カメラに映っていたものは?
監視カメラの映像が「動かぬ証拠」とばかりにニュースでは様々な事件が報道されている。
精神病院での虐待を問題視する事件では、入院患者が虐待を受けていた現場の映像が報道され、その後の患者の死亡との因果関係が取りざたされている。
また、茨城の八千代町の町長がセクハラで告訴をされて事実無根と主張したものの、その後蛮行の映像が報道され、セクハラ町長とワイドショーの標的となっている。
センセーショナルな報道を冷静に受け止める視点
しかし、これらの報道は、「動かぬ証拠」とばかりに流されているが、見ている側はその映像だけに捉われないほうが良いかもしれない。
精神病院の事件では、患者が死亡したのは監視カメラの映像が映された約2年後とのこと。因果関係はどうなのか。
町長の件については、繰り返し流されている映像は、実際に告訴されている案件ではない。「なるほどこんな破廉恥町長か」という感想は持ってしかるべきではあるが、告訴されている件の真相は、冷静に対処されるべきだろう。
では、監視されているから行動を慎むのか
これらニュースを見て、我々も「これは、どこで自分の愚行が映されているかもわからないな」と日頃の行動を改めることもある。監視カメラには確かに抑止効果はあるだろう。しかし、そのような考えはどうかと思う。
「監視カメラがあるから、暴力をふるわない」「誰かのビデオが回っているかもしれないから、セクハラは控えよう」というのは、「では、映っていないところならいいのか」という話に過ぎない。
いずれの事件も、日常的にこのような行為があり、「たまたま映ってしまって運が悪かった」という捉え方をもし当事者がしているのではあればそのほうが問題だ。
そうではなく、その前に、「このような行為は人としてあるべきか」という自己を省み、改める必要があったのは言うまでもない。
諌めても改めない独裁者
こうした行為が映像によって持ち込まれた経緯も考えたい。部下や被害者がそれを諌めた事もあったのではないだろうか。
しかし、権限を持つ経営者や役職者は、声なき声を抹殺して、コンプライアンスの姿勢や行動を改めなかったからこそ、引くに引けない状況に追い込まれたとも推察される。
おそらくはもっと前に改善すべきタイミングはあり、初期対応を誤っていなければ、本件のような事件を起こす前に改善できたのではないだろうか。
改善すべきは、仕事に対する姿勢や、人としての倫理観であり、「不運にもビデオに撮られてしまった」ということではないのである。
誰も見ていないけれどもゴミを拾う
儒教には「仁」という考え方があり、道徳概念を最も大切なものとして、自己抑制と他者への思いやりを大切にしている。
誰も見ていなくても、ごみに気づけば率先して拾う。また、誰も見ていなければ、ごみを捨ててもいいのか?
神道には「お天道様が見ているよ」という考え方がある。防犯カメラではなく、お天道様が見ているのだ。
監視される恐怖より、人としてあるべき姿をめざす
やがては、すべての行為はビデオカメラで監視され、メールは読まれ、ビックデータは解析され、スマホでの位置情報とセールスフォースシステムが連携し、仕事も含めた日常のなにもかもが丸裸となるような社会がやってくるかもしれない。
まるで、イギリスの作家ジョージ・オーウェルの小説『1984年』の世界だ。恐怖の世界である。
我々は「監視されるリスク」によって自制心を取り戻すのではなく、人としてあるべき姿で事をなし、今こそ「常にお天道さまが見ていること」を意識して生活すべきである。そうすれば、なにを取りざたされても、胸を張って受けて立つ事が出来るのである。
丸山貴宏
大手就職情報会社の人事採用担当を約7年経験後、クライス&カンパニーを設立。前職からの候補者面談者数は10,000名を超え、その経験と実績に基づいたカウンセリングは業界でも注目されている。単に企業情報の提供に留まらず、「候補者の根っこのエネルギーを発掘する作業が我々の使命」がモットー。 1963年生まれ。
- 著書
- 「そのひと言で 面接官に嫌われます」 / 青春出版社 2014年5月9日発売
「キャリアコンサルティング」 / 翔泳社 - 共著
- 「転職後、最初の1年にやるべきこと」 / 電子書籍(Kindle版)
- 連載コラム
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