リード投資しか手がけず、投資先のボードに入って苦難をともにする。
まずはお二人がグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)に入社された経緯を教えてください。
最近、コンサルティングファームから転職された工藤さんはいかがですか。
工藤
私は大学時代、Forbes JAPANを発行してる企業でインターンシップを経験し、そちらで起業家の話を聞く機会がたびたびありました。みなさん志をもって実現したいことを熱く語られていて、とても感銘を受けたんです。とはいえ当時の私は学生からいきなりスタートアップに飛び込んで活躍できるイメージが持てず、まずはビジネスパーソンとして力をつけたいと考え、新卒でマッキンゼーに入社。大企業の方相手にプロジェクトを行う日々もとても刺激的でしたが、3年経って自分のキャリアを考えたとき、あらためて自分がやりたかったことにチャレンジしようと転職活動を開始。VCの立場からで起業家の方々と一緒に新しい事業、新しい世界を創っていくのは面白そうだと感じて、いまのキャリアを選びました。
VCのなかでもGCPを選ばれたのはどうしてですか。
工藤
実は当初、GCPはすでに完成された組織で、私のような若手は下働きばかりで窮屈な思いをするのでは?と勝手な印象を持っていたんです。でも、実際にパートナーの方々と話をさせていただくと、メンバーの自律的な行動を促す風土で、まったくイメージが違っていましたし、GCPの育成方針にも魅力を感じました。日本のVCでパートナーが3代続いている企業は他に見当たらず、このGCPという箱を未来にしっかりと残していきたいという考えであり、これから入社する若い人材への期待を強く感じました。私自身も、この業界にしっかりと腰を据えて日本を代表するようなキャピタリストになりたいという思いがあり、GCPならばきっとそれが果たせると入社を決意したのです。
湯浅さんにおうかがいしますが、GCPは国内の他のVCと比較してどんな特徴があるのでしょうか?
湯浅
日本のVCの多くはフォロー投資中心なのが実情ですが、我々はあくまでもリード投資しか手がけず、かつ、ほとんどの案件で投資先のボードに入って経営に関与しています。また、基本的にシリーズAの投資ラウンドに出資し、そこから継続的にフォローしてIPOまで長期間にわたって支援していくスタイルをとっています。平均すれば7年ほどで、この間、取締役として投資先と極めて近い距離で伴走し続けています。
単に資金を供給するだけではなく、投資先に深く関わるのが大きな特徴なのですね。
湯浅
ええ。あともうひとつ挙げるとすれば、我々の投資ファンドに出資するLPが機関投資家であること。国内の他のVCは、LPが事業会社であるケースがほとんどですが、我々は1号ファンドから機関投資家に出資いただき、年金や保険金の運用のひとつのアロケーションとして選ばれています。機関投資家のミッションは、お客様からお預かりした資産を安定的に増やすことであり、我々のようなファンドにも高いリターンを求めてきます。しかし、逆に言えばリターン以外を要求されることはなく、我々も「いかに大きな可能性を秘めた投資先を発掘し、大きく成長させるか」というテーマに純粋にフォーカスできる。それもGCPの大きな魅力だと思いますね。
けっして慢心しない。失敗した投資案件を検証し、同じ過ちを繰り返さない。
御社は日本のVC業界において、すでに圧倒的な実績とブランドを築き上げています。現在のポジションに至った背景や理由は何だとお考えですか。
湯浅
やはり起業家に真剣に向き合い続けてきたことでしょうか。世間では、VCというのは出資先企業にBETするイメージがあるかもしれませんが、我々はスタートアップ投資を「賭け」だとはまったく捉えていなくて、むしろ投資後、ボードに入っていろいろな苦難を共にしていくことが使命だと思っています。そのスタイルを1号ファンドから徹底してきたことで、スタートアップ投資の知見が社内に豊富に蓄積され、次世代に継承されています。また、いまや国内で有力企業に成長したベンチャー各社の創業期から支援し、エコシステムのど真ん中に居続けたことも大きいと感じています。たとえば、我々が投資したスタートアップが大きな成功を収め、その経営者がさらに新たなスタートアップを興す時、過去の実績から我々をまた選んでいただける。そうしてずっと繋がっているケースがいくつもあり、日本のスタートアップのエコシステムの原点から関わり、そのなかで主要な役割を果たしてきたこともGCPが認められている理由のひとつだと思います。
