とても悔しい思いをした女子サッカー決勝戦。
最後まで諦めないという、チーム意志。
2015年7月5日。日本中が応援した女子サッカーワールドカップ決勝戦。BC Place Stadiumでの5-2という結果はとても悔しかったが、ゲームを最後まで諦めない姿勢に多くの賛辞が寄せられました。私もその点差以上に、なでしこジャパンの清々しい戦いぶりにとても感動しました。
思わぬスタート。すぐに軌道修正はきかない
Carli Lloydの立て続けのゴールで開始5分で2-0。わずか5分でのこの状況は、ビジネスに例えるならば、大きな事業展開での思わぬ事態に現場の動揺が大きく、チーム全体が今の戦術や戦略に不安を感じる状況。こうした状況下では、実は事業戦略においてもすぐに軌道修正するには躊躇する事態です。恐らくなでしこジャパンも「この戦術でいいのか」「それとも変更するのか」と、選手一人ひとりがかなり動揺したものと思います。
野球型よりもサッカー型になるビジネス。
野球であれば、ここで「タイム」をかけ、全員で戦略を確認し、円陣を組んで監督から声がかかり、選手はもう一度再起することができます。他のスポーツでもバレーなど、日本人になじみの深いスポーツは「タイムをとってみんなに声をかける」という事が比較的可能です。ところがサッカーはそうはいかない。佐々木監督はピッチに向かって叫ぶしかなく、個々に指示を出す事は困難です。
こうしたサッカーにビジネスは似てきました。これまでの野球型であれば、トップは会社全体の会議などで事業方針を語り、今からの戦術がバントなのかヒットエンドランなのか、サインを出せる事も多かったのです。ところが、「店舗数が多くなった」「事業を拡大した」「ネット販売やリアル店舗などチャネルが増えた」と、個々の戦略を全体に浸透させる事はどんどん難しくなり、従業員や現場のリーダーに状況判断を委ねるしかないという事態が起きています。
例えば、食品衛生問題は、現場の対応が先
マクドナルドでの食品の衛生にかかる問題を見てみましょう。「異物が発見された」というトラブルは現場で対応するしかありません。二度目の発生で思わぬ事態。しかしその時の店長の一言やアルバイトの振る舞いは、あっという間にSNSを通じて拡散されます。ひとつの事件に対して即座に「タイム」をとって経営会議にかける事は出来ず、現場の選手である従業員の対応が、その瞬間は全てとなります。「メールで全社に指示は出せる」といってもそれは画一的なものに過ぎず、個別対応はやはり現場で行なうしかありません。
経営の意思は、人事である
この際の佐々木監督の判断は明快でした。もちろん、プロの目では、「遅すぎた」「やったことのない戦術」「もっとこういう作戦をすべきだった」等の意見があると聞きますが、そういう話ではありません。
彼が行なった事は33分の澤の投入。39分の菅澤の投入でした。相手のエースに競り負け、自信を失っていた岩清水を変えるという判断だけでなく、チーム全体に「澤が来た。何かが変わる。まず落ちつけ。さあやり直そう」という、監督のメッセージは全体に伝わりました。
ビジネスにおいても組織が大きくなればなるほど、「あの人をここに異動させたのか」「この人は退いたのか」と、大きな経営判断が社員に伝わるのが人事です。それは「派閥争いでどっちが勝った」「あの人が出世した」などという下世話な話ではなく、「経営は今、どの事業、領域、課題を重視しているのか」「兼務ではなく専任を置くというのは本気なんだな」など、全体に「意志と覚悟」を伝えるものとなり得ます。
こうした大胆で明確な人事が出来る会社ほど、全体の士気や戦略の浸透が早いと思います。人事発表から経営戦略を感じる。発信する側も受け取る側も、一つの人事が組織や周りに及ぼす影響は計り知れず、良くも悪くもメッセージなることを知るべきです。
丸山貴宏
大手就職情報会社の人事採用担当を約7年経験後、クライス&カンパニーを設立。前職からの候補者面談者数は10,000名を超え、その経験と実績に基づいたカウンセリングは業界でも注目されている。単に企業情報の提供に留まらず、「候補者の根っこのエネルギーを発掘する作業が我々の使命」がモットー。 1963年生まれ。
- 著書
- 「そのひと言で 面接官に嫌われます」 / 青春出版社 2014年5月9日発売
「キャリアコンサルティング」 / 翔泳社 - 共著
- 「転職後、最初の1年にやるべきこと」 / 電子書籍(Kindle版)
- 連載コラム
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