INTERVIEW

INTERVIEW 033

2024 Oct 10

立ち向かうのは、日本の物流が抱える重大な課題。
社会構造の歪みを、プロダクトで解決していく。

Podcastで聞く

PROFILE

ハコベル株式会社 執行役員 プロダクト開発部 部長 宮武 晋也 氏

慶應義塾大学卒業後、グリー株式会社に入社。複数サービスのプロデューサー、海外開発拠点立ち上げを経験。2015年にラクスル入社後、ハコベル事業立ち上げのBizdev・プロダクトマネージャーとして、プロダクトマネジメント、事業開発、OPR構築に従事。運送手配事業、物流DX事業立ち上げ経験後、現在はプロダクト開発組織のマネジメント・新規プロダクトの事業開発を担当。

ラストマイルの配送を最適化し、物流にDXをもたらす

及川

まずはハコベルという企業の概要と、御社が提供しているサービスについてご紹介いただけますか。

宮武

ハコベルは、2015年にラクスル株式会社が起ち上げた物流プラットフォームの新規事業からスタートしています。サービス領域としては、配送トラックのマッチングサービスと物流のDXシステムの大きく二つを展開。トラックのマッチングサービスは、荷主のお客様からのオーダー情報と、運送事業者や個人事業主のドライバーの方々をWebのプラットフォーム上でマッチングさせて、社会における輸送の効率化を図るものです。そして、物流のDXシステムは、荷主・運送会社の配車計画や配車・運行管理などの業務をデジタル化し、まだまだ電話やメール、あるいはFAXなどを使っている旧態依然とした物流現場を革新するためのSaaSを提供しています。2015年のスタート以来、ラクスル内の一部門としてこうしたサービスを展開していましたが、2022年にハコベル株式会社として独立し、物流企業大手であるセイノーホールディングス株式会社や山九株式会社などからも出資を得て、事業を拡大しているところです。

及川

昨今、物流業界は人手不足に加えて「2024年問題」などもあり、大変な状況に置かれていて世間からも注目を集めています。さまざまな企業が課題解決を図ろうとこの領域に乗り出していますが、そんななかでハコベルは現在、どのぐらい事業を拡げていらっしゃるのでしょうか。

宮武

たとえば荷主と配送ドライバーのマッチングサービスでは、すでに2万社近い運送事業者をプラットフォーム上に抱えており、累計ではすでに100万件以上のオーダーを捌いてマッチングを果たしています。

及川

いま2万社近い運送事業者を抱えていらっしゃるとのお話でしたが、この業界はどのような構造になっているのでしょうか。

宮武

物流業界は配送領域のセグメントが分かれており、大きくラストマイル配送と一般貨物配送の2つの領域があります。ラストマイル配送というのは、物流の最終拠点からお客様のもとに届ける配送のことであり、主に軽自動車を使用して荷物を運ぶ軽貨物運送が主流。届出制であるため参入が容易で、個人事業主の方もたくさんいらっしゃいます。一般貨物配送はトラックを使用する配送であり、国の認可が必要であるため法人格の事業者となります。こちらがいわゆる運送会社ですが、国内の運送会社の8割は中小企業であり、非常に多数の小規模事業者が日本の物流を支えているという構造になっています。

及川

いまのお話からも、物流業界を効率化できる余地はまだまだたくさんあるように見受けられます。それでは次に、宮武さん自身のご経歴を教えていただけますか。

宮武

私は新卒で広告制作会社に入社し、第2新卒でゲームアプリの開発とプラットフォームの運営を手がける企業に転職して、そこで初めてプロダクトマネージャー(PdM)のようなポジションに就きました。しばらくキャリアを積んだ後、2015年にラクスルに入社し、このハコベルの立ち上げから携わっています。最初はラストマイルのマッチング、次に一般貨物のマッチング、そして物流DXという形でハコベルの事業は拡がってきましたが、それぞれ事業開発からプロダクトマネジメントまで一貫して担い、現在はプロダクト開発部門を統括する責任者を務めています。

