社員の立場からすると、「経営者が何を考えているのか」はなかなか見えにくいものです。売上や利益を伸ばしたいということはわかってもそれをどうやるのか、売上や利益を伸ばした先にどんな会社の将来像を描いているのかといった話は、ひんぱんに酒の席を一緒にしても伝わらなかったりします。
ところが経営者が考えていることをフィロソフィーとして言語化して一人歩きさせると、社員は「そうか、社長はこんなことを考えていたのか」と知ることができます。社長の考えのなかには社員の信条と合わない考えが入っているかもしれませんが、それも含めて経営者はどういう会社にしたいのかをきちんと社員に伝えなければなりません。
社員にフィロソフィーを伝えるためには、その前提として経営者は自分の役割は何か、会社の役割は何かと常に自問自答する必要があります。
私は会社には与えられた役割、もっといえば命(めい)があると考えています。もし役割を充分果たせず、なおかつ他に役割を果たせる会社があれば、その会社は存在する意味がなくなってしまいます。しかも時代の変化によって会社に求められる役割は変わるので、それに合わせて会社も変化しなければ、かつて役割を果たしていた会社も存在する意味を失ってしまう。自分たちの役割とは何かと常に問い続けるべき理由がそこにあります。
「何のため」という根源的な問いを考えるプログラムとして、私たちは今年から「森の研修プログラム」を開始しました。これは大自然のなかに身を置き、森の力を借りて思索を深めるもので、日が暮れる頃から森でたき火にあたりながら「何のためにこの事業に取り組んでいるのか?」、「自分たちはどこへ向かっているのか?」といった話をしていきます。
「これまで自分は一生懸命仕事をしてきたが、どこに向かって、どうしたいのかな……」
先日、このプログラムに参加されたある会社の幹部の方はこうおっしゃっていました。また、たくさんの経営幹部が参加した別の企業はその後、皆さんがみちがえるようなパワーで仕事をしています。「何のために」という命や方向性が定まると、人はものすごく強い力を発揮するようです。
根源的な問いと向き合うためには、あえて日常から切り離された森のなかに入り、大自然のなかに身を置いてみることが有効です。アメリカではすでにこうした森にこもって思索を深めるプログラムはよく知られるようになり、マンハッタンのエグゼクティブたちが参加しています。これからは日本でもこうしたプログラムが普及し、自然のなかで自らのフィロソフィーを思索する「森の時代」がやってくるのではないかと私は思っています。
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[post_content] => いま、私たちはクライス&カンパニーの「フィロソフィー」を策定し、それを日常業務のなかで徹底できるように取り組んでいます。フィロソフィーとは当社の仕事に対する基本的な考え方と「将来、こんな会社にしたい」という内容を私が文章化し、マネージャー陣で議論したうえでまとめたものです。作成に着手しはじめたのは東北大震災が発生する前で、3.11で作業が一気に加速。昨年8月に4ヶ月ほどの期間で完成し、冊子にして全社員へ配布しました。
フィロソフィーの具体的な内容は「仕事を面白くするのは自分自身」「結果に責任を持つ」といった仕事ベースのものもあれば、「会社を好きになり仲間を愛する」「宿命と運命のあることを知る」といった精神的なものまで多岐にわたります。
さらに、私たちはフィロソフィーに関する勉強会をはじめました。毎日10分間、みんなでフィロソフィーを読み込んでそれがどういう意味を持っているのか解釈し、各チームで議論するのです。加えて週一回、みんなで金曜日のお昼休みに集まって、一週間の仕事のなかで嬉しかったこと、楽しかったことについてエピソードを報告してもらう会をはじめました。これは「このような感謝のお言葉をいただいた」といったエピソードのなかに、どのようなフィロソフィーの実践があったのかを見つけ、気付きを得るものです。
報告会の主な目的は、社員は日々の業務のなかで自覚しないままフィロソフィーを実践していたりするので、それを第三者が指摘することで「なるほど、私のこういう行動は会社のフィロソフィーと結びついているのか」と気付いてもらうことにあります。すると今度は逆に本人がフィロソフィーを意識しながら行動するようになっていくわけです。報告会は時間にして45分。毎回2~3人にエピソードを話してもらっています。
「そんな取り組みが業務の役に立つのか?」
私たちがはじめたフィロソフィーを浸透させる勉強会や報告会の取り組みは、スキルを身に付けたり新たな能力を身に付けたりするものではありません。ですからこうした疑問を持たれる方がいるかもしれません。しかし、私は非常に大きな手応えを感じています。それはフィロソフィーの浸透に取り組んで以降、業務で発生する諸問題について、本質的な議論ができるようになり、決定事項に対する納得度が高まり、結果機動力が高まっている感じがするのです。
また、みんながフィロソフィーの実践を意識するようになった結果、ベストな判断であるかどうかは別として、少なくとも間違った手を打つことがなくなってきている気がします。勉強会、報告会をはじめてからほんの数カ月ですが、フィロソフィーが持つパワーの凄さを実感しています。
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