EVENT REPORT
2019 Mar 06
CTO/VP of Eになれるエンジニア、なれないエンジニア
~さあ、あなたはこの先どこを目指しますか?~
登壇者
クライス&カンパニー 顧問 及川 卓也
FiNC Technologies 代表取締役CTO 南野 充則氏
WAmazing 共同創立者 取締役CTO 舘野 祐一氏
CONTENTS
ディスカッション
及川
今日のお題は「CTO/VP of Eになれるエンジニア、なれないエンジニア」。刺激的なタイトルですが、まずは開発系のトップであるCTO・VPoEがそれぞれどういうポジションかを理解したうえで、皆さんと一緒に紐解いていけたらと思います。ではお二人に簡単な自己紹介をお願いできますか?
舘野
僕は大学卒業後、15年ほどITに携わっています。受託開発の会社からスタートし、はてなにジョインして2009年頃からはてなブックマークの運営等々に携わりました。2010年にマネージャーを経験してみて、やはりエンジニアをやりたいなと思い、クックパッドへ移りました。
1年半ほど一エンジニアとして経験後、組織に所属する以上は一個人の力には限界があると感じていた時に、技術部長としての話があり引き受けることにしたんです。そこで10数名のエンジニア組織作りを行いました。
その後、ちょうどCTOのポジションが空いたタイミングで、経営視点を持ったエンジニアとして何ができるだろうと興味を持っていたので役員としてCTOに就任。その後、WAmazing代表の加藤と出会いジョインして、現在CTOを務めています。
南野
僕は大学時代に松尾豊准教授が所属する工学部システム創世学科でニューラルネットワークなどに携わっていました。元々起業したい思いがあり、学生時代から会社をつくったりしていてそのまま卒業後も2社の経営は継続しながらも、自分でサービスをつくっていきたいという想いもあり、ヘルスケアが事業領域としてしっくりきたのでFiNCへジョインしました。
溝口と出会い、一緒にやりましょうということになりまして。初めはCTO専任として参画し、技術戦略をつくるのがメインの役割でした。昨年、FiNCテクノロジーズの代表に就任してからは、技術をメインに置きつつ、資金調達から事業計画まで経営全般を管掌しています。
及川
お二人とは実はかなり前からの知り合いなので、エンジニアだった時代もよく知っているのですが、まさか今になってこのような形でお付き合いができるとは(笑)。さて、ここからは一問一答でお二人にお願いします。今でもコードを書いていますか?
南野・舘野
はい。
及川
今、興味がある技術は何ですか?
南野
ディープラーニングですね。
舘野
中国の技術です。
及川
典型的な1日の過ごし方を教えてください。
南野
朝の8:00からミーティングをしていて、ランチは外部の人たちと一緒に取ることが多いですね。午後もミーティングが続き、18:00からは会食や社内のイベントが入っていたり、飲みに行ったりします。大体、予定が24:00くらいまで埋まっている感じです。
舘野
僕は朝の8:00から中国語を学んでいます。曜日ごとに予定を分けていて、水・木はあまり予定を入れず、技術リソースをつくることに集中していますね。
及川
今、大事にしていることは何ですか?
南野
自分の時間の使い方ですね。
舘野
意思決定の確度をどう上げられるかということです。まだまだ未熟なので。
及川
今、困っていることはどんなことでしょうか?
南野
困っているというか、今取り組んでいることとしては、スケールする組織をどうつくっていくか、ボードの運営をどうやっていくかということです。
舘野
エンジニア採用ですね。宣伝になってしまいますが(笑)
及川
ありがとうございました。では、ここからはディスカッションに入っていこうと思います。まず最初にお伺いします。CTOの役割とは何でしょうか?