起業家に向き合い続けるのがGCPのスタイルとのことですが、そもそもなぜ、そこにこだわられているのでしょうか。
湯浅
こう言うと元も子もありませんが、やはりGCPのメンバーはみな起業家が好きなんだと思います。私も含めて、仕事だからといって起業家と付き合っているような人はいませんし、その根本には起業家に対する強いリスペクトがあって、その方のポテンシャルを少しでも開放して目指す世界を実現する力になりたいという想いがある。そこに自分たちのミッションを感じているメンバーばかりで、みな進んで起業家と伴走している感じです。一方、GCPはいま業界内で評価をいただいていますが、我々自身がそこに胡坐をかいた瞬間、GCPは滅び始めると思っています。もちろん過去のトラックレコードなどはアピール材料に使わせてもらっていますが、我々にはブランドがあるなどと慢心したらアウト。あくまでそれは過去の実績であり、未来に挑む起業家には何の意味もないので、常にゼロベースで事業に臨もうとしています。
工藤
そうした姿勢は私も強く感じます。週次のミーティングでも、常に先を見据えていて、まったく守りに入らず、次にどんなチャレンジをすべきか熱く議論している。入社して初めてそんな文化があることに気づきましたし、それは外からは見えないGCPの魅力だと思いますね。
湯浅
社内では失敗案件のレビューも実施していますし、また、我々が投資しなかったスタートアップの成功例が現れれば、なぜ投資できなかったのかというレビューも定期的に行っています。そもそもそのスタートアップを見つけていたのか、見つけていたとすれば自分たちが投資を見送ったのが、それとも断られたのか、どのポイントに失策があったのかをきちんと検証し、同じ過ちを繰り返さないことを心がけています。
湯浅さんは、今後のVC市場をどのように見通していらっしゃいますか。
湯浅
市場はまだまだ大きく伸びていくと考えています。昨年(2023年)のスタートアップの調達額が9000億円弱で、10年前と比べて10倍以上になっています。が、それでも対GDP比率は0.1%ほどで、0.3%のドイツと比べてもまだまだ少ない。かつ、日本の社会においてこれからいっそう求められるDXも、それを牽引するのはスタートアップであり、市場自体はますます広がっていくのは疑いない。それがVCにどう影響するかといえば、今後は優勝劣敗が明確になっていくのではないでしょうか。成功するファンドと失敗するファンドが二極化すると思っていて、優秀な起業家がなぜそのVCを選ぶのかという問いに対して、納得できる解を持たないVCは恐らく淘汰されていくでしょう。
みな夢を持つメンバーばかり。若手人材の育成にも組織を挙げて力を注ぐ。
工藤さんはVC未経験でのご入社ですが、当初、どんなところに苦労されましたか。
工藤
キャピタリストの仕事は、自分が進んでいる道が本当に正しいのか、案件に関わっている最中はわからないんです。投資判断にせよ、ソーシングのやり方にせよ、キャピタリスト各人各様で絶対的な正解はない。自分なりのスタイルを築いていかなければならず、しかも投資の成果が出るまで10年近くかかることもあり、本当に難しい仕事だとあらためて実感しています。
入社後はどのような環境のもとで、キャピタリストとして成長されているのでしょうか。
工藤
私の場合、パートナーの方々がそれぞれ抱えている案件に関わらせていただき、投資先に同行してコミュニケーションの取り方を習ったり、新規の投資先の面談にも入らせていただいて、スタートアップの経営者とどう折衝しているのかを肌で学んできました。その場で自分なりに考えた質問を投げかけることも許されていて、後でパートナーからフィードバックを得て知見を蓄えています。こうして育成していただく一方、やはり自ら行動しなければ大きな成長は望めないという思いもあり、興味を持ったスタートアップにDMを送ってタッチポイントを作ったり、あるいはVC業界内でのネットワークを広げようと様々な場に参加したりと、自分発信でいろいろと仕掛けているところです。
工藤さんはGCPでキャリアを積む魅力を、いまどこにお感じになられていますか。
工藤
GCPに入社してあらためて実感するのは、パートナーの方々が若手人材の育成に本当に時間を費やしてくださること。1on1の場も頻繁に設けてくれますし、一緒に投資先の支援や新規の投資検討を行う機会も積極的に与えられて、そこでストレッチングな課題にチャレンジさせてくれる。入社前からこうした文化があると聞いていましたが、期待以上の環境でGCPを選んで良かったと切に思っています。また、ここで一緒に働くメンバーがみなさん、VCの仕事を通して「こんな世界を実現したい」という夢を持っていて、ユニークな方ばかりですので普段から会話するのが楽しい。GCPの飲み会は、いつもお互いの野望を語り合って大いに盛り上がってます(笑)。
