採用コラム

Column Vol. 29

いかに自社のマイナス情報を伝えるか

応募者に対しフォローを行う目的には、数多くある会社のなかから自社を選んでもらい、採用すべき人を採用することと同時に、しっかりモチベーションを高めてもらい入社直後から活躍してもらえるようにする、いわば入社前教育の要素があります。

そこでは自社情報の提供が非常に重要で、マイナス情報を含めしっかり伝えることが大切です。「マイナス情報を伝えると候補者に逃げられるのではないか…」と心配し、充分に伝えない会社もありますが、かえって良い結果にはつながりません。入社前に良いことばかり聞かされて希望に燃えて入社してきた人が、実際に会社の内情を目の当たりにして「こんなはずではなかった…」とやる気を萎えさせてしまうのはよくあるケースです。

良いところも悪いところも把握したうえで、「この会社で頑張る!」というやる気と覚悟をもって入社してもらう。そんな情報提供の仕方が必要なのです。

問題はマイナス情報をいかに伝えるかでしょう。そのポイントは、マイナス情報の背景情報まで一緒に伝えること。マイナス情報の背後には何らかの事情や経緯があります。それを含めてきちんと伝えるのです。

たとえば、自社の離職率がかなり高かったとします。その背景には会社の方針として社員全体のなかで評価の低い一定割合の人に退職を促す方針だったり、成果主義を強調した評価制度になっていたり、さまざまなものがあるはずです。そうした背景までさかのぼって伝えていくことです。

マイナス情報はプラス情報と表裏一体のことが少なくありませんから、そうすることで候補者はマイナス情報をマイナスのまま受け取るのではなく、その逆側にあるプラス面に気が付いたり、会社が置かれている状況を理解したりできるようになります。

マイナス情報が社長自身の悩みである場合もあるでしょう。そのときは、自分が悩んでいることも含めて伝えてしまうのも一つのやり方です。たとえば、営業系と技術系が対立して困っている会社で企画系の社員を採用しようとしている場合、「対立を放置していいとは思っていないのでこれから手を打っていくつもりです。ただ、最初は苦労をかけるかもしれません」と率直にお伝えしていく。

もちろん、マイナス情報を聞いて引いてしまう候補者もいるかもしれませんが、覚悟して入社を決める人もいます。いずれにせよ、会社にとって必要なのは後者です。

マイナス情報を伝えるにはタイミングの問題もあります。8割方「この会社で頑張ろう」と応募者が決めた段階でマイナス情報を伝えると、決意が揺らぐことはあまりありません。むしろ「ちゃんと自分を信用してマイナス情報を話してくれた」と前向きに受け取ってもらえることの方が多いです。

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採用におけるフォローの重要性について前回は述べましたが、社内でそれを最も効果的に行えるのは社長です。とくに中小企業の場合、誰よりも情熱を持って自社や事業への思いを語れるのは社長自身をおいて他にはいません。しっかりと現実を踏まえた夢と、その実現に対する情熱を社長自ら伝え、採用すべき人を採用していくことが大切です。

中小企業でも採用の場に社長が顔を出さないところがあります。しかし何もしなければ自社より業界上位の会社に採用されていく。優秀な人材を採用したいなら、社長自身が面接で応募者に事業に対する夢と情熱を語っていかなければなりません。

先日、当社では非常に優秀な方を社員採用しました。実はこの人、優秀なだけあって当社が内定を出したとき、他の大手企業からも内定が出ていました。しかも給与は当社より大手企業のほうが約1.5倍。しかしどうしても欲しい人材と判断し、1時間半かけて社長の私自身がじっくりフォローを行い、本人に直接事業に対する夢や情熱を伝えたところ、一週間かけて熟考し、周囲の人にも相談した上で、最終的に当社への入社を決断してくれました。

採用には人事や現場の人たちも携わりますが、やはり社長でなければなかなか伝わらないことがあります。候補者に対する最強のフォロワーたり得るのは社長なのです。

ただし、社長が熱く夢を語りさえすれば応募者が説得されるのかというと、そんな単純な話でもありません。当たり前のことですが、社長が語る夢は本当に実現可能なのか、口先だけの出任せではないのか、応募者はよく見ています。

もっと言えば、中途採用の応募者は「情熱や夢だけでは食えない」現実をよくわかっています。もちろん夢や希望も求めていますが、その前提として生活の安定と向上を実現できるかどうかが大事だと考えているのです。

私自身、リクルート勤務時代も、そこから転職して入社した会社でもそうでしたが、やはり安定した生活ができるという安心感と、これから生活が良くなっていく予感を求めていました。もちろん会社が未来永劫発展し続けるわけではないことは重々承知していますが、「自分の収入が増えていく」「ひょっとしたら自分も役員や社長になれるかもしれない」といった明るい未来を現実的なものとして感じられるかどうかが大事なのです。

社長が事業に対する夢や情熱を過剰に語りすぎるとかえって逆効果になります。社員は自分の生活の安定と向上を求めていることをちゃんと押さえたうえで、そういった話をしていかないとうまくいきません。

ときどき「応募者には、ほら話を吹きまくればいい」と思い違いをしている方を見かけますが、社員は夢と現実の両方を求めています。夢と現実をバランスよく話すことが、社長がフォローを行う際の重要なポイントです。

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