本当に彼女たちにとって意味のあることだと思います。

私たちにしてみれば、ペットボトル商品を全部やめるのは絶対に自分達では意思決定できなかったことです。売上を捨てることになりますから。もう1つは、私たちはスペシャルワンやオンリーワンになりたいわけではなくて、社会を変えたい。日本中や世界中の会社がなるべく同じ志向になれば良いと思っています。1兆円クラスの大企業重役の方が「これすごく面白いね。話聞かせてよ」と言って1年半経つのに結局誰もやらないじゃないかと。

本当は皆にやって欲しかったし、私たちが変わるということではなくて、子どもや孫の世代から変わろうということを社会実装したかった。これは皆コピーペーストできると思っているので、その2つの理由からこの世代を選んでいます。

森山

でも、なかなかハードルも高いのでしょうね。

永田

もう時間の問題だと思います。2030年で世界の労働人口の75%はミレニアルズに変わる。この世の中を構成している資本主義に参加している人は、経済学的に言うと資産家か経営者か労働者のいずれかですが、資産家は年老いても参加しやすい中で労働者が75%変わるという意味をどう捉えるか。

これは消費者が変わることでもあるし、会社は優秀な人間がいればいるほど優れた組織になるという仮説があるとすると、ミレニアル世代の多くの人が企業を選択する理由は社会性やサステナビリティに切り替わっているので、会社自体がサステナブルに変わらないと優秀な人材が入らない=経済的にも発展しないことが目に見えている。

なので、賢い経営者ほどそちらに切り替えるはずです。仮に心の底からサステナビリティが大切と思っていなくても、経済合理性的にそっちに変わった方が得だともう分かっているはずなので、あと5年もすれば否応でもやらざるを得ない人たちが出てきて、世の中の変化が起きるのではと思っています。

正忠さんも「地方の人がネットで商店をやるなんて何言っているの?」という時代からスタートしていますし、流郷さんだって虫を食うなんてふざけるなというところから始まるわけですよね。

楽天は間違いなく世界を変えたし、ユーグレナ社は150億円分人に微細藻類を食べさせたわけですよ。それぐらい人のパーセプションは変えられるので、今日これを視聴している方は、そういう視点で企業を選ばないと5年後にはダメな企業になっているリスクがあるのではと思います。

流郷

温暖化ガスも含めて顕在化している問題はもちろんですが、それに限らずサステナブルをすべての産業に入れ込んでいかなければ今後その産業は変わっていけないし、その産業を支えることもできなくなると最近強く感じます。

私がこのリアルテック領域に入った2017年11月の頃と較べてESG・サステナビリティ投資という言葉が躍っているのが現状です。これが定着してくるのがあともう少し先だろうなと、永田さんが先ほどおっしゃったことをまさに私も感じています。

私達はハエを扱っているので大体皆にドン引きされますが(笑)、以前は「ハエとゴキブリは一緒だからテレビでは映せないよ」と言われていたのが、最近はNHKや様々なメディアから取材依頼が来るようになり、この2年で時代も消費者のマインドも大きく変わっているので、産業や企業側も動かざるを得ないと思いますね。

森山

流郷さんも永田さんも時代の先端にいて、そういう方々にお会いすることがすごく多いと思う一方で、まだまだその流れに乗っていない方もマスでいらっしゃり、そこがシフトしていくために必要な「より良い」ものに対して共通認識を持つことが難しいポイントだと思います。サステナビリティやESGが今後どう広がっていくのか皆さんのビジョンを聞いてみたいです。

流郷

もっと単純だと思うのですが、サステナブルが良いとかではなく、次世代が良いと思うものがやはり良いですよね。次世代が本当に求めるものを私達大人が責任を持って次世代と共につくっていくべきだと思います。何でもこじつけのようにサステナブルと付けてしまいがちですが、次の世代が本当に良いと思うかどうかが一番の指標だと私は思っているので。これは母親になってすごく感じたことですね。

