INTERVIEW

INTERVIEW 034

2025 Feb 13

ディスカバリーにとことん集中できる環境で、
企業のバックオフィス業務を効率化するプロダクトを。

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PROFILE

株式会社ラクス 開発本部 東京開発統括部 製品管理課課長 稲垣 剛之 氏

大学卒業後、独立系SIer企業に入社。約10年間、WEB系システム開発・運用のPG、SE、PMを経験し、その後、ファッションECサイトの立ち上げ直後から約9年間、開発責任者として参画。最終的には企画・デザイン・開発といったプロダクト開発全般の責任者を担当。2021年8月ラクスに入社、楽楽精算をはじめとする製品のプロダクトマネジメントを統括して担う組織のマネージャーを務める。

ラクスのプロダクトマネジメント組織は、まだ立ち上がったばかり。

及川

まずはラクスの企業概要と提供しているサービスについてご紹介いただけますか。

稲垣

ラクスは「ITサービスで企業の成長を継続的に支援します」という経営理念を掲げ、業務効率化クラウドサービスとIT技術者派遣の二つの事業を展開しています。売上比率としては業務効率化クラウドサービスが85%を占めており、バックオフィス業務に特化する「楽楽シリーズ」と業務効率化全般を支援する「ラクスサービス」で10製品を提供しています。
「楽楽シリーズ」は積極的にTVCMを放映しており、みなさんご覧になられたこともあるのではないでしょうか。このシリーズは、経費精算や請求書発行、勤怠管理などの業務効率化を支援しており、マルチプロダクトで基本的にベスト・オブ・ブリード型の製品形態であるとともに、 それぞれ製品のフェーズが異なっていることが大きな特徴です。

及川

続いて、稲垣さんご自身のお話をおうかがいしたいのですが、現在ラクスで担われている業務と、いままでの経歴を簡単に教えてください。

稲垣

私は現在、東京開発統括部の製品管理課のマネージャーを務めています。こちらは「楽楽シリーズ」にラインナップされる「楽楽精算」「楽楽明細」「楽楽電子保存」の3製品のプロダクトマネジメントを担う組織です。 私が入社したのは2021年8月ですが、製品管理課はそのタイミングで新たに立ち上がりました。それまでラクスにはプロダクトマネジメントの専任組織が開発側に存在せず、事業側にいわゆるPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)の組織があり、こちらと開発側の最上流のメンバーが連携をとりながらプロダクトマネジメントを進めていました。
ただ、この形だとどうしても事業側がマーケティング寄り、営業寄りになって開発側に要求がしっかりと伝わらない状況が生じがちで、開発側がその要求をかなり咀嚼してなければならず、非常に負荷がかかっていたんですね。そこで当時の私の上司が、開発側にプロダクトマネジメント組織を置いたほうがよりスムーズに運営できると判断し、製品管理課が発足しました。リリースされて長く時間が経っている製品でしたので、開発の上流部分が足かせになると成長に支障が出るという問題意識もあり、このプロダクトマネジメント組織を率いるミッションを託されて参画した次第です。
私の経歴をお話ししますと、基本的にバックボーンはエンジニアです。新卒で入社したSIerで10年ほどPG、SE、PL、PMを経験し、主にWebサービス系やバックオフィス系のシステム開発を手がけましたが、やはり自社サービスのほうが私としては向いていると感じて転職。ファッション系のECサイトを運営する企業に入社し、その立ち上げから関わって開発責任者を務め、その後、企画やデザインも含めてサイト全体の責任者、さらに子会社化した後は役員に任命され、経営にも携わりました。役員は2年で退任し、その後はAWSで技術サポートのマネージャーを1年ほど務め、やはり製品開発を手がけたいとラクスに入社したのがこれまでの経歴です。

及川

稲垣さんはSIer時代にご自身で何かプロダクトを作りたいという思いが湧き、それがキャリアの軸になっているようにお見受けしました。

稲垣

おっしゃる通りで、SIerに在籍していた時は、こうあるべきだと最適な仕様を考えてもお客様の都合で要求が通らなかったり、納品したものの結果的に使われていないような場面に出くわすことが多く、残念な思いをよく味わっていました。やはり要求を出す側、製品を作る側のほうが、自分としてはモチベーションが高く開発に取り組めると感じて、自社サービスを手がける企業に転職したのです。

及川

もうひとつ、いままでのご経歴に関してご質問したいのですが、ファッションECサイトの開発からAWSの技術サポートに移られたのは、どのような理由からだったのでしょうか。

