教育産業にイノベーションを起こし、社会の教育格差を是正するプロダクトを。
及川
山口さんは、リクルートのオンライン学習サービスの「スタディサプリ」を起ち上げられたプロダクトマネージャー(PdM)でいらっしゃいますが、まずはご自身の経歴を教えていただけますか。
山口
私がリクルートに入社したのは2006年、28歳の時です。それまでは大手SIer系のERPパッケージベンダーでSEを務めていました。私は学生時代に公認会計士を志し、会計の知識が多少あったのでERPのなかでも会計系のモジュールの開発を担当。
そこで会計モジュールをインストール型ではなく、サブスクリプション型のWebサービスとして提供する仕組みを創るプロジェクトにも参加し、プロダクトマネジメントも経験しました。が、所属していた企業が売却されることになり、私も新天地を求めてリクルートに転職しました。
及川
「スタディサプリ」は、どのような経緯で開発に至ったのでしょうか。
山口
実は、リクルートに入社後はプロダクトマネジメントではなく、事業企画や戦略策定を担うポジションに就き、教育事業に関わることになりました。
当時の教育事業は、高校生の進路選択の際に情報を提供し、大学や専門学校とのマッチングを図るという、まさにリクルートらしいビジネスを展開していました。
しかし成長が鈍化していて、ブレイクスルーするのに苦戦していたんですね。そこで、私なりに教育業界のマーケットをインサイトすると、イノベーションの種がいくつもあることがわかってきた。
特に注目したのが塾・予備校の業界。まったくネット化されておらず、アナログな手法で高価なサービスが提供されていて、この市場は変革できるチャンスが大いにあると。
私がアクションを起こしたのは2010年頃ですが、すでにスマートフォンが広く普及し、子供たちがYouTubeを観るのも当たり前になりつつありました。そこに、大手予備校が通信衛星で実施していたビデオ授業のようなコンテンツを配信すれば、従来の塾や予備校の授業料と比べて圧倒的な低価格で学習サービスを提供できる。
それは、経済的な理由による社会の教育格差を是正する上でも、非常に価値のあることだと思い、スタディサプリのビジネスモデルを社内の新規事業コンテストに出し、事業化の機会を与えてもらいました。以来、このサービスをゼロから立ち上げ、現在に至るまで事業責任者を担っています。
及川
山口さんは2015年から2019年まで、教育事業をカバーしている事業会社のリクルートマーケティングパートナーズの社長も務められています。
山口
ええ。おっしゃる通りリクルートマーケティングパートナーズの社長をしばらく務め、結婚情報サービスの「ゼクシィ」や中古車情報サービスの「カーセンサー」のプロダクト開発のトップも兼務していました。
しかし、私が本当にやりたいのは事業や組織を取り締まることではなく、マーケットに入り込んでプロダクトを創り、それを磨き上げていくこと。あらためてそう感じて、やはり想いのある教育事業に専念したいと2019年に社長の座から降り、以来、リクルートの教育事業全体の責任者を務めています。