公開日:2012.05.01
株式会社アイアイジェイテクノロジー 常務取締役 技術統括本部長 吉原勉氏
面接で重視されるポイントはどんなところでしょうか?
私は現場の一次面接で合格だった方とお会いしますので、技術的なスキルや知識のチェックより、その方の資質やコミュニケーション能力を中心に見ています。
実際の面接ですが、私は実は直観型の人間でして、それを補う意味でも面接では多角的に見ようとしています。詳細はいえませんが、他の会社ではあまり聞かないようなことも結構聞いたりしますよ。一例ですが、経験が豊富な方に対しても大学時代の研究テーマのことを聞くことがあります。学生時代のような比較的時間が自由になるときに熱中していたことからその人の価値観や本当の志向が見えることが多いですし、大学の研究は専門性が高いので、そうしたことを聞き手のレベルに合わせて説明できるかどうかを見るのに調度よいのです。
例えば、「それってどういうことですか?」という何も知らないでする質問と、専門用語を交えての具体的な質問とでは、おのずと説明のしかたや内容が変わってくるはずです。優秀な人はこの切り替えが抜群ですね。こういうコミュニケーションスキルは特にコンサルタントとしては重要なのです。
私は書類選考もしています。職務経歴書は端から端まで目を通します。プロジェクトでの役割が時間とともにどのように推移しているか、資格と実務が連動しているかなど、さまざまな情報の関連を見ることで、かなりなところまでイメージできると思っています。
例えば、部署が変わって新しい知識が必要になったタイミングでそれに見合った資格を取得している人を見ると、「この人はまじめな人なんだなあ」なんて思ったりします。評価以外で気をつけているのは、会社として受けてくれた人の志向に合致した場を提供できるかどうかです。お互いが不幸にならないためにもこの点に関しては詳しく確認をしています。
今までの面接で印象に残っているケースを教えてもらえますか?
今コンサルタントをやっている社員なのですが、とにかく変り種のキャリアでした。彼は元々ソムリエになるつもりで海外に修行に出たのですが、合間の情報処理のアルバイトがきっかけでIT業界を志すようになったのです。そのため、技術力は正直高いレベルではなかったのですが、面接で受けた印象として、とにかく感性と集中力がすごいんですよ。そこに魅力があって、一言でいえばチャーミング。よく覚えているのは、面白いと思っていることを話すときの表情がすばらしくて、やりたいという気持ちが直接伝わってきました。こういうことは、特にコンサルタント志向の方にとっては重要なポイントです。彼は大人の客観性と夢を追いかける若さのバランスが取れているんですね。今後とても楽しみです。実際彼はお客さんからの評価も高いですよ。
個人的には、20代前半までに色々なことにチャレンジしている人のほうがある種の人間的な深みがあると感じています。こういう人は入社してからの伸び幅が大きいかなと思っています。おそらく自分の世界、視野を広げているからなのかもしれません。将来大きなプロジェクトを進めていくにあたっては、スキルや知識だけでなく、やはり人間としての深みが必要になってきます。仕事で大きな修羅場に遭遇したときなどに今までの経験の差が出るものですね。
御社が求める人物像をお聞かせください。
ひとつは夢を持っていることですね。そんなに大それた夢でなくてもよいのです。例えば一流のエンジニアになりたい、とかね。もうひとつは、それと同時に自分の現在の実力を客観的に見ることができる、ということですね。「自分がいまどんなレベルにいるのか」、これが無いとどうやってステップアップしていくか、道筋が立てられません。英会話でもそうですが、初心者が上級者向けのトレーニングをしてもなかなか上達しないですよね。それと同じことで、現在のレベルにあった技術をひとつずつ積み上げていくことが大切です。
もうひとつはリーダーシップでしょうか。ここでいうリーダーシップはその場を仕切るとかそういうことだけでは無くて、みんなが困っているときにチーム全体のことを考えて、自主的に責任ある行動が取れるかどうかなんです。実はこれがリーダーの条件そのものだと考えています。結果的にそういった行動がチームをリードしていくものであって、逆にはじめからリードしようとばかりするとチームから浮いちゃったりします。リーダーシップを正しく理解して、必要なときに発揮できることが重要です。
プロジェクトは色々な会社の方とチームを作って仕事を進めていきますので、指揮命令で動くというよりはリーダーシップで動きます。お客さんへの依頼がスムーズに運ぶ、実はこれはかなり優れたリーダーシップで、それまでに人間として信頼されていなければなりませんし、プロジェクトの成功にコミットしていなければなりません。お客様が動いてくれるのは、主体性をもって責任ある行動を常に取ってきた積み重ねです。
必要なさまざまな資質をすべて持ち合わせている人もいないでしょうから、ひとつだけ譲れない要素をあげるとすれば、誠実さや勤勉さを含めた「真面目さ」ですかね。日頃から「プロジェクトがうまくいかないときにチームメンバーが誰を見るかが勝負」とプロマネクラスには言っています。困ったときに見られる人が実質的なリーダーなので、いくら肩書きがあっても意味が無いってことですね。
最後に読者へのアドバイスをお願いします。
あるコンピューター専門誌の統計で、エンジニアは転職回数3回目まではスキルアップしているという興味深いデータがありました。ただ5回を超えると逆に下がるそうです。何が言えるかというと、ある程度同じ場所でスキルを習得した上で、次にステップアップすることはとても有効だといえる反面、単に転職をしたからスキルアップになるわけではないということでしょう。ある会社でできることをやった上であれば、転職はスキルアップのひとつの選択肢なのではないでしょうか。
IT業界は会社ごとに分業化が進んでいるところがあり、会社によっては必要なスキルが限定されていることがあります。そこで大事なのは、今の会社で仕事を続けていてその先のキャリアパスがあるかどうかです。会社によってはそもそも高いレベルの仕事がなくて、キャリアパスが限定される場合も多いのが実状です。
言い変えれば、会社のレベルによってスキルアップに限界があるということです。ソフトウェア開発の場合であれば上流の設計は、与えられた仕様に沿ったコーディングだけをずっと行なっていてもダメ、もちろんコーディングできる力がなくてもダメ。ですから現在の自分のスキルと、現在の環境でどこまでスキルを伸ばせるかを常に見る必要があるかと思います。こういった観点があれば、今の会社で頑張るもよし、転職して新たな機会を求めるもよし、ではないでしょうか。
インタビュアー / クライス&カンパニー
※インタビュー内容、企業情報等はすべて取材当時のものです。