稲垣

ファッションECサイトの運営企業では、プロダクトの立ち上げからグロースするまで開発責任者として関わり、8年ほどで売上250億円にまで成長させました。その時点でやり切った感があり、また、その過程で事業視点や顧客視点の重要性を強く認識したものの、やはりプロダクト開発をドライブするのはテクノロジーであり、開発のトップはテクノロジーに強い人間のほうがいいと感じていました。
そしてテクノロジーをもっと究めたいと考えるようになり、実は役員の就任要請を受けた時点では辞めようと思っていたんです。でも経営に携わるチャンスなどそうそう得られるものではありませんし、いったんチャレンジしてみようと受諾。それまで手がけたことのなかったバックオフィスのマネジメントなども経験し、キャリアが大きく広がりました。2年ほど役員を務めてある程度成果を上げられたタイミングで、まったく新しいことにチャレンジしてみたいとAWSへの移籍を決断。ファッションECサイトの開発時からAWSを活用していて、素晴らしいテクノロジーを持っていると非常に興味を持っていましたし、まったく未知の世界でどれほど自分が通用するのか挑戦してみたいという気持ちもありました。

及川

エンジニアからプロダクトマネジメントにシフトし、またテクノロジーサイドに戻ってキャリアを充実させたいとお考えになられたのですね。私自身もテクノロジーにこだわりがあり、稲垣さんと同じような道を歩んできたので大いに共鳴できます。ちなみに、稲垣さんがプロダクトマネジメント的な業務を手がけ始めたのは、いつ頃からですか。

稲垣

SIerに在籍していた20代後半の頃には、チームでいいものを作ってお客様に届けていくほうに力を振っていこうと考えていました。当時はまだプロダクトマネジメントという言葉もなかったと思いますが、私としては「何を作るのか」「なぜ作るのか」にしっかりフォーカスして製品を企画開発することに自分の強みを発揮したいと。ただ、私のなかにはずっとエンジニアのコンテキストがあって、いまもそのコンテキストに基づいてプロダクトマネジメントという仕事をやっている感覚ですね。

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経理に関する深い知見と豊富なデータを武器に、お客様のDXに貢献。

及川

では次に、ラクスのプロダクトマネジメントの方法論や組織についておうかがいします。稲垣さんはラクスのプロダクトマネジメント組織の責任者を務められていますが、現在、何名もプロダクトマネージャー(PdM)がいらっしゃるのでしょうか。

稲垣

私が率いる製品管理課では、いまPdMが10名います。 この10名で先ほど申し上げた「楽楽精算」「楽楽明細」「楽楽電子保存」の3つの製品をカバーしています。

及川

この3つのプロダクトは、シリーズとして互いに連携しているのでしょうか。

稲垣

これまでラクスは、バックオフィスのさまざまなドメインの重要課題に特化し、徹底的にお客様のペインを解消するという思想のもと、ベスト・オブ・ブリード型でプロダクトを展開してきました。したがって横連携をほとんど意識してこなかったのが実情です。しかし、「楽楽シリーズ」はバックオフィス業務全般を支援するというコンセプトであり、基本的にはやはり連携することが望ましい。そこで2023年10月からクラウドサービスとして、いままでのベスト・オブ・ブリード型によるメリットを生かしつつ、たとえば、経費精算を効率化する「楽楽精算」と、請求書発行を効率化する「楽楽明細」をあわせて導入することで、お客様により付加価値を提供することにチャレンジしようとしています。
UI/UXもプロダクトごとに独自に機能しており、15年前に設計された「楽楽精算」と、数年前にリリースした「楽楽電子保存」では感覚が異なっています。シリーズ内でのギャップをできるだけ埋めるべく、今後は連携を取ってプロダクトマネジメントを進めていく考えです。

及川

いま御社が手がけられているのは、バックオフィスのDXを推進していく上で非常に重要なサービスである一方、やはり各社も同様にこのマーケットを狙って参入しており、いわゆるレッドオーシャン的な領域にも映ります。競合や既存の代替手段に対して、ラクスのこのプロダクト群はどのように差別化を図っているのでしょうか。

稲垣

主要製品の「楽楽精算」はリリースしてすでに15年が経ち、この間、経費精算分野で豊富な知見を蓄積してきました。特にそれまでアナログで運用していた業務をデジタルに移行する際、お客様から好評をいただいています。「楽楽精算」は細やかな設定をすることができ、アナログな部分をそのままデジタルに置き換えることができるんですね。ここ2~3年、電子帳簿保存法施行やインボイス制度開始などの新たな動きがあるなかで、それまでDXとは無縁だったSMBのお客様も経理業務をデジタル化する必要に迫られており、カスタマイズが容易な当社製品の導入がいっそう進んでいます。
一方、この先DXがより進展していくと、AIなども活用してお客様のバックオフィス業務を抜本的に変えなければならないタイミングが訪れるでしょう。その点においても、我々はお客様の経理部門の方がお困りになっているポイントを踏まえてサポートし、現実の経理業務に即して細やかにデータ管理してきました。そこに我々の強みがあると思っていて、これまで培ってきた強力なサポート体制とデータ活用を武器に、お客様のDXに貢献できると考えています。

