INTERVIEW

INTERVIEW 032

2024 Aug 29

これからは「法」が、企業の重要な経営資源になる。
先進のリーガルテックで、日本の法務を革新していく。

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PROFILE

株式会社LegalOn Technologies 執行役員CPO 谷口 昌仁 氏

京都大学大学院を修了後、経済産業省での行政業務に従事。米国ハーバード大学(MPA)、南カリフォルニア大学(MBA)での留学を経て、楽天株式会社にて楽天市場パッケージメディア事業の事業長、執行役員を担う。複数のベンチャーで社長としてWebやスマホのアプリ立ち上げからグロースまでを経験。2022年10月からLegalOn Technologiesに参画し、2024年4月から執行役員CPOに就任。

法務に必要な業務をすべてサポートする「LegalOn Cloud」をリリース

及川

まずは谷口さんがCPOを務められるLegalOn Technologiesについてご紹介いただけますか。

谷口

LegalOn Technologiesは、2017年に弁護士である角田と小笠原が共同で起ち上げた企業です。基本的な事業内容としては、法務業務に関するさまざまなソフトウェアの開発・提供を行っており、2019年4月には日本で初めて契約書のレビュー業務をAIでサポートする「LegalForce」というサービスをリリースしました。続いて2021年1月には、締結済みの契約書をAIで管理する「LegalForceキャビネ」というサービスを提供し、この2024年4月にも「LegalOn Cloud」という新たなAIプラットフォームサービスを発表しています。

及川

ありがとうございます。続いて、谷口さんご自身のご経歴を教えてください。

谷口

私はもともと日本の大学院では半導体チップの研究に携わっていました。半導体チップにシリコンではなく有機物質を用いて、言わば人間の脳のような形で情報を処理させる研究に取り組んでいたのですが、個人的に法律と経済についても勉強していて、社会に出るにあたっては国家公務員総合職(旧I種)試験を受けて経済産業省に入省しました。経産省では法令審査業務を担当し、また、当時の小泉純一郎総理の秘書官補としてさまざまな政策の立案にも従事。その後、2つの海外大学院留学を経てIT業界に転身し、楽天でコンテンツ事業の責任者を務めたり、スマホ向けAR/VRアプリを開発するベンチャーを率いるなどいろんな経験を重ねた後、2022年にLegalOn Technologiesに参画しました。こうしてキャリアを振り返ると、半分は行政でリーガルに関わり、もう半分は民間でアプリ開発などのITに関わってきて、それが融合する場がLegalOn Technologiesでした。

及川

お話をうかがっていると、谷口さんのキャリアはかなり変遷しているようにお見受けしますが、ご自身の中で何か「軸」のようなものがあるのでしょうか。

谷口

確かに、いろいろなことを手がけて大きく変わっているように見えるかもしれませんが、もともと私が志していたのは「ITで社会を幸福にしたい」ということ。学生時代に半導体チップの研究に取り組んだのも、先端技術でITがもたらす価値を最大化したいという思いからでした。そして、成果が出るまで長期間を要する基礎研究よりも、社会が抱える課題をリアルに解決したいと官僚を志し、経産省に進んだのですが、中央官庁でも自分が企画したことが法律になって施行され、社会に影響を与えるまで数年かかるという時間軸なんですね。もっとスピーディーに自分の企画をローンチし、社会からフィードバックを受けて改善していく仕事がしたいと、民間のIT企業に移籍。学生時代はハードウェア側からのアプローチでしたが、社会人になってからはルールやソフトウェア側からのアプローチに変遷してきたという感じでしょうか。

及川

なるほど。谷口さんの中で、ITで世の中を良い方向に変えていきたいという思いは一貫されているのですね。それでは、谷口さんがLegalOn Technologiesに入社されてから、どんな業務に取り組んでこられたのか教えていただけますか。

