INTERVIEW

INTERVIEW 030

2024 Jan 11

領域にとらわれず、各々が自由に開発。
目指しているのは、チーム全員が超一流のプロダクトマネージャーになること。

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PROFILE

Sansan株式会社 執行役員/VPoP/VPoE 西場 正浩 氏

大学院で数理ファイナンスの博士号を取得後、メガバンクで数理モデルの開発に従事。その後、医療系ITベンチャーでエンジニアやプロダクトマネージャー、事業責任者、採用人事などを幅広く務める。2021年にSansan株式会社へ入社。技術本部研究開発部でマネジメント業務にあたり、現在はVPoEとしてエンジニア組織の整備と強化を担う。

ビジネスパーソンのメンタルモデルを転換した“Sansan”

及川

まずはSansanがどのような事業を営み、どのようなプロダクトを開発されているのかをご紹介いただけますか。

西場

当社は設立して17年になるベンチャーで、営業DXや経理DX、法務DXなど、働き方を変えるDXサービスを提供しています。主力のプロダクトは、社名にも掲げている営業DXサービス「Sansan」で、もともとは名刺管理からスタートしました。現在は、名刺管理から収益を最大化する営業DXサービスとして、さまざまな機能やデータを蓄積する仕組みを搭載したプロダクトに進化しています。

及川

Sansanが究めていらっしゃる営業DXの領域において、具体的にどのようなサービスを提供されているでしょうか。

西場

Sansanというプロダクトは非常に抽象度が高い領域をカバーしており、このなかにさまざまな機能が追加されています。当初、Sansanは名刺管理のサービスとして有名になりましたが、現在は人脈管理や行動管理などの領域にまでサービスが広がっています。もう少し具体的にお話しすると、当社が最初に手がけた名刺管理は、ビジネスパーソンのメンタルモデルを転換したことに大きな意義があったと認識しています。それまで外部の人と交換した名刺というのは、それぞれ個人が管理するものであり、同じチーム内でも他人が交換した名刺に触れることは憚られました。ましてや社長が交換した名刺を自由に見ることなどあり得ない状況でした。それがこのSansanによって、社員全員が交換した名刺をデータ化してクラウドで共有することで、誰もが自由に閲覧できるようになり、そこから新たなビジネスチャンスを探り出せるようになったのです。さらに、名刺以外の接点を管理していくことにも取り組み、メールのやりとりも共有できるようになっています。こちらも、以前なら他人のメールボックスなんて見られるわけがないと思っていましたが、Sansan上で設定すれば、同僚がどの企業のどんな方といつメールをやりとりしたのかがわかるようになります。結果、より効率的な営業活動が可能になるとともに、上司が部下の行動を管理しやすくなり、マネジメントの向上にもつながっています。

及川

いままで知りえないと思われていたことを見えるようにすることで、ビジネスパーソンの意識や行動を変えたことに、Sansanの大きな意義があるというわけですね。

西場

ええ。さらにSansanに企業データベースを組み合わせることで、自社が持っている名刺の企業情報が紐づく仕組みも構築しています。そこでは、担当している企業の人事情報や財務情報などが絶えずアップデートされ、また新たなニュースがあれば通知されるので、わざわざ自分から情報を取りに行く必要がない。このデータベースに登録されている企業情報はすでに100万社以上に及んでおり、誰でも自在にその情報を入手できる。こうして組織全体で情報を共有しているからこそ、Sansanは大きな価値を生み出せるプロダクトになっているのです。

及川

Sansanが提供しているサービスというのは、CRMやSFAとは異なるものなのでしょうか。

西場

我々が携わっているのは、CRMやSFAよりも広い概念の領域だと捉えています。Sansanが担うのは接点管理や人脈管理であり、企業における広義のあらゆる営業活動を進めていく際に役立つものです。たとえばSFAは案件管理のソリューションですが、Sansanは案件単位ではなく、幅広く人脈を管理していくソリューションなので、共存することができ相乗効果も高いと思っています。さらに我々が溜めているデータは非常に特徴的で、企業が何かアクションを起こした時、人の行動レベルでわかりやすいログが蓄積されていくんですね。人と人が出会って名刺交換した時にその名刺が残るとか、外部とメールをやりとりした時にその履歴が残るとか、きわめて明確なログが蓄積されてデータベース化されていく。そこに我々のサービスの源泉があると思っています。たとえばいま、請求書のやりとりが発生する時に残るログから、その処理業務を効率化するBill Oneというサービスも起こしていますし、あるいは契約書をやりとりしたログを共有し、全社で契約情報を活用できるContract Oneというサービスも立ち上げています。つまり、その企業が何らかの営業活動をすると残るログがすべてデータベースとして集約されていくことに当社は価値を見出しており、そこから我々ならではの営業DXを実現したいと考えています。