及川

わかりました。先ほど、稲垣さんの組織では10名のPdMがいらっしゃるというお話でしたが、どのように役割を分担されているのでしょうか。

稲垣

大きく3つのチームに分かれています。「楽楽精算」を担当するチームと、「楽楽明細」「楽楽電子保存」を担当するチーム、そしてこの3つの製品を横断して「楽楽シリーズ」として価値を高めていくチームの3つです。「楽楽精算」のチームが最も人数が多く、いくつかテーマを設けてそれぞれミッションを担う形をとっています。
たとえば「楽楽精算」はPC版に加えてモバイルアプリ版も提供していますが、そのネイティブアプリのユーザー満足度向上を担うメンバーもいます。また、SMBより規模の大きなお客様、具体的には1000名から5000名ほどの従業員を抱えるお客様へのアプローチもいま強化しており、そのクラスのお客様が抱える課題をしっかりと抽出して解決していくミッションを負ったメンバーもいます。それぞれ1名ないし2名のPdMが担当し、事業部と連携をしながら対応しています。

及川

プロダクトマネジメントは、テクノロジーとUX、ビジネスの3つのバランスが重要だと言われますが、御社のPdMの方々はこの3つの要素にどのように関わっているのでしょうか。

稲垣

私のチームのPdMは、エンジニアがバックボーンの人間が8割を占めています。いわゆるプロダクトマネジメントトライアングル的に言うと、顧客とビジネスを繋ぐ部分で経験があるのは、私とあともう1名しかいないのが現状。ただ、冒頭にお話しした通り、当社ではPMMを事業側に置いているので、PdMとPMMが二人三脚で事業開発に携わり、たとえばマネタイズやバリュー・プロポジションなどはPMMを中心に決定しています。PdMは価値を作ることがメインの役割であり、我々PdMが生み出した価値をPMMがお客様に届けるという形です。
UXについては、もともと自分でUX定義書などを作成した経験のあるメンバーもいて、チーム内である程度知見を有していますが、いまはデザイナーに最初の製品要求仕様を作る段階からユーザーインタビューなどにも参加いただき、UXについては彼らに委ねるようにしています。ビジネスの部分はPMM、UXの部分はデザイナーの関与を高め、総合的にプロダクトマネジメントトライアングルをうまく回せるようにフォローアップしているところです。

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一つの企業で多様な製品フェーズを経験できるのが、ラクスのPdMの魅力。

及川

プロダクトを開発するにあたって、御社のPdMはどのように仕事を進めていらっしゃるのか、一連のフローを教えていただけますか。

稲垣

当社の場合、いわゆるプロダクトマネジメントプロダクトの4階層でいうと、PdMはディスカバリーにフォーカスする形になっています。ミッション、ビジョン、事業戦略にPdMはそこまで関わっておらず、事業部門のトップが基本的に戦略を決定し、下りてくる方針を我々が理解してプロダクトを作り込んでいきます。事業戦略が決まると、今後どんな顧客を獲得していくのかというテーマが定まるので、そこにどのような価値を提供していくべきなのか、いわゆる“Why”“What”の部分をPdMがしっかりと担います。そしてPMMと連携しながらターゲットとするお客様のセグメントを設定し、PdM自身がお客様にインタビューしてペイン・ゲインを取得しつつ、社内のCSや営業にもヒアリングをかけて課題を抽出していく。こうしていわゆる製品要求仕様を作り、案件を創出していくことが我々PdMの大きな役割です。
製品要求資料を作ったら、事業側のステークホルダーの方々にPMMと一緒に説明を行い、課題を解決して提供できる価値が、本当にお客様に届くものかどうかを確認。それ以降は基本的に開発側にバトンタッチします。当社はウォーターフォールの開発を敷いており、その最上流の部分を我々PdMが担当し、要件定義以降は開発エンジニアとデザイナーが対応する流れです。彼らから要件定義や画面設計などの“How”の部分が上がってくるので、それをPdMがレビューをして要求を満たしているかどうかを絶えず検証し、リリースまでリードしていきます。
製品のロードマップについては、PMMと開発側と連携をとりながら、いつまでにどんな状態にするのかをPdMが主導して策定。あと、ウォーターフォールでいまは年4回、3ヶ月サイクルで新バーションをリリースしており、1回のサイクルでどのようなものを開発するのかはPMMと優先度を協議しながらPdMが決定しています。製品要求仕様の作成、ロードマップの策定、バージョンの確定がラクスのPdMが担うメインの業務といったところでしょうか。