谷口

私が入社した時には、先ほどご説明した「LegalForce」と「LegalForceキャビネ」の二つのサービスがすでにリリースされていて、私は「LegalForce」のプロダクトマネージャー(PdM)を務めることになりました。我々が関わるリーガルテック業界は新しいドメインであり、昨今さまざまなベンチャーが参入し、企業法務の特定の局面を切り取って、そこで抱えているペインを解消するソリューションを提供しています。まだまだ1社1プロダクトという形態であり、お客様である企業の法務部は複数のサービスを契約しているのが実情。ひとつひとつのサービスは業務効率化に繋がっているのですが、サービス間の連携が面倒で手作業に依っているところが多く、そこにユーザーの方々はストレスを覚えていたんですね。その課題を解決するべく、私がリードPdMとしてローンチしたのが「LegalOn Cloud」。これは法務に必要な業務をすべてサポートするもので、「LegalForce」と「LegalForceキャビネ」も内包し、契約書のレビューや管理はもちろん、お客様の事業部門が新規事業を起ち上げる際の法務相談まで、このプラットフォーム上で一元的に実行できます。当社ではこの「LegalOn Cloud」というプラットフォーム上で提供するサービスそれぞれにPdMが配置されており、二桁の数に及ぶPdMを擁しています。その全体を統括するポジションをいま私は務めています。

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企業成長の鍵を握るのは法務。守りから攻めへと転換させる

及川

「LegalOn Cloud」についてもう少し詳しくおうかがいします。新たに開発されたこの「LegalOn Cloud」を通して、ユーザーにどんな価値を提供したいとお考えでしょうか。

谷口

企業の法務の方々が日々の業務で行っていることというのは、実は本質的には同じなのです。契約書であろうが法務相談であろうが、事業部からの依頼に対してまずは過去に同じような例がなかったかどうか調べるんですね。どう処理したのか、どこが論点だったのか、また前例がないケースは、いま外部でどんな議論がなされているのかをリサーチしていく。そうしたナレッジを社内外で探していくという行為が、非常に手間がかかって面倒であり、それをこの「LegalOn Cloud」で一気に解消したいんですね。たとえば事業部から法務相談が来たら、AIが社内の事例から同じ論点の案件を探り出し、関連する法令やガイドラインなども提示してくれれば、法務の方々の負荷が劇的に軽減され、与えられた情報をもとに論点整理と意思決定に思う存分時間をかけられるようになる。情報をうまくナレッジ化し、そのナレッジを必要に応じてレコメンドしてくれる機能を「LegalOn Cloud」は提供していきたいと考えています。

及川

昨今はさまざまな業界でテクノロジーが先行し、ディスラプトが引き起こされています。リーガルテック領域においても、単に法を守るだけでは世の中は何も変わらず、社会に変革をもたらすためには攻めの部分も必要かと思います。そのへんのバランスはどのように捉えていらっしゃいますか。

谷口

日本の社会はすでに成熟しており、法律や政令、省令、条例などが網目状に整備され、さまざまな契約の上に成り立っています。社会の中で何か新しいことに挑戦しよう、生み出そうとすると、それらをすべて含めた広義の「法」のどこかが確実に絡むことになり、それが足枷になるケースも多く、その縛りをうまく解いていかなければならない。それは、企業の経営にとってこれから非常に重要なことだと思っています。かつて経営における重要な資源は「人」「物」「金」と言われ、そこに15年ぐらい前から「情報」も重要視されるようになりました。そこに加えて、これから5つ目の重要な要素として「法」がクローズアップされていく。この「法」に縛られたまま旧態依然と事業活動を行っていくのか、あるいは「法」を逆にうまく活用して新しい取り組みを推し進めていくのか。今後、会社が成長できるか否かは、「法」をどう扱うかが重要になると私は考えています。ただ、まだ残念ながら日本企業の法務は「守り」の姿勢が強く、何か新しいことを起こしたいと相談しても、法に抵触する恐れがあるので無理だと拒むケースが多いようです。確かに法を犯すことは許されませんが、観点をこう変えて取り組めば、法律やガイドラインの適用から外れて事業をうまく推進できるようになるとか、そうした「攻め」の提案がこれからの法務には求められていく。それを支援する我々のリーガルテックも、多くの企業でいっそう必要になっていくだろうと思っています。

及川

これはあくまで私の先入観ですが、法務というのは保守的な人が多いような印象を持っています。こうしたリーガルテックの導入に対して、現場ではどのような反応なのでしょうか。

