キャリアアップコラム スタートアップ転職編(1)
スタートアップ企業への転職で年収UP?なぜ「スタートアップ転職」市場が盛り上がっているのか?

一昔前までは高リスクなわりに報酬が少ないなど、ハイクラス人材の転職先としてはあまり注目されていませんでした。しかしここ数年でその光景は大きく変わりつつあります。現在、スタートアップ企業への転職は、ハイクラス人材に限らず、新たなキャリアの選択肢として多くの人々に注目されています。弊社でもスタートアップ企業への紹介実績はこの5年で195%の増加と、スタートアップ転職を視野に入れる候補者がどんどん増えてきています。そこで、今回は「スタートアップ転職」に注目して、市場の変化やその背景、魅力、そして注意すべきポイントなど、キャリアのプロの視点から詳しくお話しします。

年収アップで大きくハードルが下がったスタートアップ転職

 スタートアップ企業への転職をめぐる状況は以前と比べ大きく様変わりし、転職者数が増加しています。

 クライスアンドカンパニーでは、スタートアップ企業への紹介実績が5年前と比べ195%増加しました。この傾向は他の転職エージェントでも同様です。最近はスタートアップに特化した転職エージェントも登場するようになりました。

 スタートアップ転職が活況を呈している現れの一つに、給与額の上昇があります。10年ほど前はハイクラスの候補者でも、スタートアップからのオファーは700万円から800万円程度でした。しかし現在は同クラスの人材に対しおよそ2倍の金額が提示されます。

 いくらスタートアップでの仕事に魅力を感じていても、現職で年収2000万円の人が「800万円しかオファーは出せません」と言われたら、家族の生活を考えて躊躇してしまうでしょう。しかしオファーが1500万円なら充分、検討に値します。

こうして給与水準の問題でスタートアップに転職できなかった層が移れるようになったのが、この10年で起こった大きな変化の一つです。

スタートアップの資金調達額は9年で10倍に!

 年収アップをはじめ、スタートアップの転職が盛り上がっている背景には、市場の拡大があります。

 日本ベンチャーキャピタル協会の「ベンチャーキャピタル最新動向レポート(2022年度)」によると、2013年のスタートアップによる資金調達の総額は877億円、調達社数は1348社でした。それが2022年にはそれぞれ8774億円、2224社に増加しています。9年で資金調達額は10倍、調達社数は1.6倍になったのです。それは1社当たりの資金調達額が増加していることも意味します。

 政府も強力な支援策を講じています。岸田内閣は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、スタートアップ成長5か年計画を発表しました。日本にスタートアップを生み育てるエコシステムを創出し、戦後の創業期に次ぐ第2の創業ブームをつくることを目的としたこの計画では現在、8000億円規模のスタートアップへの投資額を2027年度に10倍以上の10兆円規模とすることを目標に掲げています。

「政府がお金を投じます」と政策に掲げた以上、スタートアップに流れる資金がさらに増えるのは確実でしょう。

 スタートアップは資金調達すると、主にそのお金をマーケティングと人材採用に投入します。スタートアップはIT関連サービスが多く、どれだけ優秀な人材を採用できるかが非常に重要なためで、以前と比べオファー年収が向上した大きな理由がここにあります。

スタートアップの成功事例に触発される転職者たち

 働く側の意識や行動も大きく変化しています。総務省統計局の労働力調査によると、2023年の転職者数は328万人。この10年の推移を見ると新型コロナ禍の影響で2020年から2021年にかけて大きく減少しましたが、2013年の287万人から41万人増加しています。また、2023年の転職等希望者数は1007万人で、2013年の806万人から201万人も増えました。

 1つの会社のなかでキャリアを終える終身雇用慣行はもはや一部の話となり、転職に対する人々の姿勢は積極的になっています。

 このような変化と並行して、起業やスタートアップの成功が珍しくなりました。たとえば21世紀初頭にベンチャーの代表例とされることが多かった、1996年に設立されたLINEヤフーの売上高は1兆6723億円(23年3月期)、1997年創業の楽天グループは1兆9278億円(22年12月期)と、いまや巨大企業グループに成長しています。

 起業をしやすい環境も広がっています。とくにネットやスマホ、SaaS等の普及を背景に、テック系やIT関連サービスの起業機会が増えました。これらのビジネスは他の産業に比べ初期投資が少なくて済み、アイデアがあればすぐ立ち上げられるので、起業のハードルは格段に下がっています。

 以前、スタートアップ企業に転職する人はチャレンジ精神が旺盛で新しい変化を早期に受け入れる、いわゆるアーリーアダプター的な人が多かったのですが、現在はもっと幅広い層が転職するようになっています。

スタートアップ企業がイノベーションを起こしたり、新しい産業を生み出したりするケースを目の当たりにする機会が増え、スタートアップでの仕事が魅力的に映るようになったことも、転職する層の広がりに影響しているのでしょう。

 転職市場では以前、コンサルティングファームや投資銀行の優秀な人材が大手企業に転職する流れが目立つ時期がありましたが、たった1人が巨大な組織に入ってその会社を変えられるかといえば、かなり難しい。しかし規模が小さいスタートアップであれば、決して不可能ではありません。

 スタートアップ転職市場の活況は以上のように、スタートアップ企業の増加や資金調達額の増大とともに、スタートアップの成功事例が増加し、そこで働く魅力や価値が広く認識されるようになってきたことが大きく作用しています。

 

担当コンサルタント:入江 祥之・工藤 直亮・山本 航

(2024年3月21日)

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