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「何をやってもいい」のがSansanのプロダクトマネジメント。

及川

続いて、Sansanのプロダクト開発の実態をおうかがいしたいのですが、現在、御社では何名のプロダクトマネージャーがいらっしゃって、どのように役割分担されているのでしょうか。

西場

私を含めて10名のプロダクトマネージャーがいますが、実は担当領域は決めていません。みんな何をやってもいい。それぞれ自分で企画を立て、ユーザビリティーテストを徹底的に行います。そして課題を発掘、深掘りし、各自が起案したものを最終的に私が判断して開発がスタートするという流れです。領域カットではなく、みんながプロダクトのすべてに関わって開発するのがSansanのスタイルです。

及川

とてもユニークですね。一方で、そうして各自の裁量に委ねてしまうと、特定の分野にプロダクト開発が偏ってしまうようなことが起こり得ると思うのですが、それは問題ないのでしょうか。

西場

偏ることが問題かと言えば、私はそうではないと思っています。いま市場でプロダクトに求められていることが明確ならば、そちらに偏っても問題ない。たとえばコロナ禍で世の中の人々が出社しなくなり、紙の名刺交換が著しく減りました。そうなるとデジタルでの接点情報の管理の強化が必要であり、プロダクトマネージャー全員がそこに注力するのは当然のアクションです。また、ある重要な機能のユーザビリティーに課題が見受けられれば、やはりみんながそれを解決したいと考える。そこでSansanというプロダクトが非常に面白いのは、ユーザーの業務プロセスはSansanだけでは完結しないという点です。たとえばSansanを見て、次にGoogleで検索して、Salesforceに飛んでまたSansanに戻ってくるという具合に、実はいろんな機能が繋がってユーザーに価値をもたらしている。ですから、同じ課題解決に取り組んでいても、いろんな角度からのアプローチがあり、全体として改善が進んでいるということもよくあるのです。偏ること自体が問題になるような事態は、いまのところ生じていません。私としては、プロダクトマネージャーはそれぞれバックグラウンドやスキルも違いますし、ユーザビリティーテストで対象とするユーザーもそれぞれ異なるので、各自の判断に委ねてもまったく同じ企画を考えて、まったく同じ結果になることはないと思っています。最終的に各自のアウトプットを合わせてもっといいものにすればいいという考えなので、統制は取れているけれども非常に自由な状況を敢えて作っている感じです。

及川

緩やかなディレクションが与えられた上で、それぞれ自由に自立性を持ってプロダクト開発を進めていく形をとられているのですね。

西場

確かにおっしゃる通りですが、一方でNorth Star Metricなどの指標を実はきちんと設けていて、プロダクトマネージャーは3か月に一度、自分のアウトプットとアウトカムをすべて一覧化して私に提出することを義務づけています。売上拡大やカスタマーサクセスへの寄与であったり、自分のアウトカムをできる限り定量的に示してほしいということを要求していて、それをもとに私が評価をつけています。3か月に一度そういう機会があると、やはり自分と向き合うわけです。『いろいろとアウトプットしたけどアウトカムは少なかった』『もう少し事業に貢献する成果を出さなければ』とおのずと内省して開発を進めていく。自由で自主性を尊重する環境ではあるものの、根本的な方向性はみな揃うように仕組み化しているイメージですね。

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「デザイン思考」と「ジョブ理論」をベースにした共通言語で議論。

及川

Sansanではプロダクトマネジメントを行う上で、10名のプロダクトマネージャーの方々が共通して用いている方法論などはありますか。

西場

プロダクトマネジメントに対する意識を統一することには徹底して取り組んでいます。先ほどお話しした通り、当社ではプロダクトマネージャーがそれぞれの観点で自由に開発に取り組んでいますが、それを成立させるためには共通言語が必要です。私とメンバー同士もそうですが、共通言語がないと議論が成立しないからです。たとえば、あるメンバーは「データがすべてだ。データを徹底的に見て方向性を示すべきだ」と主張し、別のメンバーが「データだけでは未来は創れない。感性が大切だ」と言い張れば、もう何の話し合いにもならない。ですから、議論のベースとなる共通言語を持つように努めていて、メンバーには『INSPIRED』や『EMPOWERD』などプロダクトマネジメントの手法を紹介した優秀な書籍を読むように指導しています。また、業務の中では「デザイン思考」と「ジョブ理論」をキーワードに開発を進めています。プロダクトマネジメントにおいて重要なのは、ロジカルシンキングと言語化能力。メンバーにはそれらを常に向上させてほしいと訴えています。たとえば、プロダクトマネジメント未経験の新たなメンバーがチームに加わった時、最初に行うのが文章を書く訓練です。何よりも文章を正しく書くことが、チーム間のコミュニケーションや議論のベースになるので、まずは伝えたいことをきちんと適切に表現する能力が必要です。その上で、デザイン思考やジョブ理論を徐々にインプットし、Sansanのプロダクトマネージャーとして活躍できる素養を身につけてもらっています。