南野
経営状態を理解して、技術の選定やプロダクトのつくりかたを決めていくのがCTOの役割と考えています。
舘野
僕も南野さんと同じで、技術を持ったうえでいかに経営をしていくかということかと思います。技術がコアコンピタンスの会社は、CTOがその技術を全面的に引っ張っていくことが大切です。
一方で、僕が今いるのは「旅行×IT」という会社なので、旅行事業を理解してどう技術に反映していくかが自分のミッションです。会社によって異なる面はありますが、いずれも経営視点を持って技術をリードしていくという点では共通していると思います。
及川
お二人のお話からは経営視点という言葉が出てきますが、一方でその視点を持ったエンジニアは少ないと思うんですね。好きなコードだけ書きたいという人も多い。
南野さんは学生時代から起業されていたので元々経営志向だったのかもしれませんが、舘野さんは一エンジニアからスタートしたということで、まずは舘野さんに聞いてみたいと思います。いつから経営視点を持つようになったんですか?きっかけは?
舘野
クックパッド時代に印象的な出来事がありました。技術部長をしていたときに、当時の社長から「もしお前が社長だったら、(技術部長である自分自身に)どう動いて欲しいの?」と聞かれたんです。
技術を生かしてどうユーザー価値・事業価値に置き換えていけるのかを考えないといけないということで、視野が広がったのですが、これがきっかけでしたね。
南野
僕が経営に興味を持ったのは、祖父が起業家で高校時代から祖父の会社を手伝ったりしている過程からでしたね。経営者って面白いなと思っていて、大学も起業に適したところを選んでいます。
なぜソフトウェアかというと、スケールが小さい段階から活躍できるというところです。とは言え、最初の頃はあまり深く考えてはいなくて、お客さんにどうバリューを出せるのかとか、1円稼ぐのも大変だなと思っていました。まあそれは今でも大変ですが(笑)。自分の技術をどう価値に換えるのか?ということは大学からずっと考えていました。
及川
お二人の共通点は、事業への想いがあることだと思います。一般的なエンジニアは、必ずしも事業への熱意が無いことも多い。そういう人たちが多少なりとも事業へ興味を持つためのアドバイスはありますか?
南野
お客様を知ることが一番大切なんじゃないでしょうか。どれだけお客様を喜ばせられるか。自分がもしお客様だったらという目線を持つことかと思います。
舘野
僕がエンジニアとよく会話するのは、自分が書いているコードの価値がどこにつながるのかを考えてみようということです。
社内のスタッフの作業が効率化するとか、ユーザーに違う体験を与えられるとか。必ず何かにつながっている。目標を決める時に、その技術を使うことでどんな価値につながるのかを考えてもらうようにしています。
及川
今のお話はとてもいいメッセージですね。次に、お伺いしたいのはVPoEについてです。VPoEについてはどうお考えですか?
南野
当社はVPoEを置いています。役割分担としては、CTOは技術戦略をつくる、VPoEは組織やチーム・採用計画・評価制度など、組織をどう活発化していくかを考えていくというように切り分けています。
及川
VPoEは南野さんの部下という位置づけですか?
南野
はい。自分が代表を務めているので、そうなります。技術戦略を描く担当の方もいるのでチームで補完し合いながらやっています。
舘野
前職ではVPoEがいましたが、現職では絶賛募集中です。一人が両方やっているケースも多いと思いますが、組織が大きくなってくると、組織をどうしていくかを選任でやれる人がいた方がいい。CTOとの役割を分けたほうが良いと思います。
及川
組織をみる人と技術をみる人を別々にしましょうという話ですが、それはそれで現実的には運用面で難しいことも発生しませんか?
南野
僕らは、「お茶会」と呼んでいますが、代表の3人で情報共有する場を週に1度設けています。間違った意思決定がなされないよう、情報を細かく共有していますね。各々がイメージで話してしまいがちなので、ドキュメント化して皆の理解が同じ状態を鮮度高く保てるようにしています。
舘野
これは個人的な話ですが、1年半周期で僕は飽きがくるので、できる人に権限移譲するようにしています。考え方のズレは1on1で整合性を取りつつ、基本的には現場で決めていいよ、と。
及川
経営に大きく影響を与えるところはCTO、という切り分けですか?
舘野
そうですね。あと、セキュリティは問題が起きると大きいものですが、問題が起きないとあまり重視しない。セキュリティ関連のところは、CTOの役割として持っていたいです。
及川
技術的な仕事は何をどこまでやっていますか?参加者の方からの質問にもありますが、技術に触れる時間が短いと、技術選定で不安になりませんか?自分の中でその技術を咀嚼できるレベルにしないといけない。お二人はどうやっていますか?
