INTERVIEW

INTERVIEW 021

2022 Jan 17

ネットスーパーを消費者に浸透させる。
パートナー企業や物流も絡むプロダクトのPdMは、
答えのない課題に取り組む面白さがある。

PROFILE

株式会社10X Co-Founder, 取締役CTO 石川 洋資 氏

面白法人カヤック、LINEでの複数の新規事業開発を経て、メルカリ/ソウゾウへ。 メルカリ/ソウゾウではプリンシパルエンジニアを務める。オープンソースプロジェクトへの参加や執筆活動も行っており、2017年2月には「Swift実践入門」を出版。

イシューに向かい続ける代表の矢本を見てきたから、共同創業を決意

及川

御社が手がける事業やサービスについて簡単に紹介いただけますか

石川

10Xは2017年6月に創業し、2年ほどは子育て世代に献立を提案する『タベリ―』というサービスを展開していました。選んだ献立の材料をネットスーパーに発注できる機能を提供した際に、ネットスーパーを一般消費者に浸透させるハードルを実感。事業をピボットしていきました。

現在は、日本中の誰もが手軽にオンラインで食品や日用品を購入できる世界を目指し、 スーパーなどの小売チェーンストア向けに EC プラットフォームである『Stailer(ステイラー)』を 提供しています。私たちがプロダクトを完全に作りあげて提供するのではなく、パートナー企業と一緒に創りあげていくプロダクトです。

及川

石川さん自身のご経歴を教えてください。

石川

元々はソフトウェアのエンジニアです。中学生からプログラミングを勉強し、新卒ではカヤックに入社。規模の大きなプロジェクトを経験したいとLINEに転職し、新規事業の立ち上げにも携わりました。

さらに、自らが意思決定できる事業サイズの会社で働きたいと思い、新規事業のメンバーを募集していたメルカリに転職。グループ会社のソウゾウで、「メルカリ アッテ(※現在はサービス終了)」というサービスのiOSアプリやサーバサイドの開発を担当しました。10Xの代表である矢本と出会ったのもメルカリでした。

及川

その後、10Xを矢本さんと共同創業されます。矢本さんと起業しようと考えたのはなぜですか?

石川

メルカリにはさまざまなプロダクトマネージャー(PdM)がいましたが、矢本が一番面白いと感じていたからです。真面目で、事業とユーザーに常に誠実であろうとする。そのためにはアクションやインプットを惜しまない人です。

特に、イシューに向き合う胆力がすごい。

僕たちが担当していたのは近所での物々交換や家事代行を行うサービスでしたが、矢本はいちユーザーとして物々交換を行いながら「ついでにインタビューさせてください」とユーザーの話を聞くなど、泥臭くユーザーと向き合っていた。ユーザーが何を求めているのか、どんな価値が生まれているかを考え続け、方針を示す というPdMとしてあるべき姿でした。

矢本のイシューに向かい続ける姿勢があるなら、いつか一定のところに辿り着くんじゃないかという信頼感がありました。

10Xの創業後は矢本がPdM、私がエンジニアリング を担当していましたが、Stailerの事業を始めるときに、よりビジネス・事業開発に近い部分を矢本が、プロダクト開発全般を私が担当する体制になりました。当時はPdMが不在だったので、実質的に私がPdMを担当していました。

及川

組織が大きくなるタイミングで、創業者が他の人にPdMを任せるケースが多く、一般的にはそこで課題が起きることもあります。御社ではいかがでしたか。

石川

矢本と私は能力やスキルにかぶりがないので、役割分担できていると思います。矢本が解決したい課題を決定し、その手段は私に任されているような状況です。

お互いに背中を合わせて信頼感のある状態で、事業を進められています。もしかすると、今後事業が拡大していくことで、より大きな課題にぶつかる可能性はあるのかもしれませんが。