及川

ゲームのプラットフォーマーから、なぜラクスルに転職しようとお考えになられたのでしょうか。

宮武

前職では、コンシューマーの方々を楽しませるゲームを開発することにやりがいを感じ、またプロダクトマネジメントについて学べる機会も多く、たいへん充実したキャリアを得ることができましたが、やはりゲームのタイトルというのは3~4年の周期があり、ピークを過ぎると消えゆくサービスがほとんどでした。そこに物足りなさを覚え、自分が関与したものが未来に残り続け、価値が積み上がっていくようなサービスを手がけたいと転職を考えるようになり、なかでもゼロイチのフェーズから携われる機会を探していたところ、出会ったのがラスクルでした。創業者の松本(恭攝氏)との面接の場で、新たに立ち上げようとしているこのハコベルのコンセプトを聞き、ぜひこの社会課題解決に挑戦したいと熱量が上がって入社を決意したのです。

この記事をPodcastで聞く

プロダクトを通じて社会課題を解決することに心血を注ぐ

及川

続いて、ハコベルのプロダクトマネジメントの組織についておうかがいします。現在、御社では何名のPdMを抱え、どのような役割分担をされているのでしょうか。

宮武

私を除いてPdMは5名程います。どのように役割分担しているのかといえば、当社がサービスを提供しているラストマイルのマッチングの領域と一般貨物のマッチングの領域、さらに物流DXのなかでも配車計画の領域と配車管理の領域に分かれているため、それぞれにプロダクト組織が設けられ、PdMも基本的にそれぞれに紐づいて開発をリードしています。

及川

実際にどんな方がPdMとして活躍されているのでしょうか。

宮武

経歴はさまざまで、もともとエンジニアとしてキャリアを積み、当社に入社してからプロダクトマネジメントの領域にロールチェンジしているメンバーもいますし、20代の若手で別の企業でプロダクトマネジメントを数年経験した後に当社へ転職してきたメンバーもいます。

及川

御社のPdMの方々のバックボーンは多様だとのことですが、何か共通項のようなものがあるのではないかと想像します。宮武さんはハコベルのPdMに必要な資質は何だとお考えですか。

宮武

プロダクトを通した社会課題解決に強い興味や関心があることが、やはりハコベルのPdMに求められる大前提の資質だと思います。その社会課題をリアリティをもって解決していくために、自ら物流の現場に赴いてお客様と対話し、プロダクトに関するフィードバックを得て、新たな開発に反映していくプロアクティブな姿勢も求められる。まだまだ当社は発展途上にあり、組織も固まっていないので、プロダクトにまつわるあらゆる課題に能動的に関わっていく姿勢をハコベルのPdMはみな備えているように思っています。

及川

確かにいま物流業界は人手不足などの危機に直面し、その解決がこれからの社会に求められています。最近では、ラストマイルの配送をドライバーレスで自動運転化しようという動きも起こっていますが、御社も視野に入れていらっしゃるのでしょうか。

宮武

配送の自動運転化を図ろうとする事業者の方々はすでにいらっしゃるので、我々はその手前の情報流通のレイヤーをしっかりと押さえたいと考えています。トラックを自動運転させる際には、積み荷の種類や届け先の住所などの情報をインプットせねばならず、我々はソフトウェアの領域でこの情報の流れを作っていくことにフォーカスして、社会課題の解決に大きく貢献する企業でありたいと自己定義しています。

及川

物流業界はそうして変革の可能性が大いに残されていると思いますが、ハコベルのPdMの方々の間では、いま業界がどのような状況に置かれ、どのような課題があり、どんな未来を創っていくべきなのか、社内で折に触れて議論されていらっしゃるのでしょうか。