小林

森山さんがおっしゃったように、永田さんや流郷さんが日々接している人達はかなりの最先端を走っていると思います。2年前にアースモールというサステナブルな商品だけの売場を楽天市場の中につくったのですが、当時全体で2億5千万点ある商品のうち、サステナブルな国際基準に則っている商品に絞ったら7,000点のみになりました。

私はショッピングはエンターテインメントだと考えているため、100万点ないとお客様に選ぶ楽しみが提供できないと考えており、100万点という目標を掲げたものの、現在お恥ずかしながら50,000点しかありません。

事業者さんにアースモールのコンセプトを話すと賛同いただくのですが、現実問題として「1500円のTシャツはすごくサステナブルだと言われても実際には1000円のTシャツを買うお客さんが多いから、お客様がそちらに変わってきたら俺たちもシフトしていくよ」と言われてしまいますし、お客様に話をすると、「エコフレンドリーってすごく大事ですよね。

でも、うちは子供が2人いて可処分所得もそんなに多くないので、そのうち世の中が変わってきたら私達も変わります」と言われてしまいます。1997年の時には「ネットショップって何?インターネットって便利なの?」「雑誌にクレジットカードの番号をパソコンで打ち込むなんて危険だと書いてあったので、やりません」と言われてましたが、10年20年経ったらそれが当たり前になった。

私はその価値観の変化を経験しているからこそ今回も絶対シフトできると2年前に思ったのですが、意外に時間がかかってます。永田さんがおっしゃったように、人々のライフスタイルや価値観は時間を経れば変わるけれども、まだまだ一般の方は永田さんや流郷さんが見ている世界よりも限られた情報リソースで生活されているので、なかなかリアリティを持てていないですね。

永田

世界が変わるのは、人の意識が変わる時かテクノロジーが変わる時のどちらかだと思っています。コンシューマーの意識を根本から変容するのはまず無理だと。電力ひとつ取っても、自然電力の価格が高い方を選ぶのがマジョリティになる日は多分来ないと思います。

そこに対して私たちの考えは「意識の外側を実現しよう」という話で、誤解を恐れずに言うと、今日このセッションを視聴している100人の方は人口の中のトップ5%の生活と教育を受けていると思います。

その中のアントレプレナーシップを持った一握りの人達が社会を改革していくと思っていて、「今日の100人の人達はどっち側に入るのか」が最初のテーマだと思いますね。年収1500万の人が1600万に上げるために汗をかくのか、一握りの活動をして世界を変えようと動いたことを人生が終わる時に振り返ることができるのか、私にとってそれは人生の幸福度が全然違うところです。

世界をより良くするところに人が集まっていけば、実際に1億2000万の人間の意識が変容しなくても世界は変えられる。今回宇宙に民間飛行機が飛び立ちましたけど、20年もすれば正忠さんは宇宙から中継していると思いますよ。

人は1年くらいの変化率で見てしまいますが、5年・10年タームで振り返ると信じられないレベルの変化が起こるのは間違いないので、結果的に世界は変わります。その上で、自分が変えていく側になるのか、知らぬ間に変わっていた側になるのかという選択肢をどう取るか。残念なことに地球の環境問題の根源を止めることはもう不可能だと思っていて、2030年に折り返し地点が来ます。

今私たちが過ごしている地球はもう遺せない前提で私は生きていますが、その上で遺したいものは思想ですね。ひたすら大量生産・大量消費してお金を稼ぐことを是とする世界ではなくて、「自分達の生活と他の誰かの生活とのバランスが取れている状態のほうが幸せだ」という価値観を遺すことを、自分たちがやらなくてはいけないことだなと思っていて、通帳の金額や売上、時価総額が増えていくことが幸せの指標であり続ける人類を遺してはならないというのが私の基本的な価値観ですね。

小林

私がCWOを名乗っている理由はまさにそれです。社会が定義したWellや、親や先生が教え込んできた高年収・良い会社・良い大学・良い生活みたいなWellに縛られて、それはあなたにとって本当に良いの?という自身のWellが認められていない。