及川

共同創業されていることもあって信頼関係を構築されているんですね。現在の御社の組織の体制を教えていただけますか。

石川

社員数は現在40名弱です。プロダクト部門ではPdMは3名、ソフトエンジニアが15名、デザイナーが2名、カスタマーサクセス2名、加えて、グロース & サクセスという分析やデータ周りを担う部門が3名、そしてコーポレートが5名、BizDevのメンバーが10名です。

その中で私が率いているのがStailerの開発チームで、PdMとエンジニアとデザイナーが在籍している20名ほどのチームです。ミッションを達成するのに十分なクオリティや速度を出すために、さらに人員を増やしていきたいと考えています。

PdMだけでなく、会社全体がプロダクトマネジメントの視点やスキルをもつ

及川

プロダクト開発はどのような起点で始まることが多いでしょうか?

石川

弊社の場合は大きく3つのパターンがあります。

1つ目はパートナー企業と一緒に事業機会を作る役割であるBizDevが起点の場合です。BizDevのメンバーがパートナー と話し、課題をまず言語化します。それに対し、PdMが解決すべきかどうかの判断や解決の手法を考え、プロダクト開発のアクションや方向性を決定。そして、抽象度を下げて、エンジニアやデザイナーを巻き込んでいく形です。

2つ目はグロース&サクセスがインサイトを取りまとめ、その情報を基に、PdMがどんな開発をするかを決めるパターンです。

3つ目はPdM自身がなにかしらのアジェンダを基に、BizDevやグロース&サクセスに調査を依頼することもあります。このように、BizDevやグロース&サクセスとPdMが双方向で作用しています。

現状はPdMの人員が不足していることもあり、BizDevやグロース&サクセスが起点となることが多いですが、それぞれがバランスよくまわっているのが望ましいと考えています。

及川

一般的に、PdMがイシューを発見する企業が多い印象があります。しかし、御社ではBizDevやグロース&サクセスが発見することも多く、会社全体がプロダクトマネジメントの視点やスキルをもっているのではないかと思います。こうした風土はどのように培われているのでしょうか。

石川

採用プロセスが影響していると思います。どの職種においても選考の最後に「トライアル」という一定期間一緒に働くというプロセスを設け 、スペシャリストとしての資質だけでなく、プロジェクトをどう推進していくかを重視しています。

たとえば、PdMの場合なら、「プロダクトをよくするには何が必要か」という方向性を示し、具体的に取り組む課題を提示してもらい、見つけた課題にどんなアクションプランを取るかを提示してもらいます。こうした選考過程において、方向性を見定め、周囲がアクション可能なブレイクダウンができるかを見ています。

及川

PdMが3名いらっしゃるとのことでしたが、それぞれどのような役割をされていますか。

石川

いままではプロダクト内に2~6名規模のサブプロジェクトが複数あり、プロジェクトごとにPdMがいる形でした 。最近は、「パートナーローンチ」「サービス開発」等のミッションごとの職種横断チームをリードしてもらっています。

及川

石川さんのブログを拝見したところ、独自性をもうけないように、ソフトウェアエンジニア はフロントエンド、サーバ系などに担当を分けていないと記述がありました。全員が幅広く対応できることを目指しているのでしょうか。

石川

組織や事業の成熟度に合わせて変わっていくものだと思いますが、この領域だからこの人に任せるということはなく、ソフトウェアエンジニアにはプロダクトに対する視野を広くもってほしいと考えています。

というのも、開発においては相反する領域が出てきます。広い視野をもっていないと、総合的な判断ができなくなる恐れがあるので、視野を広げる機会を増やすために幅広い分野を経験してもらっています。

及川

プロダクトの企画開発において、たとえばAmazonでは完成時を想定したプレスリリースを書くなど、独自の方法論を導入している企業もあります。御社がプロダクト開発のときに、共通して使っているフレームワークやプロセスはありますか?