宮武

ええ。物流業界は法規制に大きく影響されるため、国が新しいルールを定めるたびに我々としてどのようなサービスが提供できるのかを絶えず議論しています。その際、結構難しいのが、物流業界は荷物の配送を発注する側の方もいますし、運送事業者の方もいますし、さらに荷物を発注する側の上流にもお客様がいらっしゃる。いろいろな関係者が絡み合うので、あるセグメントの課題を解決しようとすると、別のセグメントにいらっしゃるお客様にペインが及ぶなど、相互に影響することが多い。そこをどううまく折り合いをつけるのか、新たな機能を開発する時にはPdM間でかなり深く議論していますね。

この記事をPodcastで聞く

ユーザーの観点、システムの観点、ビジネスの観点から最適解を追求

及川

ハコベルのPdMの仕事の進め方について、もう少し具体的におうかがいします。プロダクトで解決すべき課題を特定し、企画開発されてお客様のもとに届けられるまで、この一連の流れのなかでPdMがどのような役割を果たしていくのか、ご説明いただけますか。

宮武

まずハコベルにおいて、PdMが解決すべき課題を特定するプロセスは大きく二つあります。お客様ご自身や、実際にお客様と接するカスタマーサポート、カスタマーサクセスから寄せられる改善要望に対応するパターンと、事業側からKPI上で改善が必要なポイントについて要請されるパターンです。この二つの経路から上がってきた課題を、事業責任者と議論しながら優先順位をつけ、PdMが要求定義を決めています。その後、実際に仕様に落とし込み、エンジニアやデザイナーと協業しながらモックアップを作って検証していきますが、その際に必ずやらなければならないのは、先ほども申し上げた通り、ある機能をデリバリーするといろいろな関係者に影響が及ぶため、関与するユーザーの声を聞くこと。関係者へのインタビューを重ねて、ユーザーの観点、システムの観点、ビジネスの観点から仕様を叩いて最適なサービスを追求していくことを、PdMがリーダーシップをもってエンジニアやデザイナーとともに推進していきます。その影響範囲を見極めていくことが、当社のプロダクトマネジメントにおいて結構難易度の高い点ではないかと個人的には思っています。

及川

いま、事業側からKPI改善のためのリクエストがあるというお話がありましたが、たとえば配送トラックのマッチングのリードタイムを短縮するというKPIが設けられていたとして、そのために企画開発した機能が成果を上げられるかどうかは、実際にリリースしてみないとわからない部分もあるかと思います。仮設に基づいてプロダクトを投入し、もし失敗だと判断されれば迅速に次の施策を打つ必要がありますが、こうした事態を御社ではどのようにコントロールされているのでしょうか。

宮武

当社のサービスで判断が難しいのは、新しい機能をリリースして即効性があるケースと、マーケットで徐々に浸透し、1年後2年後に振り返って「この機能は有効だった」と認められるケースがあるんですね。たとえば配送トラックのラストマイルのマッチング領域でいうと、最初は走行距離に応じて課金される機能を提供していましたが、途中で新機能を追加しました。それは、あらかじめ決められた時間内ならば、いくらトラックを利用しても構わないというサービス。ローンチ当初はまったく使われなかったのですが、オーダー時に配送先が未定という荷主の方々が結構いらっしゃって、そうしたマーケットを営業部門が開拓したことで、1年経つと利用率が大きく伸びたというケースもありました。これまでの経験上、ユーザーのフィードバックを受けてあまりに早く判断してしまうとミスリードになってしまうことが往々にあって、比較的長い時間軸でモニタリングしていることも当社の特徴ですね。

及川

あともう一つ加えておうかがいしたいのが、御社のプロダクト開発体制です。PdMはどんなポジションの方々と関わり、どのようなチーム運営で開発が進められているのか、教えていただけますか。

宮武

チーム運営でいいますと、エンジニア・デザイナーはもちろん、マーケティング・セールスのチームや、カスタマーサクセス・カスタマーサポートのチームとも密に関わっています。両チームのメンバーは物流業務に対する深い理解を持っている人間ばかりですので、彼らの知見もプロダクト開発に大いに反映しています。いったんプロダクト開発がスタートすると、PdMは総勢15名から20名ほどのメンバーをまとめる立場に就く感じでしょうか。

