日々多くの転職を希望される方々とお話をさせて頂いておりますが、皆さんが、それぞれ様々なご志向・価値観のもと、ベストな企業を探して活動されていらっしゃいます。企業選びのポイントもそのひとつ。今回は企業選びにまつわるJ さんのケースをご紹介いたします。
J さん(36歳)は都内有名私大を卒業後、某大手外資系ITベンダーに就職されました。約12年在籍した後、日系大手ハードベンダー、外資系大手ソフトベンダーと、誰もがご存知の有名企業にて、一貫して営業職として活躍されていました。マネジメントも行い、充分な実績を残すなど経歴もしっかりとした方でした。直近の2社での在籍期間が短いところが疑問に思いましたが、まずはじっくりとお話を伺うことにしました。
お会いしてみると、大変優秀な方で人物的にもとても魅力的な方でした。
「ところで、J さんはどうして転職をお考えになっていらっしゃるのですか?」
「今まではセールスとしてチームを率いて結果を残してきましたが、そろそろ次のステージにシフトするタイミングだと思いまして。今後は今までの経験を活かし、プロダクトのセールス・マーケティング全般に責任を持てるポジションなど、より大きな役割、責任を持って仕事ができる環境で頑張っていきたいと思っています。売るだけでなく、売る仕組み作りから責任持ってやっていきたいのです。」
「なるほど。そうですね、 J さんでしたらそれだけのお力はあると思いますし、年齢的なことを考えてもこのタイミングでシフトされた方がよろしいでしょうね。」
「ええ。前回の転職の際もそう考えてはいたのですが、もう36歳になりますし、今回は何とか良いところを見つけたいと思っています。
ここで、私はふと直近2社の在籍期間の短さが気になりました。
「ここ2社での在籍期間が短いですが、今の会社でご希望の仕事をやっていくのは難しいのですか?」
「はい。入社前の話とは、仕事内容が大きく違っていました。その前の転職のときも同じです。入社前の話と違っていたため希望の仕事に就けず、結果的に2社とも短い期間での転職になってしまいました。」
「そうですか、それは残念でしたね。」
「私も好きで転職しようと思ったわけではないんですが・・・」
“入社前と話が違う”というJさんの言葉が気になり、私は尋ねてみました。
「面接時に上司になる方とはじっくりと話をされましたか?」
「ええ、もちろん一通りは話をしました。ただ、あまり突っ込んだ話まではしていなかったですね。先方も私のことを気に入ってくれていましたので。」
「そうですか。でも誰と仕事をしていくかというのは大切なことですよね。話の中で色々な情報も取れていくと思いますし、検討材料としては重要ですよ。」
「確かにそうですが、企業の方は面接のときには良いことしか言わないと思うんですよ。それよりも客観的な情報の方が大切じゃないでしょうか。」とJ さん。
話を伺うと、今までは会社の知名度や評判などいわゆるブランドや、家族、友人知人などの意見をもとに会社を選んできたようです。さらに、
「どこで働くのかということがとても大切だと思いますし、その方が自分のキャリアに対してもプラスだと思うんです。そういった意味で、客観的な意見で選んだ方が間違いないかなと思っています。」
確かに客観的な情報、意見も大切ですが、周りからの情報には限界があるのも事実です。したがって限られた情報での検討にも限界があります。実際に働くのは自分ですので、“どこで働くか”と同じくらいに(むしろそれ以上では…)、“そこで何が出来るか”“誰と仕事をしていくのか”が重要だと思います。 企業も採用に関しては重点を置いています。その方の役割が大きくなればなるほど採用がビジネスを左右することになりますので、誤解の無いようにきっちりと話をしようとします。他人のフィルターを通した情報だけでなく、直接自分自身で積極的に得た情報からこそ新しい発見があると思いますし、決断できるだけの情報がつかめるのではないでしょうか。
私も少々熱が入ってしまったようですが、Jさんにもお話を通して理解していただけました。その後、私は高い技術力を持つ、有望な成長企業のK社をご紹介いたしました。ポジションはセールスマネージャーで、営業、マーケティング双方に責任を持ち、部門を立ち上げていくというものでした。J さん・K社ともにご興味をもたれ、後日面接をセットいたしました。
「J さん、面接ではご自身が入社後どういった仕事がしていけるか明確にイメージできるよう、積極的に望んでくださいね。」
「わかりました。同じ失敗のないよう、しっかりとお話を伺ってきます。」
面接後、両者ともに好印象を持ち更に詳しい話をしたいということで、その後2回の面接をセットいたしました。J さんも具体的な内容までしっかりと確認し、今までに無いほどイメージがしっかりとできたようです。K社社長にもその積極性がより好印象に映り、内定が出ました。
「J さん、内定が出ました。おめでとうございます。」
