キャリアアップコラム vol.145
退職交渉の進め方により、明暗が分かれた二人の内定者

退職交渉に苦戦する人は多い

意中の転職先が決まった喜びも束の間、待っているのは現職との退職交渉です。ここでご苦労をされる方は少なくありません。これまでお世話になってきた上司先輩、仲の良い同僚に別れを告げるというシチュエーションでは多かれ少なかれ心苦しい思いを抱かれるでしょう。

しかしながら、この転職の際(きわ)で軸足をどこに置くのか。それが後のビジネス人生に大きな影響を与えることがあります。今回はそんなケースをご紹介させて頂きます。

同企業から内定を受けた二人。退職交渉によって明暗が分かれる

約1年前、あるメーカーから同タイミングでオファーを受けられた二名の方々がいらっしゃいました。偶然にもお二方とも30代半ば、現職では若手リーダー格として優れたご活躍をされ相応の立場にあった方々です。転職理由も似通っており、ビジネス人生の折返し地点において、更に高く成長することが出来る環境に身を置きたい。このようなご相談を受けました。

そのお二方が多くの企業との面接を経て最終的に選択されたのが冒頭のメーカー。同社は戦略性高いビジネスモデルをベースにした経営で、若い世代が事業の舵取りをしながらグローバル展開を加速中という、成長を志す方には非常に刺激的な環境でした。

その同社の厳しい選考を潜り抜けオファーを獲得。成長を渇望していたお二方はそのオファーに二つ返事でサインされ「チャレンジします!」と、嬉しいご報告を受けました。

しかしながらここまでほぼ同様のプロセスを経ていたHさんとKさんでしたが、ここからお二人のビジネス人生が大きく分かれていく様を私は目の当たりにすることになります。

 

Hさんのその後

Hさんはオファー面談にてサインをされた翌日。早速辞表を手に現職上長との面談時間を確保し退職の意を伝えられました。既に辞表をしたためているHさんが真剣に自分の未来を語る姿、また決して現職に対する不満は口にせず、むしろ自分を育ててくれたことに対する感謝の意すら表されるHさんとの会話を経て、当初は「恩を忘れたのか!」と語気を荒げていた上長も「完璧な引き継ぎをすることが退職の条件だ。社長へは俺が伝えておくから」と。計3時間の面談を経て、無事退職までの算段を付けられました。

 

Kさんのその後

一方のKさんはその後、退職を上長に切り出すために何度か面談の依頼を持ちかけていましたが、その度に「忙しいからそういう話はまた今度で」となかなか取り合ってもらえませんでした。2週間程経過しても尚「なかなか切り出すタイミングがなくてですね・・」と歯切れの悪い状況報告があるばかり。しまいには「上長も役員という立場ですし、これまでお世話になってきているので強引なお願いをするのもどうかと。もう少し様子をみても良いでしょうか?」というお願いまで頂いてしまいました。「良いかどうかではなく、これはKさんの人生です、腹を決めて時間をもらうべきですよ」とお伝えしたものの、「成長を得る転職は勿論したいのですが、現職と揉めてまでというのは・・。転職先にはなんとか上手くお伝え願えませんでしょうか」と。そして結局入社日が決まらない状態が数週間続いた結果「社長から直々に慰留されまして、誠に申し訳ないのですが今回は現職に留まることにします」と転職そのものを取りやめることになりました。

慰留されて残っても、今まで通りの関係ではいられなくなることも

入社を心待ちにされていたHさんは、ご転職後に極めて高いエネルギーで新しい業務を吸収、評価も高く入社半年で管理職へ昇進されました。久しぶりにお会いしたHさんの「日々目の回る忙しさですが、自分の求めていた環境ですね。数年後全く違う景色が見えていそうな予感がしています!」という満面の笑顔がとても印象的でした。

一方、Kさんは現職との退職交渉時のやりとりに起因し上長との関係が上手くいかなくなったことがきっかけとなり残念ながら数ヵ月後に退職を余儀なくされました。数か月前とは打って変わっての憂鬱そうな表情での転職活動がどのような状況であったかはご想像にお任せします。

転職先を決定されたとき、当然ながら大半の方はまだ現職に籍を置いています。退職を切り出すという行為は、これまでお世話になった方々に対する裏切りという気持ちを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。誰にも迷惑はかけたくないという心理もわかります。

しかしながら上記の例にもあるように、転職の際(きわ)、どこに軸足を置くのか、ここは非常に重要なポイントになります。勇気と覚悟をもって、自分のこれからの人生に軸足を決めることで初めて、求めていた次のキャリアを手に入れることが出来るといえます。

(2014年2月20日)

今回の教訓&アドバイス

退職交渉は勇気と覚悟をもってのぞむ

軸足は「将来の自分」に置く

自分の将来へのまっすぐで力強い意志が、皆を支援者にする

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