及川

実際のプロダクト開発は、どのようなプロセスで進めていらっしゃるのでしょうか。

西場

これも当社のプロダクト開発の特徴だと思うのですが、ステップチェンジを生み出すような取り組みと、それをイノベーティブなレベルにまで磨き込むことを、明確に分けて同時に走らせています。たとえば、Sansanは名刺をデータ化して全社で共有することが画期的だったわけですが、名刺をデータ化する精度が90%程度ならば、おそらく誰も使ってはくれない。それを99.9%にすることで、初めてイノベーティブな機能になる。すなわち、ステップチェンジになるきっかけを作ることと、それを真に機能する状態にまでもっていくことは別です。ステップチェンジを生み出すような取り組みというのは、1年後から3年後を見据えたユーザー体験を設計し、それをもとにプロトタイプを作り、顧客に触れてもらい議論しながら磨いていく。そして、そのプロトタイプを実現することが決定されれば開発が始まり、リリース後はアジャイル的に磨き込んで機能を高めていく。当社は、その二つの流れを明確に分けて、ユーザーに対する価値を追求していくプロセスをとっています。

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どんな場でも活躍できるプロダクトマネージャーになってほしい。

及川

Sansanのプロダクトマネージャーに求められるスキルやマインドセットについて教えていただけますか。

西場

Sansanのプロダクトマネージャーに共通して求められることは、やはりグロースマインドセットですね。あとは基本的なスキルとして、ロジカルシンキングや言語化能力を備えていること、さらに書物から学ぶ姿勢も重要です。書物から先人の知恵を吸収し、果敢に実践して自分なりの知見を磨いていこうというマインドを持つ人材を我々は求めています。特に当社の場合、プロダクトマネージャーが担当する領域を決めていないので、基本的な能力を自ら高めていくマインドが大切です。そもそも担当領域を決めていないのは、プロダクトマネージャーとして超一流になってほしいという思いがあるからです。特定の領域だけに精通するのではなく、どんな領域に携わっても通用するプロダクトマネージャーになってほしい。ここでは何でも自由にできるので、ステップチェンジが起きるような未来のユーザーの姿を描き、それをプロトタイピングして顧客に触れてもらいながら形にできる機会がふんだんにある。それは新規のプロダクトの立ち上げと同じ行為だと思っています。Sansanという既存の有力なプロダクトに関わりながら、ステップチェンジするため、全く違うUIやUXを企画提案することができ、日々プロダクトマーケットフィットの達成を目指して機能を磨き上げていく。その力はどんな企業のプロダクトマネージャーにも求められるものであり、それを身につけられる環境を私は意図して作っています。これを面白いと思ってくれて、かつチャレンジしたいという意欲あふれる方に参画していただきたいですね。

及川

Sansanに参画した後、プロダクトマネージャーとしてどのようなキャリアパスが得られるのでしょうか。

西場

当社では、Sansan以外にも新たなサービスの立ち上げを進めていますし、すでに複数のプロダクトを展開しているので、いろいろなプロダクトマネジメントを経験できます。あと、私の後継者は常に探しているので、VPoPを務められるぐらい成長していただければプロダクトの意思決定はすべてその方に委譲したいと考えています。ただ、先ほどもお話しした通り、私は当社でキャリアを積むことで、どこでも何でもできるプロダクトマネージャーになってほしいと思っています。ですから、しなやかなマインドセットをもって自ら学んで実践し、スキルを高めて本当にユーザー価値のあるプロダクトを作り上げていくという、根本的な成功体験をメンバーにどれだけ提供できるかがマネージャーとしての私の任務だと捉えています。その成功体験を積み重ねれば、どんな領域でどんなプロダクトでも手がけられるでしょうし、VPoPもきっと担えるようになる。キャリアパスも個人の意思に委ねていて、それを実現するためのコアを築き上げることを支援したいと思っています。

及川

では最後に、Sansanのプロジェクトマネージャーへ転職をお考えのみなさんに、何かメッセージをいただけますでしょうか。

西場

Sansanというプロダクトはまだまだ完成しておらず、そのなかで非連続な成長をデザインして実装していくこともできますし、既存の機能をイノベーティブなレベルまで磨き込んでいくこともできます。プロダクトマネジメントの観点で本当にさまざまなことができる状況なので、熱い気持ちをもってチャレンジできる方と一緒に働きたいと思っています。


構成:山下和彦
撮影:波多野 匠

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※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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