何かを決断する際に、意識していようがいまいが必ず判断の軸になっているものがあります。
そして、キャリアの選択(就職・異動・転職)におけるそれは、キャリアアンカーと呼ばれています。
キャリアアンカーとは米国の心理学者「エドガー・シャイン」が提唱した概念で、自分のキャリアを選択する際に、どうしても放棄することができない最も重要な価値観や欲求、能力のことであり、シャインはこれを「専門コンピタンス」「経営管理コンピタンス」「自律」「安定」「起業家的創造性」「社会への貢献」「チャレンジ」「全体性と調和/ライフスタイル」の8つ に分類。
今回は、このキャリアアンカーに纏わるケースをご紹介します。
私達が転職に関する相談でお会いさせていただく方々は、実に様々な価値観や志向をお持ちです。そしてそれは転職活動中に変化します。いや、実際には本質的な部分が変化しているのではなく、 ご本人があとから気づくというのが正しい表現です。
キャリアアンカーが二転三転したうえで転職をされたAさんの例を挙げてみたいと思います。
くどいようですが、キャリアアンカーが変化したのではなく、自分自身でさえ本当のキャリアアンカーに気づくのに時間がかかることがあるのです。
さて、Aさんは法人営業として約10年間頑張ってきましたが、会社の事情で転職を余儀なくされることに。
せっかくなので、今後はもっと自分が成長できる、大きな仕事をしたいという前向きな気持ちで転職活動をスタート。
早速数社企業をご紹介し、ほぼ全て書類選考を通過し面接へ。
各社それぞれ社風も違えば、営業対象市場も異なります。
ある程度選考が進み、ほぼ3社に絞って検討したいという段階で一度ご来社いただき、今後の進め方について方向性のすり合わせを実施。
まずはAさんの率直なお気持ちから。
「今までよりも大手企業を顧客とするB社が一番チャレンジングで、志望度が高いです。
続いて、会社の理念(地域や環境への貢献等)への共感度が高いという理由でC社が続き、仕事内容が今までとあまり変わらず、残業も殆どなく年収も3社の中では一番低そうなD社が最下位。」とのことでした。
では、B社を本命として、最終選考に向けて頑張りましょう!とその場は終了。
そして、3社とも選考が順調に進み、いずれも内定が出る見通しとなりました。
ここで、再度Aさんにお気持ちを確認したところ、少々変化が。
理念への共感度が高いC社が一番気になるというのです。なるほど、それはなぜですか?と聞くと、 「はい、やはりこれから長く勤めるにあたり、会社の考え方や価値観・理念に共感できるほうが、続くかなと思うようになりました。」
なるほど、それはその通りだと思いますし、特に否定するつもりもなく、ご本人の意思を尊重することにしました。
そして翌週、3社とも具体的に内定が出て、条件も出揃ったところで最終的にどうするかの打ち合わせ。このとき、Aさんからの全く意外な言葉に耳を疑いました。
「実は、D社に決めようかと思います。」
「えっ?Aさん、D社だと今までとあまり変わらないんじゃ・・・?しかも給与がダウンですし、いいんですか?」
「はい、いいんです。」
Aさんの気持ちにどういう変化が起きたのか。
どうやら、いざ転職が現実味を帯びてくるに従い、チャレンジや変化よりも、安心・安全、そして家庭生活とのバランスを強く求める自分に気づいたようです。
最初に成長とか、大きな仕事と希望といったのは、そうあるべきという思いにコントロールされていたにすぎませんでした。
「キャリアアンカー」でいうところの、「安定」と「全体性と調和/ライフスタイル」がAさんにとっての真のキャリアアンカーだったのです。
最初に、Aさんからチャレンジングなエネルギーを感じた私としては、正直寂しい気持ちはありましたが、自分自身で決断したAさんの今後の人生(仕事を含む)がハッピーであることを心よりお祈りしています。
(2013年4月15日)
今回の教訓&アドバイス
キャリアの選択時には、自分自身のキャリアアンカーとしっかり向き合うこと。
真のキャリアアンカーか、こうあるべきという思いに惑わされていないか。
色々なタイプの会社に実際に応募することで、自分の気持ちが見えてくる。
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