国際物流が抱える非効率を、テクノロジーの力で解消していく。
及川
まずはShippioについてご紹介いただけますか。
森
Shippioは貿易テックのスタートアップです。「理想の物流体験を社会に実装する」ことをミッションに掲げ、なかでも国際物流が抱える課題解決に挑んでいます。
国際物流には、輸出入を行う「荷主」、物流アセットを持つ船会社やトラック運送業者などの「物流事業者」、そして荷主と物流事業者の間に立って貨物輸送をコーディネートする「フォワーダー」の3つのプレイヤーが大きく存在します。Shippioはまず荷主とフォワーダーの業務をテクノロジーの力で効率化し、業界の新しいスタンダードを創ろうとしています。
及川
貿易業界はどのような課題を抱えているのでしょうか。
森
とにかく非効率な業務がまかり通っているのが現状です。コミュニケーションの手段は電話やFAXが主流で、案件の管理も紙ベースで行われており、いまなお旧態依然としたアナログの世界でビジネスが繰り広げられています。
さらに、サプライチェーンが長くてプレイヤーが多いので、各所で壮大な伝言ゲームが起こり、重複している作業も多々見受けられる。きわめて労働集約的であり、各プレイヤーにかかる業務負荷をテクノロジーで解消するクラウドサービスをShippioは展開しています。
及川
現在、Shippioは具体的にどんな事業を展開されているのですか。
森
いま手がけている事業は二つあります。一つはデジタルフォワーディング事業で、実際に当社がフォワーダーとしてお客様の輸出入を仲介するビジネスです。他のフォワーダーと大きく異なるのは、Shippioのクラウドサービスを使うことで非効率な作業と伝言ゲームをなくし、貿易業務を劇的に効率化していることです。現在の調査では、荷主様の業務コストを約50%削減できたという結果が出ています。
これに加えて、先日、新たにSaaS事業をスタートしました。これまではShippioが輸出入するコンテナしかクラウドサービスが使えず、貿易のDXを推進するには不完全でしたが、このSaaS事業により、あらゆる荷主様、あらゆる案件でShippioのクラウドサービスが利用できる世界をもたらしたいと考えています。
及川
プラットフォーマーを目指す企業が陥りがちなのが、机上論でサービスを開発してSaaSで提供するものの、ユーザーのニーズに応えきれずに失敗してしまうことです。まず自社でEnd to Endで完成したサービスをつくり、そこから他社が使えるものを切り出していくのは正しいアプローチだと思いますし、Shippioはまさにそれを実践されているのですね。
森
そもそもデジタルフォワーディングというサービス自体が業界に存在しない中、いきなりSaaSを展開しても業界にフィットしない恐れがありました。そこでまず自分たちでフォワーディングを手がけて解像度を上げ、PMFを達成したところでSaaSを起ち上げたのです。
私自身、過去にBtoBのサービス開発に携わり、そこでソフトウエアだけの空中戦をやって大きな後悔をした経験があります。リアルなビジネスに触れて、あるべき姿をきちんと理解した上でサービスを提供しないと絶対にうまくいかない。その意味でもShippioはテクノロジー企業でありながら自ら物流事業を営んでおり、それは我々の大きなアドバンテージであります。
及川
SaaSでデータが蓄積されていくと、国際物流に新たなバリューをもたらし、業界全体の物流の最適化も可能になるのではないでしょうか。
森
おっしゃる通りです。今回スタートしたのは荷主向けのSaaSですが、近いうちに物流事業者向けのSaaSも展開していきます。さらにデジタルフォワーディング、SaaSに次ぐ第三の事業として、自ら通関業務も手がけていく方針です。
そこから得たインサイトをもとにデジタル通関を作って横展開できれば、日本に輸出入される貨物の大部分がShippioのプラットフォーム上を通るような世界も実現できる。そこで得られるデータをもとに新しい顧客価値を次々と創り出して業界に還元できるでしょうし、これほどイノベーションの可能性を秘めた面白い業界はないと思っています。
一方で、長く歴史のある業界であり、新規参入事業者も少なく変化が起こりづらい。Shippioのプロダクトマネジメントは社会にもたらすインパクトは大きいものの、変革を起こしていくのは本当に大変であり、チャレンジしがいのある仕事だと感じています。