この記事をPodcastで聞く

一つの事業を一人のPdMが担う。オーナーシップを存分に発揮できる場

及川

それでは、御社でPdMとして活躍するためには、どのようなスキルやマインドセットが求められるのか、あらためてお考えを聞かせていただけますか。

宮武

先にも触れましたが、マインドセットで言えば社会課題解決への興味関心が高いことですね。そして、当社のPdMは現場のお客様と直接対話する機会も多いので、事業開発の資質も兼ね備えているような方が望ましいと思っています。逆にソフトウェアの仕様面などについては、チームのエンジニアがフォローしてくれますので、テクノロジーに対する興味関心やリスペクトを持った上で、きちんとキャッチアップできる方であれば問題ありません。また、当社は物流配送のドメインのなかで複数の事業を展開しており、基本的に一つの事業を一人のPdMが抱えて推進していく体制です。ですから、オーナーシップをもって自分の意思で事業を動かしていくのだという、そうした気概をお持ちの方に参画していただきたいですね。

及川

いま宮武さんがおっしゃった資質を持つ人材がPdMとして採用されたとして、入社後のオンボーディングはどのように行われているのでしょうか。

宮武

強いオーナーシップを持って業務に臨んでほしいのですが、とはいえ、入社していきなりそれを発揮するのは難しいと思います。ですから、最初の3カ月から半年は先輩のPdMとペアになって行動したり、あるいはシニアなテックリードがいるチームでサポートを得ながらキャッチアップしていくという併走期間を設けています。まずは特定のスクラムの中に入っていただき、小さな成果を出して周囲の信頼を獲得しながら、自ら担える領域を広げていただければと考えています。物流に関するドメイン知識は、社内に専門的なバックグラウンドを持つメンバーを擁していますので、彼らから積極的に知見を引き出していけばおのずと身についていくと思います。

及川

そうして一人前のPdMに成長された後、さらなるキャリアアップをどのように支援されているのでしょうか。

宮武

それに関して言えば、物流配送の事業ドメインのなかでもサービスが徐々に増えており、新しい領域に挑戦できる機会は豊富にあります。私自身、自分が大きく成長できたと感じるのは、新しい環境に身を置いてチャレンジした時だと強く思っています。ですから、メンバーの意向に沿いながら、そうした場を積極的に提供していきたい。それが組織を率いる私の重要な役割だと認識しています。

及川

PdMのキャリアアップを促すには評価も大切だと思いますが、御社ではPdMの人事評価をどのように行っているのですか。

宮武

成果評価と能力評価の2軸で行っており、それぞれ50:50の比率になっています。能力評価については、PdMのグレードに応じて果たすべきロールを社内で定義しており、それを基に評価を行っています。成果評価に関しては、半期ごとにKPIの改善目標を事前に合意し、半年後にその達成度合いを評価しています。成果評価は市場環境などPdMが責任を負えない要因に左右されることもあるため、能力評価が基本給のベースとなっており、成果評価は主に賞与に反映される仕組みとなっています。

及川

それでは最後に、御社でPdMを務める魅力や醍醐味について、読者の方々へメッセージをお願いします。

宮武

いま我々が関わっている物流業界が特に顕著ですが、これからの日本の社会は、少子高齢化などによって産業にさまざまな歪みが生じていくでしょう。今後の10年20年を考えた時、日本が直面するであろう社会構造の歪みをプロダクトで解決したいという、そんな志にあふれた方と一緒に仕事ができればと願っています。もしハコベルに興味をお持ちであれば、ぜひ一度、当社の門を叩いていただければと思います。


構成:山下 和彦

この記事をPodcastで聞く

※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

OTHER INTERVIEW

CLOSE