石川

PdMの3名のメンバーは2021年入社した人ばかりなので、現時点では定まっていません。動きはじめた中で課題は出てきているので、どういったフレームワークやルールやプロセスをもつべきかをこれから確立していく段階です。

及川

PdMが取り組んでいることがプロダクトのビジョンに紐づいているか、ロードマップに沿っているかも重要なことですが、ロードマップは作成されているのでしょうか。

石川

抽象的なロードマップはありますが、より大きなイシューが見つかるケースも多いです。現在はカンパニーベットとして、会社が3年ほどの中期で達成すべきことを決めています。さらに、カンパニーベットに対してアクションできているかを確認する「クォータリーフォーカス」が存在します。

及川

クォータリーフォーカスは、OKRとどう違うのでしょうか。

石川

現時点のクォータリーフォーカスは、OKRより客観性は重視していません。プロジェクトの方向性が正しいか、労力をかける対象が正しいかを見るものとして機能しています。

今後、会社規模が大きくなっていくと、OKRのようにパフォーマンスを図るものも大事になっていくでしょうね。

個別企業と向き合うことと、プラットフォームとしての成長を両立する

及川

パートナーと一緒にプロダクトを創る中で、パートナーが課題の本質を捉えておらず、ずれた要望があがってくることはないのでしょうか。 御社では、課題の本質を探るために、どのように取り組まれていますか。

石川

Stailerの場合は、要望を強くいただくのは店舗オペレーションの部分が多いです。特に現場スタッフからの要望が多い ので、10Xのメンバーも 現場に足を運び、どのようにプロダクトが使われるのかを確認しています。その上でプラットフォームとして必要なものであるかという点を意識して判断しています。

例えば、「箱ごとに注文情報がわかるようにする 」など多くのパートナー企業で汎用的に必要なものは、早く実装すべきです。また、カスタマイズに思える要望も、視点をあげると、ほかのパートナー企業にとっても必要なものだったりすることもあり、Stailerが成長していく方向性の途中にある機能となるかを判断基準としています。

及川

日本企業はともするとカスタマイズの要望が強くなりがちです。大手のパートナー企業と付き合いながら、プラットフォーム自体を進化させていくことは難しいこともあると思いますが、両立するための秘訣はありますか?

石川

パートナー企業との意思決定においては、経営判断ができる方を巻き込むことを心がけています。パートナー企業の経営層には「大前提としてStailerはプラットフォームである」ことをしっかりお伝えしています 。

また、個社別に見るとカスタマイズの開発のように思えても、パートナー企業が100社になり、50社がA、50社がBを選択しているなら、それはカスタマイズではなく機能の選択であるとも考えています。このような機能のブロックを組み合わせていくことで、個社別に見てもユーザビリティのよいプラットフォームとして成長していきます。

また、スーパーという同じ業種だからとパートナー企業を一括りにすることはできません。都心と地方のスーパーであれば、ユーザーに届けるべき価値は大きく違います。都心のマンションに住むお客様か、地方で日常的に車に乗るお客様かで、スーパーに求めているものは異なるからです。そのため、個社に向き合うことも大事にしています。

個別のパートナーと深く向き合うことで、私たち自身の小売業の知見もさらに深まっていきます。

及川

御社は小売業のDXをされていて、個別のニーズにこだわって完璧なものを求めすぎると、受託開発になってしまう恐れがありますよね。あくまでプラットフォームとしてのプロダクトを開発するという線引きをされていると感じます。

石川

今後、パートナー企業が増えていくことを考えると重要ですよね。パートナー企業にとっては、プラットフォームに乗ることは事業におけるリスクを小さくするメリットがあります。SIはコストも高く、リリースまでの時間もかかります。

一方、プラットフォームを利用すれば、スポットでの大規模なシステム開発費用ではなく、毎月の 料金を払っていただければ 、クイックな立ち上げができ、プラットフォーム自体もどんどん進化していきます。こうした価値について、もっと伝えていきたい です。

価値を提供できるなら、ITという手段に限らず模索する企業風土

及川

創業当時はタベリーというプロダクトを運営されていました。そこから現在のStailerが生まれるまでの経緯を教えてください。

石川

ネットスーパーを多くの人に取り入れてもらいたいと考えたとき、ネックになるのは注文から届くまでのリードタイムでした。注文した商品が届くのは早くても6時間後で翌日だったりもする。