舘野
大きい組織の場合は、常に権限移譲できる人を探していたところがあります。自分ひとりが万能でやるのは不可能です。
そのため、技術で信頼できるメンバーに権限移譲するというのは意識的にやっていましたね。逆に、CTOだからこそやれることもある。肌感覚を持たないと意思決定できないので、リサーチしながらやっていく。今はエンジニア10名程度の組織で、判断材料が危なそうだなというところは自分で引き取っています。
及川
リサーチ系のところは多少ペースを落としても経営には影響しませんが、中国事業の方はそうはいかないじゃないですか。タイムコミットメントできない部分はどのようにされているのですか?
舘野
最初は僕ともう1名のエンジニアで手を動かしていましたが、ある程度技術がつかめた時点でもう1名に移譲しました。どのタイミングで別の人に渡すかということがポイントですね。
南野
僕の場合は、外部の人と一緒にやることを意識しています。色々なCTOネットワークとか、技術に詳しい人リストをつくって日々洗練させていく。「ここ危ないよ」というのも、色々な人から情報収集して精度を上げていくようにしています。
及川
確かに、私がFiNCを手伝い始めた当時はエンジニア20名くらいで南野さんも一部手を動かしていましたね。今はエンジニア70名ほどになり、かなり任せているようですが。
ところで、事業系の人たちや経営陣はかなり声が大きく圧の強い人たちも多い中で、技術のトップとしてそこに負けずに対峙していくのはどうやっていますか?
南野
この事業をやる意味ってこうですよね、だったら技術もこうした方がいいと。選択肢を冷静に箇条書きにして、オプションを示して選んでもらうのがいいんじゃないかと思います。
舘野
ちゃんと説明できるということが大切ですね。事業サイドとしてどうにか早く進めたいんだけどという話が出た時に、短期的にはできるかもしれないけど長期的には破綻するということをしっかり説明すると、大抵の人は納得します。
何でこれができないのか、やるべきでないのか、これならできるよという対話をすることを心掛けてきました。
及川
技術者は技術が分からない人に説明するのが苦手なところがあり、じゃあやりますよと半分諦めて言ってしまいがちだけれど、それをやると負け。
僕の場合は、色々なベンチャーのアドバイザーをしているのですが、通訳としての役割を期待されることも多いですね。技術と経営の橋渡しという役回りです。
及川
さて、ここで参加者からの質問に戻ります。経営状況を理解したうえで技術を選定すると、必ずしも新しい技術が適切でないこともある。技術者のモチベーション低下につながり、離職につながっているがどうしたら良いでしょうか?
南野
長期的な視点を持つべきだと思います。エンジニアが大事なリソースとなってくる中で、採用とリテンションは最も大事。当社が求める人材と技術選定をしてるかは経営のKPIになる。自分が恥ずかしくない意思決定をするということです。
舘野
本当にその技術って必要?というのが大事です。新しい技術を採り入れるのかどうかは長期的に考えないといけない。それは短期的にはエンジニアのモチベーションに有効かもしれないけれど、やはり全体最適を見極めながらの意思決定になると思います。
及川
古い技術を採り入れ続けることのリスクは確実にありますが、最先端の技術を取り入れたとしても本当に使いこなせるのか、皆に使われ続けるのかという問題もある。本当にその技術が必要かどうか?次第ということですね。
及川
次の質問です。どう後継者を見つけて、どうやって育てていますか?
南野
育てるというよりも、もともと他社でCTOをやっていた人で、3年ほど一緒に仕事しました。やはり一緒に仕事をすることかなと思います。そのうえで、この人に任せても大丈夫と思えるかどうか。経営陣との相性もあります。ボードからの信頼を得ることも大事です。
及川
経営陣ときっちり会話ができるかというのは大事なポイントですね。
舘野
1つは、僕以外の人にメンターになってもらうことです。自分は1on1をしょっちゅうやっていて、エンジニア同士だと視野が狭くなる。
例えば、自分以外の社長にメンターしてもらうことで、考えを広げることに役立ちます。もう1つは、自分自身が経営者になるとしたら経営課題に対してどうするのかというお題を与えて解いてもらうことですね。
及川
なるほど。次いきます。皆さんが考える最強のエンジニア組織とは?