及川

昨今、こうしたプロダクトはアジャイルで開発するのが主流になっていますが、敢えてウォーターフォールを採用されているのはどのような理由からですか。

稲垣

たとえば、我々が提供している「楽楽精算」は、お客様企業の従業員の皆様全員がユーザーとなるサービスですので、UI/UXを改修すると全社に影響が及び、操作方法などについての質問が経理の方々に寄せられます。経理の決算業務は忙しい時期が決まっているので、改修のタイミングがそこに重なってしまうと、質問対応にも追われて担当者の方々の負荷がいっそう大きくなってしまう。そこで、一般的に決算業務が落ちつく2月5月8月11月にリリースするスケジュールを敷いており、ウォーターフォールのほうが運用しやすいので採用しています。
ただ、昨今はAIを活用したプロダクト開発にも取り組んでおり、これはアジャイルを採用して通常とは異なるサイクルで運用しています。あくまでもお客様にとって何が最適なのかを追求し、ウォーターフォールとアジャイルをハイブリッドで繰り広げていく形にいま切り替えているところです。

及川

いまAIについて言及されたのでおうかがいしますが、昨今注目されている生成AIはまだ不確定要素が多く、経理という正確性が必要な領域に関わる御社のサービスに活用するのは難しいようにも思います。

稲垣

ご指摘の通りです。当社も早くから領収書のOCRなどで機械学習を使ってきましたが、ここ最近、生成AIが台頭してDXが加速しつつあるので、我々も活用していきたいと考えていますが、まだまだ精度の問題があるので難しいのが実情。そんななか、いま社内でNSMを定義しており、そのNSMに貢献できるようなAI活用をスモールに試していこうとしているところです。あと、ここ1年ほどでAIのテクノロジーは一気に進化しているので、テクノロジーそのものを我々自身で何とかするよりも、テクノロジーをどこに組み込めばお客様に本質的な価値が出るのかをフォーカスするほうが有効ではないかと考え、我々のサービスにAIをどう投下していくのか、そのロードマップを作成して先日発表しました。まずはお客様に不安を与えない部分から試行し、徐々に本質的な部分に適用していければと考えています。

及川

PdMの採用についてもおうかがいします。ラクスを志望する候補者の方と面接する際、どのようなポイントを見ていらっしゃいますか。

稲垣

PdM組織は立ち上がってまだ3年ほどで、いまはディスカバリーに集中していますが、担うべき領域は日々拡がっており、プロダクトによっても対応すべきことは異なっているので、やりたいことが限定的な方は合わないのではないかと。ですから、いろいろなテーマに柔軟に対応できる方かどうかを面接で見ています。また、社内で関わるステークホルダーも非常に多く、「楽楽精算」だけでも営業、CSでそれぞれ100名以上のメンバーがいます。そうした多様なステークホルダーとしっかり連携できるコミュニケーション力や折衝力も重視しています。なかでもエンジニアとコミュニケーションを取って要求を出す機会が多いので、彼らときちんと会話できる能力があるかを確認させていただいています。

及川

では最後に、ラクスのPdMにはどんな魅力があるのか、転職希望者の方々に向けてメッセージをお願いできますか。

稲垣

大きく三つあると思っています。ひとつは、私のPdM組織が担当しているプロダクトだけでも、それぞれかなり製品フェーズが大きく異なります。「楽楽精算」はすでに15年の実績があり、成長期から成熟期に移りつつある一方、「楽楽明細」はいままさに急成長中のフェーズにある。そして「楽楽電子保存」は立ち上がったばかりで、これから市場を開拓していく段階です。もちろん、この3つだけではなくプロダクトはさらに増えていく可能性もある。こうして一つの会社のなかで多様な製品フェーズを経験できるのは大きな魅力ではないでしょうか。さらに、PdM組織はまだ発足して日が浅いので、手がける領域もこれからさらに拡がっていきます。そこに参画し、当事者として組織の成長を体感できるのも面白いと思います。そして、PdMの真髄であるディスカバリーに集中できる環境が整っていることも、大きな魅力。ウォーターフォールのプロセスで要件定義以降、開発とQAのメンバーが品質の高いアウトプットを確実に出してくれますし、ビジネス面はPMMがしっかりとサポートしてくれるので、「なぜ作るのか」「何を作るのか」というディスカバリーに全力を注ぐことができます。いま、日本は労働人口減少という大きな社会課題に直面していますが、我々が作り出すバックオフィス効率化サービスによって、その解決に大いに貢献できる。そこに意義を見出し、ラクスが掲げるミッションに共感できる方に、ぜひ参加いただきたいと思っています。

構成:山下 和彦
撮影:波多野 匠

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※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。

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