BtoBtoEのプロダクトを創ることで新たな価値を生み出していく。
及川
まずは御社が提供しているサービスと、プロダクトマネージャー(PdM)がそのサービスの開発においてどのような役割を担っているのか教えていただけますか。
安達
我々は、社名でもある「SmartHR」という人事労務関係のペーパーワークをオンライン化するクラウドサービスを提供しています。そのなかで当社のPdMは、まず顧客の課題を特定してどんな機能が求められているのかリサーチし、具体的にサービスに落とし込むための要件定義を行い、開発と一緒にプロダクトを作り上げていく役割を担っています。
プロダクトは大きく分けて2種類あって、ひとつはSmartHRの「本体」と社内では呼んでいるのですが、人事労務を効率化するツール。具体的には、人事データベースを構築して社会保険の手続きなどがクラウド上でできるプロダクトです。
それともうひとつ、我々は「プラスアプリ」と呼んでいますが、この人事データベースを活用して、たとえば情報を可視化するBIツールや雇用契約を結ぶためのミニアプリなどをいくつか提供しており、それぞれ独立したプロダクトとして開発しています。
及川
いまお話のあった課題のリサーチというのは、どのように行っているのでしょうか。
安達
SmartHR本体は、すでにマーケットにフィットしているプロダクトなので、顧客からの要望がセールスやCS(カスタマーサクセス)などを通じてどんどん寄せられるんですね。それを集約して課題をリサーチしています。
そして事業戦略上、たとえば顧客層を拡げるために大企業のユーザーも開拓したいというテーマがあれば、現場から集まってくる要望の中で優先すべき課題を、経営レベルも含めて各部署の代表が集まって合議で決定。その状態でPdMがアサインされ、顧客にヒアリングして現場に即した形で課題をさらに深掘りしていくというスタイルです。
及川
人事労務に関することは、サービスを拡げようと思えばいくらでも拡げられる領域だと思います。SmartHRとしてそこに何か明確な指針をお持ちなのでしょうか。
安達
現状、給与計算と勤怠管理の領域には手を出さないと決めています。というのも、この2つはすでに市場にたくさんの優秀なプロダクトが存在し、レッドオーシャンなので我々がプラスで提供できる価値が少ない。まだ効率化されていない領域を攻めていこうというのが我々の大きな方針です。
当社が掲げるコンセプトは「Employee First」、すなわち従業員の方々のためのサービスを創ることを強く意識しています。SmartHRは人事労務担当者のためのサービスだと思われがちですが、けっしてBtoBのプロダクトではなく、BtoBtoEのプロダクトとして新たな価値を生み出していきたいと考えています。
及川
SmartHRが提供する人事労務サービスは、企業の規模によってニーズが異なるように思います。スタートアップと大企業ではお客様の要望も異なり、大企業向けに最適化すると中小企業が使いにくいとか、全方位にアプローチしようとするとプロダクトがうまくいかないジレンマが生じがちです。そうした状況に御社はどう対応されているのでしょうか。
安達
まさにいまの当社のフェーズにおいて、プロダクト開発でいちばん難しいと感じているのがその点です。
当初、SmartHRはSMBが対象で、なかでもIT関連などインターネットツールを使い慣れている企業がターゲットでしたが、いまやお客様は飲食業や小売業にも広がり、さらに数万人を超える大企業にも導入されています。おっしゃる通り、それぞれニーズが大きく異なるのですが、いまのところ可能な限りワンプロダクトで事業を展開していく考えです。
最近、大企業向けの改修を次々と施していますが、それでSMBのお客様から使いにくくなったという声はいただいていません。大企業のお客様からは「基幹システムと連携させたい」というご要望がよく寄せられますが、そうしたエンタープライズが求める個別のカスタマイズに関しては、連携部分の開発をパートナー企業やお客様のシステム部門などに担当いただく方向で対応していこうと考えています。