採用コラム

Column Vol. 50

「負ける人事」は社内事情を優先する

中途採用を久しぶりに再開した会社でよく起こりがちなことに、「採用プロセスを進めるスピードが遅い」があります。昔、採用を担当していた方が再び担当者になると、以前の感覚で仕事を進めるため、現在の採用環境においては相対的に遅いという事態が発生するのです。「遅い」が採用活動の大きなマイナスになることは、以前、このメルマガでも触れた通りです。

そんなとき、私たちは失礼にならないように「もう少し速くしていただいたほうが、よい採用ができる可能性が高まります」とお伝えしますが、「そうしたいのは山々ですが、いろいろ社内の事情が……」と言われることがあります。そうなると、結果としてよい人材の採用は困難になってしまいます。

この「社内の事情が」というフレーズが出てきたら要注意です。ビジネスの根本はライバルと競争してお客様を獲得することで、そのためには当然、自分たちよりお客様の都合を優先しなければなりません。採用もこれと同じで競争ですから、候補者をメインの位置に置かないとライバル企業にさらわれてしまいます。

ただ難しいのは「社内の事情」を優先している事実に、自分たちではなかなか気付けないことです。実をいうと弊社でもそんなことがありました。

少し前まで弊社では土曜日の候補者面談を実施していませんでした。月曜日から金曜日まで思い切り働いて、週末はしっかり休もうと考えていたからです。ところがある時期から「弊社は土曜日休業です!」というと、同業の人から「本当ですか!」驚かれるようになりました。

気になっていろいろ聞いてみると、外資系コンサルティング会社で働く多忙なコンサルタントなどはどうしても土曜日しか動けないので、土曜日に面談を行っているとのことでした。また、メーカーのエンジニアは都心から外れた場所にある研究開発施設で働いている人が多いので、やはり土曜日しか面談ができない。

というわけで、遅ればせながら弊社も土曜日も面談することにしました。さきに偉そうなことを言いましたが、自分たち自身が自社の都合を優先し、マーケットを無視していたのです。もし気付いていなかったらと考えると、非常に恐ろしい。

やらない理由もできない理由も探せば山のようにあるので、社内事情を優先させていることを自覚するのはとても難しいのです。したがって「社内事情を優先させていないか?」と自社を常に見直す視点を持っておかないと、人材獲得競争に負けてしまいます。

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採用を担当する人事部門は、自制的な組織風土を持っています。間違いを犯して社員の信頼を失ったらおしまいですから、自制的になるのは当然です。ただし、自制的な傾向がよい方向に作用しているときはいいのですが、逆に自分たちの仕事の守備範囲を狭めているケースも見られます。

ときには意識的に、自分たちで仕事の枠を広げていくことも必要です。とくに最近のように人材争奪戦が過熱しているときは、正攻法だけで必要な人材を採用するのは大変です。場合によっては「禁じ手」的な発想も必要です。禁じ手といっても、もちろん犯罪的な採用をやれと言っているわけではありません。

たとえば英語ができ、サプライヤーのコントロールができ、ロジスティックスがわかり、マネジメント経験があるという4つの要素で人材を探しているとしましょう。しかし頑張って探しても、どうしても要件に該当する人材を採用できないときはどうするか。

そうした場合、英語とサプライヤーのコントロール、ロジスティックスとマネジメント経験の2つに求める能力を分解して求人をかけてみる。すると、意外にあっさり採用できたりします。要は求めるレベルは下げないが、要素を分解して2人採用するのです。

「2人採用したら人件費がアップしてしまう」という心配はありますが、ほかの社員が担当している仕事もすべて見直し業務の組み換えを行うことで、人件費がアップした分の利益は稼げたりします。こうした職務の分解と最適な組み換えは、経営者か人事にしかできないことです。

他に業務フローを整理する、というやり方もあります。たとえば私たちの人材紹介業務では候補者を開拓し、面談する一方、お客様に営業してマッチングを行い、両者のフォローを行い、条件面を調整し、最終的な決断を支援するというフローがあります。

そこで候補者の開拓と面談だけを専門に行う人と、それ以降の仕事を担当する人に業務を分ける。すると前半の担当者は比較的採用できるので、いままで全フローを担当していた社員に後半の業務へ集中してもらい、全体として成約数を伸ばせるようになります。

自社の戦略遂行に必要な人材を計画通り採用できないと、会社の成長は止まります。すなわち、勝つ人事とは必要な人材を必要なだけ採用できる人事です。

職務の分解や業務フローの整理に人事が踏み込むことは、他部門への越権行為と感じるかもしれません。しかし現在のように売り手市場になり求める人材の採用が難しいときは、あえて「禁じ手」発想で状況の打開に取り組むことも必要です。

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