谷口

たとえばグローバルな大企業は、法務の重要性を強く認識していて、豊富な人員を抱えてリーガルテックの導入も積極的です。一方で、多くの日本企業は先ほどもお話ししました通り、まだまだ法務に対して「守り」のイメージが強く、あまりリソースを割いていません。経営者が法務を軽視していて、ツール導入の投資に消極的というケースも少なくない。したがって、少ない人員で労働集約的に法務を回していかなければならない。するとどうなるかといえば、法務担当者は最低限の業務しかできなくなるんですね。リーガルにおいて最低限やらなければならないのは、リスクをミニマイズすること。事業側から法務相談が寄せられても、リスクが見受けられれば即ストップをかけてしまう。法務からビジネスを前進させることに時間を費やす余裕がない。そこに当社のSaaSを活用いただくことで、守りだけではなく事業を後押しすることにも時間が使えるようになり、社内における法務のポジションが上がり、体制が強化され、最終的には企業の成長を加速させたいというのが我々の考えです。

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いわばベンチャー企業の社長のような立場で、プロダクトを創り上げる

及川

先ほど、御社では二桁の数のPdMを抱えていらっしゃるとのお話でしたが、どのような組織構造で、どのような役割分担になっているのでしょうか。

谷口

いま我々が提供している「LegalOn Cloud」はプラットフォームになっており、その上にサービスがたくさん載っています。ですので、PdMはそれぞれ担当のサービスを見る形になっています。イメージでいえば、20名ぐらいのベンチャー企業の社長のような位置づけでしょうか。PdM自身がお客様と面してペインを見定め、それに対する処方を考えて実装していくわけですが、プロダクトの開発のみならず、ターゲットユーザーに対してどのようなマーケティングメッセージを送るべきかとか、あるいはユーザーに支持されるにはどのようなサービスメニューを提供すべきかとか、その価格設定も含めて計画を立てていきます。プロダクト開発の部門には営業やマーケティングの機能はありませんので、社内の各担当者と連携しながら進めていくことになりますが、主導権はPdMが握る形になります。

及川

PdMのみなさんがそれぞれ「一国一城の主」のような立場でプロダクト開発を進められていらっしゃるのですね。一方で、それぞれのサービスは「LegalOn Cloud」というプラットフォームの上で提供されることになるので、整合性や統一感も必要かと思います。

谷口

おっしゃる通りで、PdMがそれぞれ自分の方向性で突き進んでしまうと調和がとれなくなるので、まず「LegalOn Cloud」がプロダクトとしてどうあるべきか、あるいはどのような世界観を達成していくのかというプロダクトビジョンを私が示しています。それを踏まえた上で各々が考えていくわけですが、週に2回、私も含めてPdMが全員集まる会議を設定し、そこでそれぞれが作成したPRDを共有して議論してプロダクトとしての一体感や機能間の連携などをブラッシュアップしています。さらに、もう少しプロダクト開発における役割分担を説明しますと、エンジニア側にはプロダクトエンジニアリングマネージャーがいます。PRDを作った後、要件を定義して詳細設計をしていく段になると、PdMがプロダクトエンジニアリングマネージャーと会話しながら作り込んでいく。さらに、フロントのお客様側にはプロダクトマーケティングマネージャーがいます。彼らはプロダクトの営業支援を手がけ、また商談に同席して顧客の新たなペインを発掘する枠割を担っているので、それがPdM側にフィードバックされる。そうした情報が入ってくる中で、これは個別ではなくて法務全体が抱えるペインだと思えば、それを確認するためにPdMが自らさまざまな企業を訪問してヒアリングを行い、仮説を検証していくという形になっています。そしてソリューションとして価値があるものだと判断すればPRDを作成し、先ほどお話ししたPdMの全体会議で実際に開発を進めるかどうかを決定する流れになっています。

及川

プロダクト開発と事業戦略との連携はどのように行っているのでしょうか。

谷口

我々のプロダクト開発は3ヶ年のロードマップを策定しています。先ほどのプロダクトビジョンに基づき、その3ヶ年で実現したいユーザー体験を追求していくわけですが、いろいろと事業環境が激変する業界ですので、営業部門と絶えずコミュニケーションをとってユーザーからのフィードバックを注視し、最低でも半期に一度ロードマップを見直して人員も再配置し、弾力的にチーム編成を行っています。

及川

御社のPdMは、リーガルという少し特殊なドメインに関わることになるので、法務に関する専門知識が求められるかと思います。みなさんどのようにそれを身につけていらっしゃるのでしょうか。