舘野
エンジニアというのは、自分自身で自分の仕事を奪っていると思います。最強というのは、究極はエンジニアがいない組織だと考えています。それでプロダクトが生み出せているのであれば、エンジニアがやるべきことはすべて全うしたことになりますから。
南野
課題発見する力が強い組織ですね。事業やプロダクトのクリティカルな部分を見つけて、自律して改善できる組織が良いと思います。当社では5チームに分けて運営していますが、パフォーマンスが高いチームは自分で課題を見つけてくるし、自分で動けます。
及川
次の質問です。CTOとして情報リソースはどうやって得るのでしょうか?
南野
友達のCTOからですね。CTO仲間は結構皆情報を隠さないので、フランクに話せます。
舘野
僕も同じで、他社の情報を得るにはCTOの知り合いから得られるのがとてもありがたいです。ここで大事なのは一次情報が得られるのはそれなりの立場の人からだけだということです。
ただし、一次情報を入手したとして、まったく同じことを真似しようとしてもそれはできません。様々なコンテクストが重なって、それを実行しているためです。
及川
自分が外資にいたとき、マネージャーの役割はネットワーキングだと言われたんですが、それと同じことかなとお二人のお話を聞いていて感じました。
及川
さて、CTOやVPoEというのはキャリアパスとして魅力的か?という質問ですが。
お二人はいま楽しいですか?
南野・舘野
楽しいです。
及川
言わせてしまいましたね(笑)。どんな人が向いていると思いますか?
南野
CTOに向いているのは、戦略思考が強い人。VPoEは人が好きでないと向かないと思います。
舘野
そもそもキャリアとして魅力的か?というと、実感としては結構大変な役割だと思います。山ほど大変な話があふれてくるので。
普通の人にキャリアパスとして勧めたいかというとどうでしょうね・・・。CTOは、技術が好きでそれを価値に転換するのが好きな人。VPoEは、人・組織に興味がある人。どちらも志向が合う人であれば非常に遣り甲斐ある役割だと思います。
及川
マネジメントをある程度やったから次はCTOというのは全員が目指すゴールとはちょっと違うと思うのですが、組織にいるミドルマネージャーは何を目指せば良いでしょうか?
舘野
IT産業はまだまだ成熟していない中、色々な道を模索している段階です。ミドルマネジメントをやった結果、逆に一エンジニアとして活躍できるのではないか?という人もいる。全員がCTOを目指す必要は無いと思います。
南野
事業の数字が見れ、技術が分かっていて、マネジメントもできる、と3つ揃っていれば事業部長という選択肢もあります。そこから執行役員になっていくとか。
新規開発をやっていくのもありだし、VPoEという形で組織を極めていくとか、技術を極めていくのもひとつですよね。自身がどんなことに遣り甲斐を感じるのかを踏まえて中期的目線で決めていけば良いのではないでしょうか。
及川
以前この汐アカでもそういう話が出ましたが、キャリアを行ったり来たりというのも、もっとカジュアルにしても良いのかもしれないですね。
舘野
マネジメントはやってみないと分からないので、確かに一度やってみるのはありだと思います。
及川
最後に、この会場にいるうちの何人かが今日の話を聞いてCTOになりたい!と思ったとして、その人たちがCTOになるためには何をしたら良いですか?
舘野
僕は色々なCTOに会いに行きました。結構皆さん話を聞きたいというとOKしてくれて、様々なインプットを得られありがたかったので、まずは色々なCTOに話を聞いてみるところから始めてみてはどうでしょうか?
南野
まずは社内の経営陣と話すということと、自分がどうしていきたいのかを決めることですね。仮でも良いからゴールを決めてみること。そして、その軸に合った人の話を聞いてみることです。
及川
人と会うとか、人と話す、人とコミュニケーションできるというのはCTOでもVPoEであっても大事なことですね。
構成:神田 昭子