採用コラム

Column Vol. 5

人材を口説くに足る魅力はあるか?

この連載ではリクルートが急成長していた時代の採用戦略についてお話してきましたが、次のような疑問をもった方も多いと思います。「いくら熱心に口説いたからといって、本当に一流企業から引く手あまたの学生が知名度のない会社へ大量入社するものか?」それが本当なのです。例えば東大が20名以上、早稲田と慶応がそれぞれ50名以上と、当時はトップクラスの大学から凄まじい人数を採用していました。

学生を口説くとき、採用側が強く意識していたポイントは二つあります。一つは、「何をやるか」ではなく「誰とやるか」という軸で口説いていたことです。要するに、「こんな仕事ができる」ではなく、「こんな魅力的な人たちと仕事ができる」というアプローチをしていました。そのためリクルーターには、学生時代に体育会の主将やサークルのリーダーを務めていたような魅力的な人を優先的に配置していました。

もう一つのポイントは、当時は何をやっているのかよくわからない会社だったことを逆手にとり、「何か面白いことができそうな可能性」をアピールしたことです。世の中の会社はほとんど、既存の業種や業界に分類されます。しかしリクルートにはそうした既存の枠組みに当てはまらない部分がありました。それは発展途上のベンチャー企業の魅力であり、「自分たちの力でどうにでも将来を切り開ける」楽しさがあったと言えます。

リクルートに入社を決意した学生側から見ると、こんな風に映っていたはずです。
「この人となら働いてもいいな…」
「この会社なら面白いことができそうだな…」
一緒に働く人に対する魅力と、それが何かはわからないけど何かできそうなワクワク感。この2点が競合する一流企業の内定を蹴る大きな理由になったと思います。

付け加えると、条件面も優遇されていました。初任給は他社よりも高く、27歳くらいになるとメーカーに就職した人の倍くらいの給与をもらっていたと思います(もっとも、年齢が上がると賃金カーブが緩やかになり、生涯年収でみると決して高くはないのですが)。昇進も早く、26歳で課長になる人がいたぐらいです。当時はまだまだ年功序列が色濃く、大手企業では40歳にならないと課長になれない時代でしたから、異彩を放っていました。

ここからわかるのは、まだ世の中にあまり認知されていない企業が本気で優秀な人材を採用したいなら、自社の持てる魅力を見出し雄弁にアピールすることと、できる限り諸条件を魅力的にすることです。優秀な人材は欲しいが語るべき魅力はない。それでは口説きようがありません。

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閉塞した経済環境のなか、求める人材として「起業家精神を持っている人」、「先頭に立ってビジネスを動かしていける人」という要望を聞くことが多くなりました。そのため、独立して起業する社員の多いリクルートの人材育成が注目を集め、多くのOBがリクルートで得た経験を本にまとめています。しかし私から言わせると、リクルートという会社そのものに、人材を育成する機能はありません。

「リクルートは『出る杭』タイプを採っている」こう言われることもよくありますが、それも違います。このメルマガをお読みいただいている方ならもうご存知の通り、リクルートが採用に力を入れていたのは一流企業から内定の出る優秀な学生でした。つまり、どんな会社でも欲しがるような人たちを力ずくでとってきていたのです。

リクルートと他社から複数の内定をもらって悩んだ末、最終的に銀行や商社に進路を決めた学生もたくさんいました。その意味では、どこか変わった人や尖った人を優先して採用していたわけではありません。それなのに独立して起業する人が多い理由として考えられるのは、会社の中に育成機能があるからではなく、社員が「自分で何事かを成す」というスピリッツや行動の邪魔しないように会社がしていたことです。

一般的な日本の企業では、社員が先の読めない新しいチャレンジをしようとすると、たいてい「待った!」がかかります。銀行のように業種によっては「待った!」をかけなければ顧客から信頼を得られず、仕方のないケースもありますが、どうしても「自分で何事かを成す」スピリッツは失われてしまいます。

それとは対照的に、リクルートは社員が何かチャレンジしようとするとき、基本的に邪魔をせず、むしろ奨励します。この社員の邪魔をしないという会社方針によって「自分で何事かを成す」精神や行動がどんどんエスカレートし、最終的に会社を飛び出して独立し、自分で事業をやる人が多くなっているのです。

見方を変えると、もし優秀な人材を採用していながら企業家精神があまり発揮されないとしたら、自覚のないままに会社が社員の「自分で何事かを成す」精神や行動を潰している、と疑ったほうがよいでしょう。「企業家精神を持った人材が欲しい」とメッセージを発しながら、実際のマネジメントは別。それでは社員の気持ちが腐ってしまいます。

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