人生100年時代の生涯年収の考え方
コンサルタント 入江 祥之
公開日:2021年9月3日
先日面談した方とのお話の中で、久しぶりに「生涯年収」というキーワードが出てきましたので、生涯年収をテーマに書かせていただきます。
大企業であっても、この先ずっと安泰といえる企業は存在しない
Aさんは、某大手企業に勤める年収がおよそ1500万円の40代半ばの方です。転職先を選ぶ条件として、「生涯年収が現職以上でないと検討が難しい」という考えをお持ちでした。
というのも、現職では今後の年収アップがほぼ約束されていて、退職金もある程度の額が期待できるとのこと。そして、お子様の学費が増えていく時期でもあり、報酬を下げられないという事情はよく理解できました。
しかし、私のキャリアコンサルタントとしての15年ほどの経験からすれば、どんな大企業であっても、この先ずっと安泰と言える会社はありません。リストラ、業績悪化による給与ダウン、M&Aに伴う給与制度の改定、退職金制度の改定・廃止など、様々な事例を目にしてきました。
とはいえ、コロナ禍になる前は「さすがに鉄道会社は安泰かもしれませんね」と話していましたが、コロナ禍で人の移動が減った今、鉄道会社ですら安泰ではなくなっています。
人生100年時代の生涯年収とは
生涯年収をいつまでの報酬と定義するかによっても捉え方が変わります。これまでは定年までの報酬の合計が生涯年収でしたが、人生100年時代を迎え、定年の年齢が引きあがることが予想されます。さらに、70歳で会社を辞めた後、残りの30年をどう楽しく生きていくかという視点も重要になるでしょう。
また、大企業で役職定年制をとっている会社では、一部の役員以外は55歳以上になると大幅に年収がダウンします。たとえば、トヨタ自動車が一律定期昇給を廃止して成果主義を拡大したように、成果主義が加速する流れは止まらないでしょう。このように、大企業であっても将来の報酬を見通すことが難しくなりつつあります。
そもそも退職金制度は、戦後の終身雇用の時代に生まれた勤続年数の長い社員に報いる制度でしたが、現在では転職が当たり前の世の中となり、終身雇用はほぼ破綻している状況です。そのため、退職金を過度に期待しすぎることにもリスクがあります。
複数の会社や組織から求められることが生涯年収アップにつながる
今後、副業や兼業をする方はますます増えていくと予測され、実績や能力のある人は社外取締役や顧問のようなポジションで、多くの企業から声がかかる世の中になっていくと思います。
このような社会変化を踏まえると、ひとつの会社からの収入の合計で生涯年収を考える時代ではなくなっています。ひとつの会社に依存せず、複数の会社や組織から必要とされる人材になることが結果的には生涯年収のアップにつながり、長期的にやりがいのあるキャリアや人生の形成につながるのではないでしょうか。
優秀な方はいくつもの肩書きを持つ時代になっていますが、総じてみなさん若々しく、生き生きと楽しく人生を送られているように見えますし、報酬にしばられずに自由にキャリアを選ばれているように思います。
キャリアコンサルタントという仕事をしていると、転職において報酬は切っても切りはなせない要素です。しかしながら、報酬に捉われず自由にキャリアを選べれば、仕事をさらに楽しみ、人生が充実するのではないかと考えることがあります。
(2021年9月3日)