次世代へより良いバトンを渡していくという意味では、「自分らしく生きていいよ」と受け容れてくれる社会をつくることなのかなと。皆が成長しなければいけない、売上が伸びなきゃいけないとなると、そこと違うことが怖くなってしまう。

自分らしく生きる道や、それを満たす仕事はきっとあるのですが、意外と自分自身では見えないことも多い。本当に自分がやりたいことを言語化できずさまよったりする。そこでディスカッションパートナーとしてクライスさんのような存在があると、「こんな業態や面白い仕事もあるのか」という場が見えてくるのでは。

皆が自分らしく生きていける場所を見つけられたら、次の世代の人達もそこに軸足を置くことができ、「就職ランキング上位の会社に入れた自分が幸せ」ではなく「自分らしく生きる場に出会えた私が幸せ」と思えるのかなと。

永田

そうでないと、1位以外全員不幸になってしまいますよね。すごく不思議なのですが、資産を何千億も持っていてもまだ100何位だからと思っている人がいるじゃないですか。そこの評価軸って青天井ですよね。

逆に言うと、スポーツ選手などで努力し続けて毎年1位を取り続けられる人もいてすごいというのも事実ですが、その1つの軸だけで生きていくと相対比較で不幸になりがちだろうなとすごく感じます。

なので、自分の幸せ軸を見つけることは常に大切だと思いますし、私は究極見つけるものでもないという結論に至っています。自分で決めてしまえばいいのだと。自分自身、環境も貧困も元々問題意識なんて持っていませんでしたが、自分の父親や周囲を見ていて、何かひとつに熱中するとか何かを信じて突き進んでいる状態が幸せだということは分かっていたのですがそういう何かに出会うまで歩き続けるのはほぼ不可能で、じゃあ自分でその何かを決めるということは意外と大切ではないかと。

私は結婚をしておりますが、たとえば、運命の女性を探し続ける旅なのか、それとも今今横にいる女性を絶対に幸せにすると決めるのかという、自分は後者のほうが幸せになれる可能性は高いと思っています。同じように仕事もやりたいことも自分で決定できるのではと思っていますね。

森山

せっかく結婚の話も出たので(笑)。

何かを信じると決めて、熱中している状態が幸せだと知っているというのは、結婚に通じるものがありますね。信じるものを決めたらできますが結構決めるのが大変じゃないですか。こうなりたいというものを追い続けるほうが簡単に見えますが、実際に手に入れられるのかどうかは難しい。結婚も同じで、出会いが無い、運命の人なんていないとよく言われますね。

皆さんも愛に興味があれば、ぜひ「愛するということ」というフロムの世界的なベストセラーを読んでみていただければと思います。今まさに永田さんがおっしゃったようなことが書いてあり、愛するのもやりたいことを見つけるのも技術です、と。それは見つけるというか決めることですよね。

流郷

選択肢がある世の中で、自分が選択することがとても重要だと思います。

未来なんて正直分からなくて、自分としては今しか分からない。1秒1秒過去になっていくので、未来はベルトコンベアになって流れてきて今の自分に問いかけてくるものであり、自分で選択して決めていくだけに過ぎず、今の自分の軸を信じ続けられるか。

ムスカは昆虫テクノロジーの会社で、畜産の排せつ物を扱っている中で、今は畜産業自体が悪に捉えられていますが、肉が無くなって昆虫食しか選択肢のない世の中でいいの?と。幅広い選択肢を次の世代にちゃんと残せることが今やるべきことかなと私自身は思います。

私は次の世代に肉が無くなった世界を遺したいとは思わないので、畜産という産業に耐え得る形の昆虫産業なのか何かしらの産業でしっかりバランスが取れる状態をつくっていく、それがテクノロジーなのではと。

