採用コラム

Column Vol. 10

身の丈に合わない人材もフォロー次第で採用できる!

前回、ネットを使った機械的な「情報処理採用」によって候補者をフォローしない、魂のこもらない採用活動が広まっている現状について触れました。しかし候補者を入社に向けて本気で口説くフォロー活動なくしてよい採用はできません。情報処理採用と対極的な採用活動に、出身大学OBによるリクルーター制度があります。これはOBが出身大学の有望な学生に声をかけ、強力にフォローして採用していくやり方です。露骨に言えば、入社したい人より会社が採用すべき人を先輩・後輩の力関係を活用し、場合によっては他社からさらってでも採用するというもの。

その最たる例はバブル期の野村證券でした。メーカー志望の学生が野村證券に入社するということはありませんでしたが、当時の住友銀行や三和銀行など大手銀行を志望していた学生がOBに三日三晩口説かれ、野村證券に志望を変えたということがよくありました。リクルートの内定者が野村證券にさらわれたこともあります。証券不祥事を起こして以降は大きく採用手法を変えましたが、野村證券ではそうやって採った「採用すべき人」が今、幹部クラスに昇格し始めています。リーマン証券の買収という大胆な決断をやってのけたのはそうした人たちでした。このような採用活動の歴史を振り返って、採用フォローの重要性がよくわかります。

もう一つ、私自身が関わった採用フォローの強烈な実例について紹介しましょう。現在は株式を上場したある技術系ベンチャー企業A社が創業したばかりの頃、私は一人の人材を紹介しました。この方は当時、外資系金融機関勤めの30歳で、すでに名の知られた他のITベンチャーB社からもCFO候補としてオファーが出ていました。A社は高度な技術を保持していましたが、まだ社員は5名で業績も赤字。それでもA社の社長は「成長のためにどうしても必要な人材」と判断し、熱心にフォローをはじめました。「最先端の施設を見学に行こう」「東大の教授と面会するから一緒に行こう」などと週に一度は会う機会をつくり、その後は焼き肉屋へ行って酒食を共にしながら事業にかける夢を語りかけました。

また、B社からのオファーが年俸600万円で、自社の出す条件とはかけ離れていることを知ったA社の社長は会長と相談し、自分たちの役員報酬をそれぞれ100万円ずつ削って600万円にアップしたそうです。会社の実績やネームバリューを比べれば、当時はB社のほうがずっと上でした。しかしここまで熱心に口説かれた候補者の方は大いに悩み、3週間考え続けた結果、A社への入社を決断しました。それから3年後、A社は株式を公開するまでに急成長しました。候補者の方も社長の期待通り活躍し、今やCOOとして経営陣の一角を担い、次期社長候補の1人と目されています。

もし書類に書かれた条件だけで判断したら、この人は決してA社には入社していなかったでしょう。ところがA社の社長が何度も会って事業にかける情熱を伝え、自分の報酬を削ってでもオファーを出し、本気で必要としていると伝えたことで判断が変わったのです。経営者が強い情熱をもってフォローすれば、現在の身の丈とはかけ離れた人材でも採用できる。この事例はその証左になるでしょう。

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これまでのコラムで指摘してきたように、従来の企業における採用活動はその会社に入りたい人を集め、順番を付けて上から採用するというものでした。これでは本当にその企業が必要とする人材を採用することはできません。さらに最近はインターネットを介した採用活動の普及によって、本当に必要な人を採ることが難しくなってきました。ネットでは何社でも簡単に応募できるため、「とりあえずエントリーしておくか」という人までたくさんやってきます。そんな状況のなかで「上から順番を付けて採用する」方式を行うと、本気で入社の意志があるのかどうかわからないような人たちがたくさん入り込むのです。

一方、採用する企業の側はそうした応募者群に対し不信感を抱くようになります。そして大量に集まる応募者を機械的に選考するだけで手一杯ということもあり、応募者のフォローをきちんと行わないケースが目立つようになりました。定められた手順通りに採用プロセスを進めていくだけで、「来たければどうぞ」というスタンスで候補者に対応する企業が多いのです。このような現象は「情報処理採用」による弊害というべきものです。「魂のこもっていない採用」といってもよいでしょう。

しかし、採用すべき人材にロックオンすることができても、本気で入社を口説き、本人をその気にさせる採用フォロー活動を行わなければ良い結果は生まれませんまた、採用フォローの必要性は知っていても、内定を出してから始めればいいと考えている方も見受けられますが、採用の勝ち組企業はもっと早い段階から採用フォローを始めています。熱心な会社によっては実際に応募者に会う前、すなわち私たち採用エージェントと接する段階からフォロー活動を行っています。

たとえば急成長中のあるベンチャー企業A社は社長、人事担当役員、採用責任者たちがエージェントの担当者に対し自社がどのようなビジョンを持ち、何を目指しているかを熱く語りかけ、担当者を自社のファンにしていきます。求める人材のスペックや雇用条件について話し合うより前に、まず自分のあり方を理解してもらい自社の応援団を増やしていこうとしているのです。その成果は目に見える形で現れています。A社にはやはり急成長しているライバル企業B社があり、同様に人材採用を積極的に行っているのですが、優秀な人材が市場に出てくるとエージェントの担当者はまずA社を紹介するのです。

実は、エージェントに入る手数料はライバルであるB社のほうが良いのですが、「A社の成長を応援したい」と本気で願っているエージェントの担当者たちは、目先の損得を超えてA社への紹介を優先しています。もちろんA社では紹介された人材に対しても自社のビジョンや目指すところを熱く語り、入社すれば一緒に働くことになる部署の人間と会わせ、時には酒食を共にして語り合うといった採用フォローを愚直に行っています。少なくとも中途採用面から見る限り、人材エージェントまで含めた採用フォローの有無によって、A社とB社の人材には差ができつつあります。その差は将来、両社の成長性に影響を与えていくことでしょう。

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