キャリアアップコラム スタートアップ転職編(4)
平均年収、ストックオプションなど、スタートアップ企業の給与事情のウソホント!?

年収が高いスタートアップ企業の特徴とは?

 スタートアップ企業の年収に関し、世の中の一般的な人が持つイメージと実態には大きなギャップがあります。

「平均して年収400~500万円、よくて600万円くらいではないか」

 なんとなくそう思っている人が多いのではないでしょうか。しかし実際には従業員平均で800万円~900万円のスタートアップ企業は珍しくありませんし、1000万円台の会社もあります。日系大手の平均年収を超えている会社はたくさんあり、一般的に持たれているイメージよりもスタートアップ企業の年収水準は高いのです。

 ただし、スタートアップ企業の中でも比較的高い年収のオファーが出やすいところ、そうでないところがあります。この違いが生まれる要因として作用するのが、成長フェーズとビジネスモデルです。

そのスタートアップ企業が、どの成長フェーズにあるのか。アーリーフェーズに近いほど年収の水準は低くなり、上場手前や上場後ほど高くなる傾向があります。同時にビジネスモデルに優れ、利益率が高いスタートアップ企業ほど年収の水準は高くなる傾向です。

 資金調達をどの程度行っているかも、年収の水準に影響することがあります。たとえばシリーズAの段階で幹部クラスの年収が1000万円だったスタートアップ企業が、シリーズCにステージが進むと1500万円になっている、という具合です。

 資金調達に成功すると、すぐに全体の給与水準を引き上げるスタートアップ企業もあります。こうした柔軟性やスピードの速さはスタートアップ企業ならではの特徴です。ただ、資金調達を一切していなくても多くの利益を出しているスタートアップ企業は年収が高いので、一概に資金調達をしていないから年収が低いとはいえません。

大手企業からの転職で年収が上がる人・下がる人の違い

 一般的に思われているより年収の水準が高いからといって、大企業で働いている人がスタートアップ企業に転職して現在の年収を維持、向上できるかというと、それはまた別の話になります。

 たとえば現在、大手総合商社勤務で35歳、年収2000万円の人がスタートアップ企業に転職し同じ金額をもらえるかといえば、もらえないでしょう。大半の人はこれまでにやってきた業務経験の領域が異なり、即戦力度が低くなるため年収は下がる可能性が高いです。もしスタートアップ企業の経営実績がある、あるいは従事していた仕事の領域がそのスタートアップ企業と親和性が高い人であれば年収の水準を維持できるかもしれませんが、あまりそうしたケースはありません。

 しかし、大手企業からスタートアップ企業に転職して年収が下がるケースばかりではなく、場合によっては高くなることもあります。たとえば、「大手企業」が一般メーカー等の、あまり給与水準が高くない業界のケースです。つまり給与水準の高くない業界から給与水準の高いIT産業に属するスタートアップ企業に移ったため、年収が上がるわけです。

「ストックオプションで億り人」は現実的か?

 スタートアップ企業への転職でどのくらい年収をもらえるかを考える時、留意する必要があるのが入社一時金やストックオプションなどの収入です。

 転職の際に出される入社一時金はスタートアップ企業の場合、年収が下がる人が一定数いるのでそれを補填する意味合いがありますが、採用競争が激化している最近は大手企業でも入社一時金を出すところは珍しくありません。

ただ、人材を採らないと事業の成長が見込めないスタートアップ企業では採用が生命線であり、そのため100万円~200万円の一時金を出したり、400万円の一時金を提示して「とにかくこれで来て欲しい」と入社を依頼したりするようなケースが起こります。

 ストックオプションに関しては「一攫千金を狙える」といったイメージを持つ人がいるかもしれませんが、思ったよりももらえないと考えておいたほうがよいでしょう。

 ストックオプションを付与する量は基本的に、ポジションと資金調達フェーズの2軸で決まります。ポジションが上であるほど、そして入社した時期がアーリーフェーズであるほどたくさんもらえます。

 CxOといわれる幹部クラスに対しては、上場すれば数億円になるような量のストックオプションが付与されます。そうした事例を見て「ストックオプションで億り人に」というイメージを持つ人が多いのですが、メンバークラスやマネージャークラスではそこまで付与されません。上場できたら2000万円~3000万円くらいになる、といったところでしょう。

 もし上場目前のスタートアップ企業にメンバークラスで入社したら、ストックオプションをもらえないか、もらえてもわずかになるかと思います。ストックオプションはリスクテイカーほどたくさんもらえる性質のものです。

 そもそもすべてのスタートアップ企業が上場できるわけではなく、できなければストックオプションはただの紙になります。また、上場できたとしても売却できるまでの拘束期間があったり、株価が下がってしまったりして、その間に権利を放棄して転職する人も珍しくありません。転職しても権利を持ち越せる制度設計をしている会社は少なく、退職したら権利を放棄する制度になっている会社のほうが圧倒的に多いのです。

 こうして見ていくと「ストックオプションで億り人」を目的にスタートアップ企業に入社することは、あまりお勧めできません。

年功的な大手企業、成果次第で上下動するスタートアップ企業

 入社後の年収の上がり方も、スタートアップ企業と大手企業で異なるポイントです。大手企業では定期昇給で年功序列的にだんだん上昇していく形が多いですが、スタートアップ企業では実績を出すと、次の役割と責任が与えられ、それに伴い年収も一気に数百万円上がることが起こり得ます。

 逆に入社時、比較的高い年収で入ったが一定期間で期待されたパフォーマンスを出せないと、役割と責任、そして年収も引き下げられることがあります。もっともこうした場合は、引き下げられた年収で我慢するより転職を選択する人が多いですが。

 このようにスタートアップ企業に定期昇給という概念はほぼ存在せず(上場後になると定期昇給を行う企業も一部出始めます)、ポジションが上がれば給与も上がり、ポジションが下がれば給与も下がる。時間軸も大手企業とは異なり、入社後成果をすぐ出して1年も経たないうちにポジションが上がる人もいれば、5年経っても上がらない人もいる。会社が成長し周囲に優秀な人がどんどん増え、ポジションを下げられるケースもあります。一言でいえば、より実力主義的であるといえます。

 大手企業ではある程度の年次になるまで、同期の人よりずっとよいパフォーマンスを出しても大きく年収は変わりませんが、スタートアップ企業では実力主義の傾向が強いのでパフォーマンスの違いはフェアに評価され、即座に報酬へ反映されやすいです。こんな環境を好む人にとって、スタートアップ企業は非常によい環境だと思います。

(2024年6月20日)

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