そういった世界を今生きている大人は次世代に遺していく努力をすべきだと思っています。「選択肢がある世界をつくる」ことが次の世代にバトンを繋ぐことだと思います。

森山

なるほど。せっかくなので、深めの話に入っていっても良いですか?人類が非常に長い間続いている中で、たったこの数十年で人口が爆発的に増えました。

これは食糧問題をテクノロジーによって解決したからなのですが、逆にそれを解決することで地球は大きな問題を抱えてしまった、それが環境問題です。僕らはこれからのデザインをする時代に生まれているということが、今日こういう話をしている理由だと思います。

30年前や30年後に生まれていたらこういう話はしないくらい、今の地球環境はドラスティックな状況だと思うので、この時代に生まれてきた意味やミッション、自分がこういう生き方を決めた背景、何で今この仕事をしているのか?を聞いてみたいと思います。

小林

私がたまたま観たYouTubeの動画でガツンと頭をハンマーで殴られた感じがして、見終わった瞬間に共通の友人をFacebookで探してこの人を紹介して欲しいと頼んでコンタクトを取った露木しいなさんという19才の女性がいます。彼女とZoomでミーティングをしたら、「同じ大学の後輩としてずっとお話したかったです!でも、大学は待ってくれるけど、気候変動は待ってくれないので昨日休学することを決めました」って最初にそう言われました(笑)。

永田さんが先ほど言ったように、誰がどう否定しようと人類はサステナブルな方向にハンドルを切らざるを得ない。でも、「今の社会が」「今の立場が」「家族の状況が」とか、色々な言い訳をしながら賢い人たちがなかなか動かない。

僕自身その子に言われても楽天を辞めているわけではないのですが、すごい行動力だなと思うし、若い人たちの優秀さや、「だって人生1回しか無いですし、限られていますから」という達観している感じが会社の愚痴を言っている大人たちよりも素晴らしく見えてしまった。

グリーンスクールという、インドネシアにあるすべて竹でできている学校を日本人で初めて卒業した女性です。ぜひお時間あったらご覧ください。(https://www.youtube.com/watch?v=rl9HoqepnPE

永田

15才の時に夏休みの小論文の宿題で「人生は、死ぬ時にガッツポーズをするためにある」と書いたことがあります。

これは環境問題に限らず、仕事ひとつ取ってもToDoではなく「熱中する」「やり切る」ことが自分にとって幸せなのだと気づいている中で、どうせ熱中して自分の人生を使うなら、自分が思うソーシャルグッドに時間を使いたい。自分は環境を何とか堰き止めなくては!というところからのスタートではなくて、後悔しない人生を歩みたい→何かに熱中しよう→自分の能力を使えて、自分が思うソーシャルグッドを選択していった、というプロセスです。

私のような凡人が取り得る幸せなプロセスがこれではないかと。創業メンバーの出雲と最初に出会った時に、彼は緑のネクタイをして「ミドリムシで世界を救う!」と言っていました。そういうアントレプレナーっているのですが、残念ながら多くの人はそうではない。

でもナチュラルボーンじゃないと熱中できないとか幸せになれないわけではないと私は証明したいので、それを体現し続けたいですね。。私はリアルテックファンドとユーグレナの両方をやっていて、すごく楽しいです。社会問題と言った瞬間にシリアスになるようではダメだと思っていて、毎日が楽しくて自分の承認欲求も満たされて、自分が思う社会変革につながっている状態を自分達で創るということかなと。

毎週行っている全社会議で「バイオ燃料の研究でこんな成果が出ました」と言ったら、健康食品を売っている営業からバングラデシュでソーシャルビジネスに関わっているメンバーまで皆が「嬉しい!」となれる状態はすごく幸せで、それが拡大していることも単純に楽しいし、日々の生活も楽しい状態があるから社会に立ち向かっていても幸せなのだと思います。

この長期的な追求と刹那的な幸せが両方揃っていると、今の自分のような仕事に結局たどり着くのかなと。もし1日中穴を掘り続ける仕事が社会を救うと言われても自分にはできない。

