自宅勤務は、未来のあるべきワークスタイルではない
昨今、自宅勤務制度がいくつかの企業でスタートしています。子育てや介護等の事情を抱えている人の社会参加のための手段として、とても歓迎すべきです。その一方で、そのような事情もなく、「やりとりはメール、会議はスカイプ、自宅でワーク」という働き方をあたかも「新しい、粋な働き方」として推奨する意見には少し疑問を持ちます。中には「これが未来の働き方」などと持ち上げる人もいますが、そうは思いません。あくまで何等かの事情で自宅を離れる事が困難な方に対する、「手段」としての制度であるべきです。
手段としての有効性は高い
「育休に入った」女性社員がとても優秀で、組織にとって変わりがいない。ベビーシッター代も出すから、在宅でいいから、頼みたい仕事がある。こうした際にはとても有効な手段です。出産・育児・介護といった問題は、性別や年齢問わず存在し、特殊な事情における特別措置として自宅勤務は有効な制度です。中小企業では、ある程度経営者の裁量で、制度はなくとも自宅でのワークをお願いしている事もあるでしょう。
自宅勤務に向いている職種はアウトソーシングしやすい職種ともいえる
テレワークといった働き方は以前から存在します。プログラミング、WEBデザイン、イラスト作成、事務代行などを自宅で行なって頂くワークシェアリングの仕組みです。実はこうした仕事は、マネジメントも不要となり、本数とクォリティ等で生産性を重視されますので、自宅勤務に向いているといえます。ただ、よっぽどその社員でなければならない理由がなければ、「いっそアウトソーシングしよう」となりかねません。
監視のためのコストというロス
また、遠隔でのワークに対して、IT技術による監視対策も高まっています。当人のパソコンでどんな画面が表示されているか、一定時間止まったままになっていないか、遊びのサイトを見ていないか。どこにいるかも位置情報をとり、サボリに対する監視の仕組みは強化されていくでしょう。さて、それはそんなに歓迎すべき事でしょうか? そもそも監視システムが必要なのは、個人の意志がそんなに強くなく、自宅という空間ではともすれば仕事をしないかもしれないという危惧が存在するからです。そこに対策投資する事はロスです。実は投資される側もオフィスで自由に働いていた方がのびのびしていたのではないでしょうか?
セルフコントロールする力
弁護士・税理士といった人たちは、ある種自宅勤務に近い働き方をしています。農業やフリーコンサルタントもそうかもしれません。こうした人たちは、クライアントとのコミュニケーションを大切にしながらも基本的にはチームではなく、個人で仕事をしています。そんな彼らも実は、仕事をする時は事務所に行き、気持ちの切り替えを行います。通常のサラリーマンは、そこまでセルフコントロール力が成熟しておらず、かつ対面での会話の必要性がまだまだあります。多様な働き方のひとつではありますが、コミュニケーションの機会を奪う自宅勤務は、スタンダードなものとはならないと私は思うのです。
丸山貴宏
大手就職情報会社の人事採用担当を約7年経験後、クライス&カンパニーを設立。前職からの候補者面談者数は10,000名を超え、その経験と実績に基づいたカウンセリングは業界でも注目されている。単に企業情報の提供に留まらず、「候補者の根っこのエネルギーを発掘する作業が我々の使命」がモットー。 1963年生まれ。
- 著書
- 「そのひと言で 面接官に嫌われます」 / 青春出版社 2014年5月9日発売
「キャリアコンサルティング」 / 翔泳社 - 共著
- 「転職後、最初の1年にやるべきこと」 / 電子書籍(Kindle版)
- 連載コラム
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