採用コラム

Column Vol. 4

リクルート出身の起業家が多い本当の理由

閉塞した経済環境のなか、求める人材として「起業家精神を持っている人」、「先頭に立ってビジネスを動かしていける人」という要望を聞くことが多くなりました。そのため、独立して起業する社員の多いリクルートの人材育成が注目を集め、多くのOBがリクルートで得た経験を本にまとめています。しかし私から言わせると、リクルートという会社そのものに、人材を育成する機能はありません。

「リクルートは『出る杭』タイプを採っている」こう言われることもよくありますが、それも違います。このメルマガをお読みいただいている方ならもうご存知の通り、リクルートが採用に力を入れていたのは一流企業から内定の出る優秀な学生でした。つまり、どんな会社でも欲しがるような人たちを力ずくでとってきていたのです。

リクルートと他社から複数の内定をもらって悩んだ末、最終的に銀行や商社に進路を決めた学生もたくさんいました。その意味では、どこか変わった人や尖った人を優先して採用していたわけではありません。それなのに独立して起業する人が多い理由として考えられるのは、会社の中に育成機能があるからではなく、社員が「自分で何事かを成す」というスピリッツや行動の邪魔しないように会社がしていたことです。

一般的な日本の企業では、社員が先の読めない新しいチャレンジをしようとすると、たいてい「待った!」がかかります。銀行のように業種によっては「待った!」をかけなければ顧客から信頼を得られず、仕方のないケースもありますが、どうしても「自分で何事かを成す」スピリッツは失われてしまいます。

それとは対照的に、リクルートは社員が何かチャレンジしようとするとき、基本的に邪魔をせず、むしろ奨励します。この社員の邪魔をしないという会社方針によって「自分で何事かを成す」精神や行動がどんどんエスカレートし、最終的に会社を飛び出して独立し、自分で事業をやる人が多くなっているのです。

見方を変えると、もし優秀な人材を採用していながら企業家精神があまり発揮されないとしたら、自覚のないままに会社が社員の「自分で何事かを成す」精神や行動を潰している、と疑ったほうがよいでしょう。「企業家精神を持った人材が欲しい」とメッセージを発しながら、実際のマネジメントは別。それでは社員の気持ちが腐ってしまいます。

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今回はリクルートが行っていた「企業力を超える採用」についてお話しましょう。いまでは「人材輩出企業」と呼ばれるリクルートが、いわゆる一流大学を中心とした優秀な新卒学生の獲得競争に乗り出したのはバブル経済の時代でした。当然、欲しい学生は必ず他社と競合します。学生の志望先も旧財閥系の銀行や商社といった、ブランド力のある一流企業でした。現在とは異なり、当時のリクルートはまだ無名の会社です。そんな会社がどうやって一流企業から内定が出るような学生を獲得していたのか?

その手法は、誠意と熱意を持ってひたすら口説く。ただそれだけです。多くは入社1~2年目の社員であるリクルーターが熱く自社を語り、事業を語り、社会を語り、ひいては日本を語って口説き落としていったのです。そのためにかける努力も凄まじいものがありました。リクルーターは狙った学生と最低でも週に一回は会い、数時間は話をしていました。場合によってはそのまま一緒にサウナへ泊まり、エンドレスで口説き続けることもありました。ただ、リクルーターは新卒社員が多いので、自社や事業について語るといっても限界があります。そこで他の社員がフォローする体制も築かれていました。

例えばリクルートの採用支援ビジネスに興味を示した東大の学生がいれば、その業務を担当している東大OBの営業マネージャーを連れて行き、話を聞かせるという具合です。そうやって社内のいろいろな人たちに引き合わせ、仕事や事業の話を聞かせながら学生を口説いていったのです。

このようなフォローを可能にしていたのは「採用は最優先業務であり、日常業務に優先する」という、当時の江副社長が打ち出した方針です。採用部隊も社長直轄部門とされ、江副さん自身も優秀な学生が来社していると聞くと、他の仕事を抜け出して「ぜひうちに来てよ!」とフォローをしていました。

江副社長を筆頭に役員も皆、採用シーズンは採用業務にどっぷり浸かり、文字通り全社が総力をあげて「採用したい人」の採用に取り組んでいました。このような努力によって、何もしなければ都市銀行や大手商社に入社していたはずの学生たちをリクルートに引っ張ってきていたのです。

お客様から「採用に力を入れているけど、なかなかいい人材が採用できない」というお悩みを聞くことがよくあります。ただ、当時のリクルートの熱心さと比べたとき、あなたの会社は「採用に力を入れている」と胸を張って言えるでしょうか?

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