今回のケースは、“年収UP“を転職の動機として活動をスタートしたHさんのお話です。 以前、某転職情報誌に「年収をUPさせる給与交渉術」というテーマで私が取材を受けた記事が掲載されました。その雑誌を見た沢山の方々から転職の相談にのって欲しいという連絡があったのは、非常にうれしい出来事でした。そんな方々の中の一人にHさんがいらっしゃいました。スラッとした体型の好青年、見た目でも得をしている方です。
Hさんは、一流大学を卒業後、ハイテク・IT関連の大手企業A社に就職し、A社一筋約7年間頑張ってきました。専門は学生時代から得意としていた情報技術の研究・開発です。仕事環境に大きな不満はないのですが、年齢的に大きな節目となる30歳を迎えるにあたり、色々と考えるところがあるようです。先ずはジックリお話をお聞きすることにしました。
Hさん曰く、“今まで、A社ではそれなりの成果を挙げ、充実した日々を送ることができていると思います。大企業ですので研究予算も結構ありましたし・・・。” 更に人間関係も全く問題なく、周囲との信頼関係もバッチリとのこと。
はて?果たしてHさんは何故転職を考えているのか?
勿論、例の雑誌を見て連絡してきた方ですので、年収をUPさせたいという願いがあるということは当然ながら予想はしてました。とは言うものの、よっぽど今の給与が劣悪でない限り、単純に給与をUPさせるためだけに転職を考えるものか?という疑問が頭から離れずにいました。
Hさんは“大学時代の友人がかなりの年収UPでベンチャー企業に転職しました。だから自分も負けないくらいの年収UPで転職したい。今の会社では年功型なので劇的な年収UPに期待できない。”というのです。具体的には現在の約600万円から900万円が目標とのこと。
“さすがに300万円UPは難しいでしょ う“と私。
でもHさんはいたって平然と、 ”友人はかなりUPしましたよ。“ とまたもや友人の話。
私は、”例えば、中途で入ってきた何某さんは、若いのにかなり好条件で来たらしい等の噂は実際に結構ある話です。そうなると、何某さんは周囲の風当たりという余計なプレッシャーまで背負って戦わなければならないことになり、相当高いパフォーマンスを上げないと周囲から認められないという苦しい立場に晒されます。それよりも、現状よりも少しUPした年収で転職し、その後に期待以上の成果を出し、自ら年収UPを勝ち取る方が健全だと思いませんか?“年功序列型の大企業では難しいですがベンチャーでは年齢なんてあまり関係ないですからね。”
Hさんは一応“はぁ、そうですかぁ”と心なしか肩を落として聞いていました。
転職の動機は人それぞれですので、良い悪いということで語ることは難しいのですが、正直なところ、友人の一例を挙げて、だから自分も、というHさんのお考えには少なからず違和感を持った私は、転職活動のサポートは最善を尽くすことを誓う一方で、このままで無事に転職できるかという一抹の不安が過りました。が、ここはひとまずじっくりとお付き合いすることにしました。
数日後、Hさんのご経歴を生かすことができ、成長性のある某IT関連ベンチャー企業を数社ご案内したところ、その内の1社(B社)にHさんが興味を持ち、応募することになりました。この会社なら現在よりも充分UPできそうだ(300万UPは絶対あり得ないが・・)。元々非常に優秀な方ですので、即書類選考を通過して1次面接へ。面接に臨むにあたり、心構え等について色々と教えて欲しいという連絡がありHさんが来社。
開口一番、どのくらいの条件が出そうですか?と期待に心躍らせて聞かれたのには参りました。私は“Hさん、これから面接がスタートするところですので、具体的な条件の見通しはまだわかりませんよ。それよりも仕事や会社にフォーカスして臨まないとダメです!”とキッパリ。そして給与の話を自分から絶対に切り出さないことを約束していただきました。
B社1次面接の日、私はなんとなく落ち着きませんでしたが、翌日B社人事担当とHさん双方から、面接の感触が良かった旨連絡を受けて、ホッとしました。どうやらHさんは私のアドバイスをしっかり守ってくださったようでした。
そして翌週。Hさんより、1次面接の報告兼2次面接(最終面接)に臨むにあたり、また会って欲しいという連絡。
“前回の面接ではB社人事担当からの会社説明に続き、現場のマネージャークラスの方に仕事内容等についての説明を受け、また、私の経歴や今後やりたい仕事等について質問を受けました。面接を通じて感じたのは、B社では自分の経験を生かしながら、更に新しい分野へのチャレンジも出来そうで、また、会社がすごいスピードで動いているという印象を強く持ち、非常に興味が高まりました。”とHさん。私はHさんの大きな変化に驚きました。Hさんの関心が、ついこの前までの年収大幅UPへの執着から、仕事やキャリアそのものに移ったようです。
恐らく、初めての転職活動、それもベンチャー企業での面接という今まで経験したことのない場を経験し、強烈なほどの新鮮さと、何か得体の知れない期待感みたいなものを感じたんだなと私は勝手に想像しました。そして、B社の社長+取締役との最終面接もクリアして、無事内定がでました。気になっていた年収条件は、当初の希望900万には当然及ばなかったものの、750万円という充分破格(私はそう思います)の提示。Hさんに、内定が出た旨と条件内容を伝えたところ、この時点では既に900万円希望などということはこれっぽっちも頭にない様子で、大喜びで入社を約束したのです。
後日、Hさんから聞いた話ですが、最初の面接の際にB社の現場マネージャーから、自分は入社してから1年で100万円以上年収がUPしたという生の話を聞いていたそうで、それが効いたみたいでした。私も同じ様な話はしたつもりでしたが、そのときにはHさんの中ではあまり実感がなかったのでしょう。少々寂しい気もしましたが結果オーライということで納得した私でした。
今回のケースで、Hさんは友人の成功例を挙げて、自分も全く同じような成功を狙ったのが最初の動機でした。結果的には、Hさんは面接プロセスの中で自ら考えを修正して、新たなキャリアへの道を選択されました。Hさんのように、最初は“とにかく年収○○万円以上で転職したい“ということをお話してくる方がいらっしゃいますが、自分の価値観と会社の価値観(ビジョン・組織・風土・マネジメントスタイル等々)とをしっかり照らし合わせたり、中期的なスキルアッププランを立てることよりも、年収条件を重要視してしまうと、結果的には転職が失敗してしまう可能性が高いと思います。
(2011年12月25日)
今回の教訓&アドバイス
転職と同時に給与が格段にUPするというケースは稀
面接では自分から先に給与の話をすることはタブー
入社後の自分の頑張りで、給与UPを勝ち取るという気持ちが大切
隣の芝生は青い(そう見える)。現実的なものの見方を失わない
会社と自分の価値観や方向性を確認することの重要性
柔軟な気持ちの切り替え
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