採用を担当する人事部門は、自制的な組織風土を持っています。間違いを犯して社員の信頼を失ったらおしまいですから、自制的になるのは当然です。ただし、自制的な傾向がよい方向に作用しているときはいいのですが、逆に自分たちの仕事の守備範囲を狭めているケースも見られます。
ときには意識的に、自分たちで仕事の枠を広げていくことも必要です。とくに最近のように人材争奪戦が過熱しているときは、正攻法だけで必要な人材を採用するのは大変です。場合によっては「禁じ手」的な発想も必要です。禁じ手といっても、もちろん犯罪的な採用をやれと言っているわけではありません。
たとえば英語ができ、サプライヤーのコントロールができ、ロジスティックスがわかり、マネジメント経験があるという4つの要素で人材を探しているとしましょう。しかし頑張って探しても、どうしても要件に該当する人材を採用できないときはどうするか。
そうした場合、英語とサプライヤーのコントロール、ロジスティックスとマネジメント経験の2つに求める能力を分解して求人をかけてみる。すると、意外にあっさり採用できたりします。要は求めるレベルは下げないが、要素を分解して2人採用するのです。
「2人採用したら人件費がアップしてしまう」という心配はありますが、ほかの社員が担当している仕事もすべて見直し業務の組み換えを行うことで、人件費がアップした分の利益は稼げたりします。こうした職務の分解と最適な組み換えは、経営者か人事にしかできないことです。
他に業務フローを整理する、というやり方もあります。たとえば私たちの人材紹介業務では候補者を開拓し、面談する一方、お客様に営業してマッチングを行い、両者のフォローを行い、条件面を調整し、最終的な決断を支援するというフローがあります。
そこで候補者の開拓と面談だけを専門に行う人と、それ以降の仕事を担当する人に業務を分ける。すると前半の担当者は比較的採用できるので、いままで全フローを担当していた社員に後半の業務へ集中してもらい、全体として成約数を伸ばせるようになります。
自社の戦略遂行に必要な人材を計画通り採用できないと、会社の成長は止まります。すなわち、勝つ人事とは必要な人材を必要なだけ採用できる人事です。
職務の分解や業務フローの整理に人事が踏み込むことは、他部門への越権行為と感じるかもしれません。しかし現在のように売り手市場になり求める人材の採用が難しいときは、あえて「禁じ手」発想で状況の打開に取り組むことも必要です。
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結果が合格でも不合格でも、面接後に的確なフィードバックをいただくと「ちゃんと候補者を見てくださったのだな」と紹介会社は感激します。
こちらがハッと気付かされるような指摘や、候補者本人がその後の転職活動に役立てられそうなポイントをわかりやすく伝えてくれる担当者の方に対し、「一事が万事」の安心感から紹介会社は安心して候補者を推薦できるようにもなります。
的確なフィードバックができる採用担当者は、面接でどんなやり取りがあったかはわからなくても、そのクオリティの水準は容易に想像できます。
実際に面接を受けた候補者から「素晴らしい面接官でした」「あの人がいるので会社のファンになりました」と伝えられるケースもあります。なかには採用担当者にほれ込んで、転職を決断した人もいるほどです。
これは社員数50人ほどの中小企業が、CFOを採用したときのことでした。この中小企業には採用全般を担当している非常に優秀な役員の方がいて、一次面接から採用プロセスに関与しています。
CFOとして採用が決まった候補者はこの役員との面接に感激し、「あなたと一緒に仕事ができるなら私はぜひ御社に行きたいと思います」と言ったそうです。
この候補者には他社からもっとよい条件のオファーが出ていました。普通であれば、この候補者は他の会社に転職していたと思います。つまり、この中小企業は通常では採用の難しい人材を採用担当者の魅力によって獲得したのです。
このケースが示すように、採用担当者自身が持つ人間的魅力は、自社の採用力に大きく貢献します。ただし、当たり前のことですが、採用力を向上させるほどの人間的魅力は一朝一夕には身に付きません。長期間にわたって本気で仕事に打ち込み、能力と人格を磨いていく必要があります。
それは大変な道ですが、採用の仕事は一生を懸けるに足る仕事だと私は思います。会社の成長に直結する業務であり、自社の経営のことも業種・業界のことも考えなければいけません。新卒も中途もグローバルもあります。
何より採用担当者はある意味、雇用という一生ものの商品を売っているのですから、「あなたと一緒に仕事をしたい」と候補者に言われる地点を目指すべきだと思います。
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