森山

それは秀逸なたとえ話ですね(笑)。刹那的な喜びが無いので。グッときますね。

小林

全力投球というのを冒頭でも言いましたが、とりあえず全力で何かをやると楽しいという経験を一回すると、中毒になってやりたいことをガンガン求め続けると思いますけどね。そこで、全力でやるからこそ結果が出て、そうすると更にまたやるという。僕は常に全力投球ですけど、バーッと話をし終えた瞬間の廃人ぶりときたら(笑)。

永田

今おっしゃっている全力は、オールタイム・オールデイズという意味ではなく、環境って結局地球のことではなく自分という人間を中心にした周辺状況のことだと思います。

20代の頃は適切な環境がつくれておらず、20時間×7日という生活を続けることが全力だと思っていた時代がありました。しかし、自分が最高に幸せな状態を維持することがベストパフォーマンスなのだと気づいてからは、働く時間の選び方や家族との過ごし方がまるっきり変わってきました。

そう考えると、「全力で生きる」ことは「全力で幸せになること」でいいのではないかなと考えています。その「全力で幸せになること」の中に、社会に対する仕事という意味合いもあるのですが、間違いなく幸福な人、自己犠牲の上に立っていない人の方が良い仕事をすると思っているので、熱中することと時間の使い方、周辺環境の作り方というのは、すべての時間を費やすという意味ではないということがポイントだと思います。

小林

今そう言われて思い出したのですが、そもそも20時間は働いてなかったな(笑)。やりたいことを20時間やっていたというか、上場した日の朝に区役所へ婚姻届を出しに行っているので。上場直前にちゃんと付き合っているわけですよね(笑)。

海外赴任中にも、家族に会うために全力で毎週シンガポールと日本を往復したりしていた。働くというよりは、やりたいことを全力でやるということですね。自分の中で大切なものが決まっているから、それができるようになるためにどうすればいいだろうということはすごく考えます。

流郷

私はひよっこみたいな人間なので、「何のために生きていますか?」と聞かれるとよく分からないとなってしまう。

ただ、子供がいる母親であり、自分に色々なタグ付けがあって、それが窮屈な生き方なのかどうかは分からないですが、自分の中で今やりたいことはここにあって、それをまっとうするしか能がないという感じですね(笑)。

悲壮感がある時もありますけど、それでもやり遂げたいことがある、やり遂げた自分を自分の子供たちに見せたいというのもありますし、そういう想いが私はすごく強いのかなと思います。

森山

お三方は肚が座っているなと感じますが、なかなか全力投球したいけど二の足を踏んでしまう、自分の幸せやどうしたいのかを決めるのが難しいという人も多いと思う中、皆さんのコツというか、どうやっているかお話いただけますか?

小林

やってみないと将来のことは誰も分からないし、自分が何に向いているかなんて分からないものだと思う。でも、やってみたら向き不向きが分かると思うから、四の五の言わずにやってみることで自分を知る。私はそんな生き方をしてます。もしかしたら不器用なのかもしれないですが、賢くないからこれ以外のやり方を知らないという感じです。

永田

自分はこんなことを言いながら1年間に30回くらい辞めたいなと思っていますよ(笑)。凡人なので、本当に苦しいけど楽しいというのがリアルなところです。四六時中ニコニコしたまま苦しいことも無く楽しい状態で仕事ができる人はいなくて、皆何かで苦しいのが大前提だと思います。

その上で、自分の幸せの形を想像できる人は、そこに対する選択肢やプロセスを踏めばいいと思う。これはToDoに近くて、港区のタワーマンションの最上階に住むのが幸せならば、その金が稼げる最短距離を歩く方がいいのではないかと。

自分の場合は逆で、Beingのほうと言えますが、「これはイヤ」ということは結構固まっているタイプでした。新卒の時も、めちゃくちゃ変な人が上司になったら不幸だなと思ったので、なるべく社員数が少なくて上司が選べる可能性が高い会社に入りたいと考えたのが最初の選択肢でした。

