採用面接でよい質問をするコツがあるとすれば、応募者に対する「興味のエネルギー」を高めることです。その人に対する興味が高まると、その人を理解する上で役に立つ質問が自ずと湧いてくるものです。
では、どうやって興味のエネルギーを高めるか。それには相手をよく知ることで、採用の場合、具体的には応募者の書類をよく読むことです。何も知らない相手にあまり興味は湧きませんが、書類を通じてその人の経歴ややってきた仕事の内容を知れば「なぜこの人はこの選択をしたのだろう」「なんでこんな成果を出せたのか」と次々に興味は湧いてきます。さらに応募者が勤務している会社や業界まで興味の幅を広げると、いろいろなことがわかってきます。
そもそも書類選考をクリアして面接に至っているわけですから、応募者に対しては何らかの興味を持っているはずです。そこを起点に興味のエネルギーを上げていきましょう。書類選考のジャッジを人事部ではなくラインが行っているような場合でも、ラインの人が応募者のどこに魅力を感じたかは聞いているはず。そこに対して興味のエネルギーを上げていくべきです。
興味のエネルギーを上げる目的は、よい質問をするためだけではありません。B to CはもちろんB to Bの会社でも、今日の応募者は明日のお客様です。ご縁のあるなしに関わらず自社に好印象を持って帰ってもらわなければなりません。昔は面接官が偉そうな態度で圧迫面接を行うことが少なくありませんでしたが、いまそんなことをすれば一気にネットで悪評が広がります。圧迫面接までいかなくてもやる気のない面接をしたり血の通っていないやり取りをしたりすれば、応募者に悪印象を与えてしまいます。
自社へ良い印象をもってもらうカギになるのは、面接官の応募者に対する興味のエネルギーの高さです。自分に興味を持ってくれた人に対し、人は決して悪い印象を持ちません。最低限のマナーとしても興味のエネルギーを高める必要があります。
私は弊社にエントリーいただいた候補者に対しても同様のことを言っています。当社で候補者向けに実施している「コミュニケーショントレーニング・面接バージョン」では、必ず最後に次のように伝えます。
「まだ得られる情報がホームページやネットに限られている面接前の段階では、ブランド企業でもない限り、それほど相手の会社のことは好きになれませんよね。お見合いでも仲人から写真と評判を伝えてもらった段階で、相手をそんな好きにはなれないでしょう。でも、無理矢理でいいからその会社を好きになって面接に臨んでください。会社を好きになれば面接官の人も好きになり、自然に笑顔が出て、自分を理解してもらおうというパワーが上がります。これが面接で成功する秘訣です」
こういう話をすると「面接はもっと冷静に、客観的にやるものではないか」と言う人がいるかもしれません。しかし面接は応募者を理解した上でジャッジする場。理解の段階では興味のエネルギーを上げ、ジャッジの段階で冷静になればよいのです。しっかり相手を理解することが、正しいジャッジにつながることを忘れてはなりません。
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そんな質問はないかと聞かれることがあります。しかし、そんな魔法のような質問は残念ながらありません。採用において「この質問の答えがYesだったからOK」、というような機械的な判断もありえません。
面接官の質問力を上げるにはどうすればよいか、というご相談をいただくこともありますが、やはり面接の本来の目的を意識することが大切だと思います。面接の目的とは応募者をよく理解し、適切なジャッジを行うことにあります。
そして応募者の理解には事前の準備が非常に重要です。具体的には、応募者の書類をきちんと読み込むこと。しかし、少なからぬ面接官がこの準備を怠っているため適切な質問ができず、応募者の理解が十分でない状態でジャッジを行っています。
面接前に応募者の書類を読み込むと「この人はこんな人物なのかな」とある程度イメージが浮かんでくるでしょう。ただしそのイメージは完全なものではなく、何らかの欠けている部分があるはずです。
「なぜ大学で金属工学を専攻していたのに新卒で全く関係のない業種に就職したのだろう」
「この人は大手商社に勤務していたのに、なんでこの会社に転職したのか」
書類を読み込めば読み込むほど、そんな風にいろいろな疑問が湧いてくるはずです。それらについて一つひとつ質問し、「なるほど、そういう目的があったんだ」とその答えを理解できれば次の質問に移り、「その答えはちょっと理解できない」「少し引っかかるな」と思えばさらに突っ込んで質問していく。これが面接における質問の基本的な考え方です。
一つ事例をご紹介しましょう。先日、私は自社の採用面接で一人の男性にお会いしました。書類を拝見すると現在の会社に10年在籍されていて、入社してから毎年、全社で営業成績トップを続けているというすごい実績の持ち主でした。ただし、よく見ると2009年の順位の記載がありません。2009年といえばリーマンショックの翌年ですから、成績がボロボロで都合の悪いことは書かなかったのかなと一瞬思いましたが、リーマンショックで成績がボロボロになるのは他の社員も同様です。いったい何があったのでしょう。
この点について面接で質問すると、彼の答えはこうでした。
「実際、自分の成績はボロボロだったのですが、営業ランキングも何もないくらい社内が混乱してしまい、自分が何位だったのかわからないんです」
会社の売上は半減し、200人いた社員も自主退職が続出し100人以下に減ったそうです。その答えで私の疑問は解消されたわけですが、そこで新たな疑問が湧いてきました。会社が危機に陥ると優秀な人から辞めていくと言いますが、なぜそんな大変な状況でこの人は辞めなかったのでしょう。質問するとこんな答えが返ってきました。
「会社から強く慰留されたことと、正直、上の人がどんどん辞めていったので、まだ若い私にもいっぱいチャンスがあると思ったからです」
その答えを聞いて、この人は大した人材であることがわかり、危機的な状況でどんな行動をしたのかも把握できました。
このように書類から浮かんだ疑問を深掘りし、新たに湧いた疑問について詳しく質問していくことによって、その人の核心を理解するうえで重要な話が出てくるのです。
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