そのため、ユーザーは事前に何がほしいのかを考える必要があり、店頭の買い物とはまったく違います。ユーザー自身に行動変容する意思がないと、なかなか利用されないと感じていました。

及川

御社は自社でネットスーパーを運営されたこともありますよね。この話が僕は好きなんです。
検証前から難しいことはわかりそうなものですが、実際にやってみたのが面白い。

そのとき、会社はどんな雰囲気でしたか。ITの会社なのに、なぜこんなことをしているんだろう?という感じなのか、それとも面白いねという雰囲気だったのか。

石川

面白いねという雰囲気はありましたね。ネットスーパー連携をやって課題はわかっている自分たちだからこそ、ソリューション提供できるんじゃないかと思っていたんです。

エリアを区切って、SKU(Stock Keeping Unit, 在庫管理上の商品最小単位数)を絞ったり、ペインキラーになる小さなサブセットが見つけられれば価値があるのではないかと。

ただ、実際にやってみるとネットスーパーをするのは非常に大変で、検証段階で厳しいという結論になりました。

在庫の管理、仕入れのボリュームがないと価格的なメリットは出せないこと、商品の品質を保つことも大変です。なにより、お客様が名前も聞いたことのない店から口にするものを買うのは高いハードルがあることも実感しました。

新しいサービス形態を浸透させたいけれども、土俵に乗るまでが大変であることが 身にしみました。その結果、ITという自分たちの強みを活かし、商品やブランド に関しては強みをもつスーパーとパートナー関係を結び、お互いの強みを持ち寄るべきだという結論に至りました。

及川

こうしたエピソードが、「本当に価値が提供できるならITという手段に限らずに模索する」という御社のコアバリューにつながっていると感じます。御社がPdMに求めるスキルやマインドセットについて教えてください。

石川

広い視点をもった人です。優れたプロダクトを作るのは職人としてのスキルも必要ですが、パートナーやお客様に価値があるかという視点をもてなければたどり着けません。

そして、「こんな機能があったらいい」と思ったときに、他のメンバーが動けるようにブレイクダウンするスキルも重要。なぜこの機能追加に価値があるのか、どう実現するのかを話してみんなを動かすのが、PdMの仕事だからです。

こうした素養をもち、「価値あるものを生み出したい」という想いが強い方を求めています。

及川

逆に、こんな人には来てほしくないという人物像も教えてください。

石川

お客様から搾取しようという考えの人や、自分たちの数字を上げる力学だけで動く人は避けたいです。「事業にかかわる人全員を幸せにしたい」という考えを基に、何がベストかを考えて行動できる人と働きたいですね。

及川

PdMを目指す人、御社のPdMに興味をもった人へのメッセージをお願いします。

石川

10XのPdMは、一般的なネット企業のPdMとは性質が異なります。実際に商品や物流が動き、ビジネスパートナーと共に創り上げていくので、違う筋肉が鍛えられます。

そして、定型化された答えがないことも仕事の面白さです。例えば、アプリでのサプライチェーン管理は一部では実現していますが、サプライチェーンの知見、アプリの知見を組み合わせたベストなソリューションはまだ存在していません。こうしたまだ答えの出ていないことにチャレンジできることも醍醐味です。

10Xはプロダクトとして解決すべきことがまだまだあります。難題を解いて、多くの人の役に立ちたいと考える人や事業に興味をもった人にはぜひ応募してほしいです。

及川

今後の展望やゴールについて教えてください。

石川

現在今取り組んでいるネットスーパーの課題を解決するにはまだ道のり半ばで、5~10年はこの領域にフォーカスし続けるでしょう。

しかし、ネットスーパーに対して自分たちが実現できる拡張性がなくなったら、業界にこだわらずにほかの業種にも進出していくと思います。なぜなら、弊社のミッションは、「10xを創る」、つまり社会に対して非連続な価値を生む圧倒的によいものを実装し続けることだからです。


構成:久保 佳那
撮影:波多野 匠

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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