現在私は東京ではなくすごい田舎に住んでいますが、この生活が排除されるのは嫌だなと思っています。当社は働き改革の一環としてリモートワークを推奨しており、住む場所も働く場所も自由なので、リモートで仕事ができています。モノを売ったり、人に仕事内容を伝えたりする時に、心のどこかで「本当は違うけど」とか「嘘だけど」と思いながら仕事するのは嫌だとか、そういう「これがイヤだ」が決まっていると、意外と選択肢は広がりやすいなと思いながら仕事をしています。

流郷

もうおっしゃる通りで(笑)。今日私はお二人とお話するということですごく緊張していて、全力という話も含めて、冒頭から共感することの嵐すぎて頭の中がパニックです。

永田

私たちも今でこそ上場して社会的認知も増えてきたという状態ですが、10年前にユーグレナ社へ入る時、僕はほとんどの人に反対されましたよ。「金も無くて、ミドリムシをたくさんつくるなんてバカじゃないの?」と。ハエもあまり変わらないと思いますが、流郷さんがその人生を選ぼうと思った理由や周囲の状況の話に何かヒントがあるのでは。

流郷

私がムスカと出会ったのはPRコンサル時代でした。最初にハエの会社でPRをやりませんかという話が来た時に一度お断りしました(笑)

ただ私の中ですごく嫌な存在だったハエが有機物を分解して自然の豊かな土壌に戻す役割を担っていたことを知って衝撃を受けました。自然界について知れば知るほど、ハエを誤解していたなと思ってまずハエを通して自然に寄り添ってみたいなと、この会社にジョインしました。

いずれにしろ、子どもが80才になった時に面白いと思われている事業は、私が今やっていて子供たちに誇れる事業だと思うので、そういうことを考えて、今この会社の代表をしています。今はこの会社にとって私が必要なステージであるとそう思っています。

そしてそれを終えたら、そのステージに合わせて「バトンタッチしていくべきである」という考えを非常に強く持っています。一時期永田さんにすごく怒られた「暫定CEO」を名乗っていたのもそのためです。その法人のステージに合わせた適時適材適所が重要で、役割を終えたらちゃんとバトンを次に渡していきたいと常々考えていて、それは「暫定CEO」時代から今も変わらない私の思いです。

小林

永田さんが先ほど言ってくれたように、楽天も「ネットなんて無理じゃないか」「素人が金融やるなんて無理だよ」と言われてきて。野球も無理、英語化も無理、今は携帯事業も無理だよと言われている。

それで気づいたことは、無理だという人達はそもそも挑戦したことが無い人たちで、もし挑戦した上で「やってみたけど無理だったよ、大変だよ」と言うならまだしも、九割九分挑戦したことが無い人たちが否定してくる、つまりは聞かなくていいなと。成功されたら困ると思っているくらいに受けとめる。

なので、経営者が若手に与えられる環境としては、彼らの挑戦や提案に対して一旦やらせてみるのはありかと。ただ、会社としてそれをやった場合の最大のリスクだけ把握しておくべき。三木谷もよく言っていますが、「基本は失敗なんて恐れない、成功するまでやり続ければ絶対成功するから。

ただし、最悪のシナリオとして何があるのかを分かった上でやれ」と。このレベルならいけるというリスクの程度が把握できれば、挑戦させてあげてもいいと思います。

第三部:質疑応答

森山

「経営としてのコミットメントもありながら年に30回辞めたい気持ちもあるわけですが、苦しまずに仕事をして幸せになっていく方法は無いのでしょうか?」というのが次の質問です。

永田

1年に30回というのは言い過ぎたかもしれないですが(笑)。辞めたいというのは大体2パターンで、極限まで自分を追い込んで仕事をしても終わらないというピークの時と、根本的に経営陣と意見が合わないという時かと。

実は両方ともグッドなタイミングで、意見が合わない時は1秒後に多幸感に包まれる(笑)。直近でも自分が大事にしている倫理観、価値観に真っ向から意見がぶつかるタイミングがあって、だから私たちは成功するなと思ったのです。でも1秒間は「何だよ」と思う、この繰り返しですね。

