「安定」という言葉に惑わされずに本質的な決断を
日々色々な方の転職相談に対応している中で、「安定」という言葉をよく耳にします。これはマズローの欲求5段階説でいうと「安全欲求」に通じると考えます。生理的欲求に続く低階層の欲求、つまり、人間としてごく自然な欲求として多くの方が持つものと理解できます。
私自身も、安全欲求をたっぷり持ち合わせており、むしろ持っていない方はいないのではないでしょうか。それなのに、転職相談の場で「安定」という言葉を耳にした途端に、何故か身体がネガティブな反応を示すのです。前述のように、「人間として当たり前のこと」なのにです。
転職の場面で安定志向はマイナスイメージ!?
では、一体なぜなのだろうかと考えてみたところ、安定=受動的なイメージが潜んでいるというのが一つの答えでした。「安定した会社を希望します」と聞くと、少々大袈裟にいえば、生き方そのものに主体性が感じられなくなるのです。
つまり、この仕事で生きていくんだ、という覚悟や、こういうことを成し遂げたくて転職するんだという志がみえず、転職先でちょっと辛いことがあると、また転職を繰り返すことになるのでは?という懸念が浮かんでしまうのです。
「安定」と「やりがい」、どっちを選ぶ?
この安定という言葉に惑わされずに非常に良い決断をされたケースを紹介させていただきます。以前転職をお手伝いさせていただいたAさんは、B社から内定が出るも入社決断を躊躇し、相談にいらっしゃいました。ちなみに、B社は一般的な民間企業とは違う特別な法人で、雇用が有期。
つまり、いずれまた転職をする日がやってくるという特殊性がありました。勿論、Aさんは応募の段階でそれを承知して選考を進めていました。事業の社会的な意義と仕事内容そのものにそれだけの魅力があったのです。
Aさんに、“B社への入社を迷っているポイントは何ですか?”と尋ねたところ、
“もう1社ベンチャー企業からも内定をいただいていて、仕事内容としてはB社に魅力を感じているものの、やはり、有期雇用という点が今になって気になってしまって・・・。いずれまた転職しなければならないことになるので・・”とちょっと不安そうなAさん。
真の「安定」は雇用形態ではなく、経験やスキルを身につけること
“なるほど、お気持ちはよく分かります。しかし、見方を少し変えて考えてみましょう。
先ず、B社にはAさんがやりたい仕事があり、大きな遣り甲斐を感じるというのは今も変わりませんか?“
“はい、そこは変わっていません”と、Aさん。
その気持ちを確認した上で、B社には本気でやりたい仕事が待っている、魂を込めて打ち込む日々が目の前に開けているのでは?ということを話し、そこで得られる経験・知識・更に人脈が大きな財産になるということ。
そして、今よりも数段逞しくなったAさんなら、次に転職をする際にも世間が放っておかないということ。また、無期の常用雇用であっても思わぬ事情で早期に転職を余儀なくされることもあることを考えると、なおさら、次の会社で何を成すのか、何を得るのかが大事になってくると言えます。
Aさんは強く共感されたご様子で、先ほどまでとは表情がガラッと変わり、その目は希望に満ち溢れ、未来を見ているように思えました。B社への入社を気持ちよく決断されたAさん。後日、B社への入社後に様子をうかがうと、“日々遣り甲斐を感じながら楽しく忙しく働いております。とても幸運なご縁をいただきまして、本当に有り難うございました。”という何とも謙虚かつ嬉しいコメントをいただき、あの時背中を押して良かったとあらためて思いました。
私たちの仕事は、候補者の方の人生にとって非常に重要な決断の場面に立ち会う仕事です。共感したり、励ましたり、時には叱咤激励したり、そして今回のように背中を押すことも。でも最後に決めるのはご本人。勇気ある決断をされ新たなチャレンジに一歩足を踏み出す姿を目の当たりにすると、何とも言えない感動を味わいます。
(2015年6月19日)
今回の教訓&アドバイス
真の安定は、自分自身が力をつけること
志に基づいた方向性に進むことが大事
自分の人生を主体的に生きる
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