I氏と初めてお会いしたのは、昨年の、秋がだいぶ深まった頃でした。とても人懐っこい感じの方で、初めて会ったとは思えないような親近感を感じたほどです。なんとなく何でも話し易く、相性の良し悪しって本当にあるものだなと実感したものです。たぶんI氏も同じような気持ちだったのではないかと勝手に想像しています。
とにかく第一印象抜群の方です。
さて、I氏の相談内容はというと、勿論転職に関することなのですが、ちょっと変わっていました。
“できれば規模が小さく、業績が悪い会社に転職したいのですが・・” と言うのです。
私は思わず耳を疑いましたが、決して聞き間違いではありませんでした。
“えっ??それはまたどうしてですか?” とわざと大げさな私。 “会社の建て直しというか、悪い状態から良い状態にする仕事をしたいのです” とI氏。
続いて、転職を希望される理由についてお聞きしたところ、“数年前の、今よりもっと社員数が少なかったころは良かったのです。とにかく管理部門は未整備なことが多く、やることが多くて大変だったのですが、達成感や会社から必要とされているという実感がありました。最近は社員数も増え、自分が手をつけたいと思っていた仕事も他の人が担当することになったりして。”とI氏。なるほど、少数でガチャガチャやっていたころの生きいきとした過去の自分と、いつのまにか社員数が増えたこともあり、目立たなくなってしまった、あるいは相対的に必要とされなくなってきたと(ご自分でそう感じる)今の自分について、不安や物足りなさを感じていらっしゃるのだなと思いました。
前段に戻りますが、 “できれば規模が小さく、業績が悪い会社に転職したいのですが・・”
について、私はどうしても確認しておかなければならないことをお聞きしました。
“Iさん、すごくチャレンジングな姿勢だと思うのですが、リスクについてはどうお考えですか?業績の悪い会社は当然ながら給料はあまり払えませんよ、またそれ以上に将来的に突然職を失う可能性も高まるかと思いますが・・”
I氏曰くリスクですか、まあ、ある程度は覚悟しています。と一応はリスクを覚悟しているという言葉はあったのですが、実は、I氏には結婚の予定があったので、果たして本当にリスクをとることができるかどうか。
更に今のI氏の給料は一般的にはかなり高い水準にあるので、この辺りも現実的には(転職は)難しいのではないかと思えてなりませんでした。
この後も会話は続き、雑談なども交えたあと、今後のお付き合いをお互いに確認しあってこの日は別れました。何はともあれ、私はご本人の希望を尊重して求人案件を探すことにしました。残念ながら直ぐにはなかなかご案内できる案件がなかったのですが、1ヶ月くらいしてからようやくI氏の希望に近いと思われるポジションの求人が入ったので、早速メールでご案内したところご興味を持たれました。この企業、規模は今の会社よりも小さく、業績は昨年からやや落ち込んでいるところで、管理部マネージャーとして経理財務を中心に管理系全般を見る仕事です。
応募後、書類選考を難なく通過したため、企業側との面接をセットすることになりました。I氏の業務都合もあり面接は翌々週となりました。
そして、いよいよ面接日が来て無事に終え、面接直後にはI氏から電話で報告があり、仕事内容についてはほぼ希望通りで特に問題はなかったとのこと。ただ、面接の後半に希望年収の話に触れた辺りで双方に距離感が生じたようでした。
結論からいうと、この案件はこれ以上前に進むことはありませんでした。
一番大きな理由は、企業側の想定年収とご本人の希望年収の開きです。
私は、ある程度予想していたこととはいえ、ショックは隠せませんでした。
数日後、I氏にお会いして詳しくお聞きしたところ、今の会社での評価が上がり、給与も上がりそうなのです。転職で多少の給与ダウンは覚悟していたとはいえ、いざとなると考えてしまいますね。また、最近では今の職場でのやりがいが見えてきたような感じもあるのです。と言うI氏。どうやら、自分の提案が受け入れられ、重要な仕事に取り組む方向に進みつつあるとのことでした。
“では、転職活動は中止ですね” と一応確認したところ、
“自分でもその辺りについて明確になっていないので、少し考える時間を持ちたいと思います” という答えでしたので、私は当面はI氏からのご連絡をお待ちすることにしました。
私は、I氏が給与に強く執着するタイプの方だとはこれっぽっちも思っていませんので、ただ単に給与がダウンすることが理由で前向きになれないのとは違うと信じております。I氏にとっての最大のやりがいとは、周囲から頼りにされ、評価されることなのです。今回のお話がうまくいかなかったのは、面接に進んだときが丁度、転職意識に変化が出てきた時期だったという、タイミングの問題が大きいと思います。
ただ、I氏の場合、これで転職活動を中止して今の会社で頑張るという結論にならなかったところに私は一抹の不安を覚えました。いざ、転職が現実的になってきた段階で、たまたま現在の環境が向上し、結果的に転職を取りやめることは稀にあるのですが、I氏の場合は違いました。
半月くらいしてからI氏から引き続き転職活動は続けたいという連絡があったのです。
転職意識がある周期で変化しているような、不安定ともいえるI氏。
辞めるべきか残るべきか、職場におけるそのときどきの状態によって変化しているように思えるため、今後に不安を覚えてしまいますが、ここは乗りかかった船ということで、引き続きお付き合いさせていただくつもりです。
今回のケースでは、そのときどきの出来事にいちいち反応してしまい、軸足が定まらないような状態に陥っているI氏ですが、人物的にも職務能力的にも優秀だと思える方ですので、あとは、自分自身の方針をハッキリさせ、決断力も身に付けて欲しいと思います。色々な人からそれぞれ違うことを言われると、ついついその度にまともに反応してしまい、考えが定まらなくなったこと、皆さんもご経験ありませんか?
(2012年1月10日)
今回の教訓&アドバイス
刹那的な事象に振り回されないよう、自分自身で方針を立てる
給与等の条件は柔軟に対応することは大切だが、妥協点は予め熟慮・準備しておく
現在の環境に不満があるからといって、会社を変えれば解決するとは限らない
決断力も重要な能力の内
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