自分の範囲内で思い通りにできる状態が続くことが本当に幸福なのかというとそうでもなくて、チャレンジを迎える時はやっぱり苦しいし、乗り越えるから楽しいという繰り返しなのかなと。自分自身は、苦しまずに幸せになるというよりも、山を登るのもランニングも何事にもその繰り返しはある気がしますし、その先に何かがあると思えるから楽しいのではないかと思います。

小林

永田さんの話を聞いて思ったのは、すごくえらいなと。周囲をイエスマンで固めたら毎日褒められてとても心地いい日々が送れるけれど成長が止まる。

だけど、ちゃんと1秒間カチンとくるような対極の価値観や意見を持っている人を周囲にちゃんと置いている。やはりそうやってぬるま湯で心地いいだけではなく、他流試合を定期的にしていくのは大事だなとあらためて思いました。

永田

どこで自分達のチャレンジが終わるのか、登る山の高さが変わるのかはそこで決まる感じがしていて、自分の時間の使い方と付き合う人の関係性が変わる時に山の高さが変わっていくのだろうなと。

それは決して高い山に登るべきということではなくて、自分の人生においては、社会インパクトを最大化していきたいという山を登るためにはこういう環境が必要だと。妻は「家族のためだけを考えたら、そこまでする必要ある?」と絶対思っていますよ。

なので、そういう色々な環境の中でも生きていかなくてはいけないと思っていて、でもその中でも幸せだと胸を張れる環境を自分でつくっていくことが大切だと思いますね。

森山

カチンとくるものを飛び越えて子ども世代のCFOが存在するのも面白いと思いました。

永田

人間なので、カチンとくることはありますよ。こんなに頑張ってやっているのに、「何でこんなことやっているのか?」とか言われたら「そんなこと言う?」と思うことはありますけど、でも楽しいなぁと(笑)。

森山

面白いですね。では次の質問に行きます。「次世代へのバトンというところで、自己世代の否定とのバランスについてどうお考えですか?」。

永田

まず、サステナビリティについて次世代のほうが志向性は高いのはなぜかというと、先輩世代が生活欲求を充分満たしてくれる社会をつくった事実が存在していて、私たちの世代は生きるために困ることはほぼ無いからこそ、社会性や好奇心とか芸術性などにより意識が向けられる世代が構成されたと認識しています。

ということは、先輩世代に対するリスペクトと感謝から始まると思います。それが世代間闘争の話になるのは本当にイケてないと思っていて、多くの人間がいる世代をひっくるめて批判し合うとか、マスで捉える発想はあってはならないというのがベースにある。

私は今年38才になりますが、同世代のJリーガーはほぼいなくなりました。サッカー選手がいずれコーチや監督になっていくのは当たり前だとすると、ビジネスの世界におけるそういう変化は決して否定や劣後ではなくて、正しい社会全体をつくっていく構成だと思います。

一方、今回アメリカで77才の大統領が誕生し、何才になってもバッターボックスに立てることが証明されたと思っていますので、自分がバットを振ることだけが社会的承認ではないことも受け入れつつ、それを次の世代がリスペクトしている状態が全世代的に幸せになる方法なのではと。

若い世代と話していて思うのは、まだ何も成し遂げていなくても教育をやりたいと考える人が結構いたりして、既に自分がバットを振るだけがすべてではないと価値観が多様化しているのかなと。バトンタッチが自世代の否定ではないことの証明になったら良いなと思います。

森山

次の質問ですが、アントレプレナーとNPOでやる人の違いはあるのでしょうか?

永田

私たちの世代ってちょうどNPOがたくさん生まれた世代ですよね。

NPOは出資者がノンプロフィットなだけで、欧米のNPOでは高い給料で働いている人達もたくさんいます。よって、その組織への出資者にリターンがあるかが株式会社とNPOの違いです。

その上で私が感じている違いは、NPOは出資者に還元しなくていいので収益もすべて社会のために使える代わりに、日本では大規模に資金調達がしづらいというメリット・デメリットでした。

同じ時代にNPOや株式会社をつくった人たちに今話を聞くと、まさかこの世の中が社会的意義やインパクトを理由に株式会社にお金を出す社会になるとは15年前には思わなかったよね、と。