「ありがとうございます。私も気に入っていましたのでとても嬉しいです。ただ、現実的な話もありますので、休みを使って妻や家族とも相談して決めたいのですが、よろしいですか」とJ さん。
「もちろんです。大切なことですのでしっかりとお話をしてください。ただ、先方もJさんのお返事を待っています。今後の事業計画にも影響がありますのでお早めにお返事ください。」
J さんもご理解され、休日をはさみ5日後にお返事を頂くことになりました。
お返事の日、J さんからの連絡はありませんでした。もちろん現職もご多忙ですのでなかなか時間がないのかとも思いましたが、私は不安を感じJさんに連絡を入れました。
「J さん、お考えはまとまりましたか?」、
「連絡が遅くなってすみません。実は正直まだ悩んでいます。もう少し待ってもらってもよいでしょうか?」と暗い声でJ さん。
気になる点があり、なかなか決断できない。詳しく話がしたいとのことでしたので、その夜J さんとお会いしました。具体的な仕事のイメージもつかめ、自分のやりたい方向としっかり合っているのでその辺は問題ないようですが、
「いろいろな人に聞きましたが、K社についての情報があまり取れなくて、この先の成長性などが、どうもつかめません。今回は長く働きたいので、納得して決めたいんです。」
“えっ、また?”という言葉を私は飲み込み、
「確かに会社の成長性は大切です。ただ、ある意味これからの会社ですので、周りの方に聞いてもそんなにわからないと思います。それより、これからの会社なのでJさんご自身がK社に共感でき、自分で大きくするという覚悟が出来るか、出来ないかではないでしょうか。」
少しの沈黙の後、私はJ さんご自身で決断していただきたかったので話を切り出しました。
「最終的に決断されるのはJさんです。やはりご自身で決断しないと、今までの繰り返しになりますよ。このタイミングでK社に対して後ろ向きなようでしたら、今回はご辞退された方がいいですね。これから立ち上げる部門を率いていくわけですし、いろいろ決断していかなくてはならない場面も多く出てきます。ご自身のことを自分で決断できないようでしたら、入社されても厳しいかもしれないですね。」
現在では、知名度こそ今までの企業と比べれば低いものの、ご自身に合ったやりがいを見つけ、日々充実した毎日を送っていらっしゃるとのことです。転職は、今後のキャリアを考えた際にとても大切な場面です。後悔しない選択をすることが一番大事ですが、最終的に転職先を決断するのは自分なのです。そのためには自分自身でしっかり判断できるだけの情報をつかむことが何より大切です。よく転職は恋愛に例えられますが、面接という出会いの中でお互いを充分に理解し、相思相愛のベストなご縁をサポートできるよう、これからも努力していこうと、このコラムをまとめながら改めて気を引き締めた私でした。
少し強すぎたかな、と思っていましたが、J さんからは意外な言葉が出てきました。
「もう一度、先方の社長とお会いする機会をいただけますか?もう一回お話を伺い、決めたいと思います。」
「わかりました。K社の将来性はもちろん、社長と一緒に大きくしていく覚悟ができるか、しっかり確認してきてください。どのような結論になるにせよ、ご自身で納得して決断できるようにしてくださいね」
「わかりました。」
気のせいかもしれませんが、その時のJさんの表情は最初と違うような気がしました。
K社社長との面談の翌日、J さんから連絡がきました。
「K社への入社を決めました。いろいろご迷惑をおかけしましたが、自分で納得して決断できました。頑張ってみます。」
「正式に決定ですね。おめでとうございます。」
もちろんキャリアチェンジの他にも、スキルアップ、ポジションアップ、給与UPなどなど、いろいろな「思い」のケースがあります。それぞれのケースにおいて、今回の転職では何が一番の「思い」だったのかを見失わず活動していくことが大切です。活動中に優先順位が変わることもあると思います。その際は、しっかりと考えて見直した上で、優先順位を定めていくことが重要です。 いろいろな場面で悩み、迷うことがあると思いますが、そのときには原点の「思い」に立ち戻ることも忘れないで転職活動を是非成功させてください。
(2012年1月5日)
今回の教訓&アドバイス
最終的に入社企業を決断するのも、責任を持つのも自分自身(当然ですが・・・)
客観的な情報には限界あり。当然、検討できる内容にも限界あり
面接はお互いを理解できる出会いの場(情報収集のチャンス)。積極的に活用しましょう
転職の際の「どこで」よりも、むしろ「誰と」「なにを」やっていけるのかが大切?
今後のキャリアには、器よりも自分にあった「中身」が重要
半藤 剛
【 デジタルプロフェッショナル専門チーム 所属 】 プロフィールをみる
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