面接で応募していただいた方を深く理解する必要性について前回は述べました。では、どうすれば理解を深めることができるのか。そもそも応募者を理解するには何に注目すればよいのか。
まず、採用のジャッジにおいてどのような要素が必要かという観点から整理すると、二つの切り口があります。それは「価値観」と「能力」です。この整理の仕方は私たちがずっと試行錯誤を続けた末に、いまのところ落ち着いているやり方です。作成にあたってはリンクアンドモチベーションの取締役等を歴任し、現在はNPO法人DSSの代表や当社顧問を務める辻太一朗氏のアドバイスを受けました。
今回は価値観についてご説明し、能力については後の回で解説します。価値観とはその人を動かしている考え方や志向といったものを指します。行動原理やモチベーションの源泉、といってもよいでしょう。ただ、一口に価値観といっても面接で質問する内容としては抽象的になりすぎてしまうので、もう少し具体化して考える必要があります。
私たちの考えでは、人の価値観を構成している要素は二つあります。一つめは「対象」です。たとえばどんなものを手に入れたいのか、何に対して強い興味や関心を抱いているか、といったことです。要するにたくさんお金を稼ぎたい、出世したい等々、どんな対象にその人が価値を置いているか。これを「対象の価値観」と呼んでいます。
もう一つは「関係性」です。たとえば、成し遂げたいことはとくにないが他人には絶対に負けたくない。あるいは周囲の人とは対立せずにうまくやりたい、といった他人やコミュニティとの関係における志向性です。これを「関係性の価値観」と呼んでいます。
二つの価値観を軸に人を表現すると、その人がどんな人物かがより浮かび上がってきます。
「この人は目標達成にものすごくエネルギッシュである一方、周囲と対立したくないという志向が強いから他人を押しのけて数字を取るようなことは一切なく、卓越した成果を出しつつ周りともうまくやるんだよね」
こんな会話ができると、かなりその人のイメージがつかめるでしょう。
また、二つの価値観を軸とした会話ができるようになると、企業とのマッチングについてもより明解なイメージがつかめるようになります。
「あの人は上昇志向が強烈で、他人に負けたくないという気持ちも強い。アグレッシブなベンチャー企業には向いているけど、規制業種で落ち着いた社風の会社に行くと違和感があるかもしれないね」
その人が持っている価値観がわかれば、何によってその人のエネルギーが上昇し、何によって下降するのかがわかります。ですから面接において価値観の理解は能力の把握よりもある意味、重要なポイントになると言えます。
ただ、「あなたの価値観は何ですか」と尋ねても、その人が持つ本当の価値観を把握することはできません。どのような聞き方をすれば応募者の価値観をつかめるのかについて、次回はご説明したいと思います。
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[post_content] => 採用面接とは何をする場か、と問われたら何とお答えになるでしょうか。
その答えは応募者をジャッジする場に他なりません。ところがこの認識が強すぎるせいか、面接の場でジャッジだけを行おうとして、採用であまりよくない結果を招いているケースが見られます。
最近、よく弊社にエントリーされた候補者の中で話題になるのがトンデモ面接官。「もし、君が地球上に1人になったらどうするか」「蚊はどうして殺していいのか」などとわけのわからない質問をする面接官がいるのです。コンサルティング会社では「東京都の電柱の数を推定せよ」といったフェルミ推定を出題し論理力や思考力などを見ることが知られていますが、それとは異なりトンデモ面接官は思いつきレベルの質問を浴びせるだけです。
なぜそんな質問をするのかと意図を確認すると、「対応力を見るため」、「どれだけ気の利いたことが言えるかを試した」などと一応、本人なりの狙いはあるようです。しかし、そうした質問は「優秀な人材」や「自社に必要な人材」を見極める質問として的外れであるばかりか応募者を困惑させ、ひいては「あの会社の面接官は……」と会社の評判を落とす結果にもつながりかねません。
面接官がわけのわからない質問をしてしまう理由は、いきなり相手をジャッジしようとするためです。つまり何らかの質問を行い、その答えを見れば採用すべき人かどうかがわかると考えているからです。まず質問ありきの面接、と言ってもよいでしょう。
しかし、そんな質問で応募者を見極められるほど面接は簡単ではありません。適切なジャッジを行うためには、ジャッジする前に応募者がどういう人かをきちんと理解する必要があります。そして十分に理解するためには、お互いに腹を割って話せるような応募者との人間関係を構築しなければなりません。
前回、当社で①関係構築力②理解力③ジャッジ力という三つの能力についてトレーニングを行っていると書きましたが、面接や候補者との面談をうまく行うためにはこれら三つの能力がトータルで必要です。
面接での質問は主に相手を理解するために行うものです。ジャッジを行うのはその後。もちろんジャッジ用の質問もあり得るでしょうが、面接の大半は応募者の理解に費やされるべきです。そうでなければ十分な材料を入手できないままジャッジを下さなければならない、という状況に陥ります。
裁判官が積み上げられた証拠に基づいて判断を下すように、ジャッジを行うにはその根拠となる材料が必要です。人の採用においてその重要な材料となるのが、面接でのやり取りを通じて得られた応募者に対する深い理解です。この点を間違えてはいけません。
では、どうすれば面接の場で応募者を深く理解することができるのか。その方法を次回からご説明していきます。
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