第一生命さんはSDGsが無い会社には出資しないと宣言していますし、ソーシャルボンドに出資しているのはほぼ30~40代です。15年前にNPOじゃないとできないと思っていたことが、株式会社という外部ネットワークで資金も使える世界で力を発揮し始めたという意味で差は無くなってきたと思うし、NPOにもこんなにお金が集まるようになった点では、どちらもミッション設定さえあれば社会的意義のある良い仕事ができる。

一方で、働く人達の報酬の仕組みは株式会社もNPOも変わらないと思います。

森山

ありがとうございます。「社会のためになる事業に関わりたい気持ちはあるが、そこで得られる報酬との狭間で悩みます」という質問が来ています。よく年収を半分以下に下げてチャレンジするのはハードルが高いという話がありますが、皆さんどう思いますか?

流郷

ハードルが高いと思ったら、やめたらいいのではないかなと思ってしまいます。人生における優先度が書かれていることに表れている気がするし、本当にソーシャルビジネスに関わりたいと思っているなら、そういうことはあまり考えないのかなと思いますし。ただそういう社会のためになる事業が当たり前になれば、そういう悩みもなくなりますけどね。

小林

僕もそう思います。逆に言うと、それだけやりたくないことなのだと思いますね。

永田

仮に子ども3人が私立中学に通っている状況があるとすると、今と15年前とでは変わった側面もあると思います。例えば、楽天に入社したら今年収1500万の人が1500万もらえる機会も充分あるし、Well-Beingやソーシャルビジネスに関われるチャンスもある。

ソーシャルインパクトがあることはフィナンシャルリターンにつながる社会になると信じているので、良いことをするために年収を3分の1にしないといけない世界は維持されないと思いますね。

ユーグレナ社でも未上場時代に年収を3分の1にして入ったメンバーは上場して年収が何倍にもなっているし、年収を2-3割下げて入社して、ソーシャルインパクトという点で幸福度が上がった人もいる。

なので、確かに1500万の年収を3分の1に下げて社会に奉公しますという一点だけで切り取ってしまうと非常にハードルが高いし、家族としても無理かもしれませんが、5年先を見据えて話ができるかが重要だと思います。

成長拡大しているソーシャルインパクトの大きい会社は、既存のオールドエコノミーで社会的に負荷の高い会社を上回るに違いないので、自分の人生の投資の仕方は未来の目利きも踏まえて考えるべきかと。間違いなく今の時代はソーシャルが重要なファクターになると思います。

森山

最後に、2050年に大人になる子供たちに向けてメッセージをそれぞれお願いします。

永田

自分の子どもが3才と1才なのですが、相対的価値観ではない人生を送らせてあげたいと思っています。

一方で、オリジナリティが無いと苦しい世界にもしたくない。苦しみと幸せは行ったり来たりするけれども、子どもに対しては彼ら自身にとってのオリジナルな幸せが実現できるようにしたいと思います。そこは3才から徹底して頑張っているつもりです。

小林

先週、”こんまり”こと近藤麻理恵さんのパートナーの川原卓巳さんと対談しました。12月に「Be Yourself 自分らしく輝いて、人生を変える教科書」という本を出すそうで、自分らしくあなたの人生をというメッセージなんですが、本当にその通りだなと。

自分らしくいこうとすると障壁や邪魔が入って迷ったり悩んだりしますが、私は子供達や社員達、正忠奨学金の学生達にも「サポーターとして付いているから好きなようにやっていいよ」と言っています。誰にとっても1回しかない人生なので自分らしく全力で楽しむのがいいと思っています。

流郷

難しいですね。

私は60才だしまだ生きていると思うので、最大限今を生きる子供たちにより良い未来を残すためにを尽力しますとしか言えないな。未来がどうなっているかは分からないですし。その時々でいくつになっても次の世代を最大限でサポートするというのは絶対にやり続けたいことなので、それを約束するとしか言えないですね。

構成:神田 昭子

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