谷口

当社のPdMの多くは法務未経験者です。入社後、必要な知識を習得できる研修コンテンツも用意していますが、やはり実地で学んでいくことが重要。当社にPdMとして入社いただくと、すでに提供しているサービスにまず関わっていただきます。そのサービスのPdMの顧客訪問に同行したり、業務の進め方を間近で見ながらキャッチアップしていただき、早ければ3ヶ月、遅くとも6ヶ月ぐらいで独立して自分のプロダクトを見ていただくという形をとっています。

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PdMに最も求められるのは、自らペインを探り出していく姿勢

及川

御社でPdMを担うにあたって、どのようなスキルが求められるのでしょうか。

谷口

Discoveryのスキルと、プロアクティブな行動様式を重視してます。我々が求めているのはプロダクトマネジメントであって、プロジェクトマネジメントではない。期日までにチームをうまく回して機能開発を終わらせる人材ではなく、自分でユーザーのペインを拾いに行って、それに対するソリューションを考えられる人材。たとえば、当社に興味をお持ちなら、事前に法務業務について調べたくなりますよね。いま自分が所属している企業の法務部は何をやっているのだろうか?とか、リーガルテックを使っているのだろうか?とか、実態をリサーチして理解したくなる。また、当社以外のリーガルテックのSaaSについても情報を集めたくなるでしょうし、その結果、「ここにペインがありそうなのになぜ取り組んでいないのだろう?」という疑問がいろいろ湧くと思うんですね、それを、当社との面接の場でぶつけてくださるような方にお会いできればうれしいですし、逆に受け身で解決すべき課題を待っているようでは当社でPdMを務めるのは難しいかもしれません。興味を持った目の前のことに関して、ペインがどこにあるのかを自ら積極的に探り、競合も含めてそのペインを取り巻く環境をすべて調べ上げ、これを絶対に解決したいという意思を持ち続けられるような方であれば、当社で大いに活躍できると思います。

及川

いま谷口さんがおっしゃられたのは、PdMに求められる本質だと思います。ユーザーのペインを拾うことが大切だというお話ですが、どうすればうまくそれができるようになると谷口さんはお考えですか。

谷口

対象は何もユーザーである必要なく、日常の生活の中で見聞きする出来事でも何でもいいので「なぜそうなっているのか?」という疑問を常に持つことが大切だと思います。100人いたら99人は何の疑問もなく事実として受け止めるようなことでも、それを意識して物事を捉えていく。でなければ、いざユーザーと会話しても本当のペインを探り出すことはできないと思うんですね。ユーザーは何が自分にとってのペインなのか、気がついていないケースが多いので、こちらが掘り下げて見つけ出し、噛み砕いて示してあげなければならない。それができるようになるには、何にでも疑問を持ち、それを突き詰めて調べてみるという姿勢を身につけることが重要で、これは実はPdMだけではなく、営業だろうが経営企画だろうが人事だろうが、すべての社会人にとって必要なことではないかと思っています。

及川

御社におけるPdMのキャリアパスについてもおうかがいできますか。

谷口

現在は、法務分野の中でさまざまなサービスを展開していく形になっていますが、今後は法務に直接関わらない領域にも進出していく計画です。「LegalOn Cloud」全体を統括するシニアなPdMを目指すというパスもあれば、「LegalOn Cloud」とは関係のない新しいドメインのサービス開発をリードしていくというパスもある。また、当社は国内のベンチャーでは珍しく、米国にすでにグループ会社を構えています。海外のプロダクト開発に携われる機会もあり、グローバルでキャリアを拡げていくことも可能です。

及川

では最後に、御社でPdMを務める魅力や醍醐味について、読者の方々へメッセージをお願いします。

谷口

当社のPdMは、プロダクトの企画から開発まで全体を見ていく立場であり、自分で意思決定できる領域が広く、大きな権限を有しています。反面、責任もたいへん大きいのですが、そうした状況をポジティブに楽しめる方であれば、とても充実したキャリアを得られると思います。また、当社はトップが弁護士ということもあって、議論好きな文化です。議論好きというと面倒な印象を持たれるかもしれませんが、立場など関係なく、理路整然として説得力のある意見であれば、仮に社長の考えとは違う意見だったとしても認められる。ファクトベースで議論し、正しいものが選択される会社なので、自分がやりたいことをストレスなく実現できることも、当社の大きな魅力の一つだと思っています。

構成:山下 和彦
撮影:波多野 匠

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※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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