起業家との伴走は本当に刺激的で面白い。もはや仕事だという感覚はない。
湯浅さんにおうかがいします。新たなキャピタリストを採用するにあたって、御社にフィットするのはどんな人材でしょうか。
湯浅
求める資質はいくつかありますが、ひとつは人としてのmaturity(成熟性)ですね。キャピタリストとして入社後に対面するのは、年齢は自分とそれほど変わらないものの、すでに数百名の組織を率いる起業家だったりするんですね。そうした方々に伴走していくためには、ビジネスパーソンとしての高い能力はもちろん、人としてのmaturityも求められる。その素養があるかどうかを面接時に見極めています。
人としてのmaturityというのは、どうアセスメントされているのでしょうか。
湯浅
面接時に探っているのは、候補者の方のベクトルがどこを向いているのかということです。自分のスキルアップだけを志向するのではなく、周囲に対してベクトルを向けられる人がmaturityを備えていると思っていて、対話を重ねてその方向性を確認させていただいています。そしてもうひとつ、我々が知りたいのは、強い意志があるかということ。やりたいことを実現する場としてGCPに身を置くのが理想的であり、GCPでパートナーになること自体を目標に掲げられるような方は少し違和感がある。日本のスタートアップのエコシステムを拡大したいとか、優れた起業家を支援して日本発で新たなビジネスを創りたいとか、その方なりの大義を抱いてGCPに参画してほしいと思っています。
そのほか、採用時に重視している資質はありますか。
湯浅
これはちょっと表現が難しいのですが、投資家マインドセットを備えていてほしいと思っています。投資する際には「他人とは考え方が違うものの、考え方そのものは正しい」というスタンスが最もリターンを得られると思っていて、世の中のトレンドを理解しつつ、すべて鵜呑みにするのではなく、自分なりの考えを持って少し批評的な眼で物事を捉えることが重要。ですから、面接の場では「あなたならどの企業に投資したいか」という質問を通して、投資家としてのマインドセットも見極めています。あとは行動力ですね。GCPは「主体は個人にある」という方針を掲げていて、自ら課題を設定して行動できる方であれば、当社は面白い経験ができる場だと思います。
工藤
私も面接時、「VCで何をしたいのか」をすごく問われました。実際に入社してみると、日々いろんな起業家の方にお会いできるのはとてもエキサイティングなのですが、常に知的好奇心を持って行動し続けなければならない環境なので、何をしたいのかという意志が明確でないと、きっとこの仕事を続けるのは難しいようにも感じます。
では最後に、VCを志す方にメッセージをお願いします。
工藤
スタートアップに興味をお持ちで、志のある起業家と一緒に新しいビジネスを創っていきたいという方にとっては、GCPは最高の場所だと思います。熱量あふれる優秀な起業家の方と一緒に走り続けるのはとても刺激的で、面白味しか感じない。純粋に毎日楽しくて、仕事をしているという感覚ではない。昔は休日出勤を余儀なくされたら本当に嫌でしたが、いまは何とも思いませんし(笑)、私にとっては天職です。
湯浅
私も工藤と同じような感覚で、凄い起業家たちと一緒にいままで見たことのない未来を創ることに関われるのが何よりの喜びです。加えて、先ほどお話ししたように我々のファンドは年金の運用も担っているので、このVCの仕事は、前の世代から預かっているお金からリターンを生み、次の世代のために役立てることにも寄与している。いま日本に眠っている巨大な年金は、次の世代のためにはほとんど使われていないのが実情で、我々が仲介者となることでそのリスクマネーを活用し、スタートアップ投資を通じて日本の未来をより良くしていくことができる。そんな社会的意義も大いに感じながら仕事に臨める環境です。一方で、少し厳しいことを言わせていただければ、我々が手がけるのは慈善事業ではなく、非常に激しい競争に晒されています。そこで勝ち抜いていくためには日々の努力が欠かせず、私も1日最低でも2時間はインプットする時間を作り、常にラーニングして知識をアップデートしています。そうした努力を厭わない方であれば、これ以上楽しい仕事はないと思いますね。
湯浅
私はアメリカの大学を卒業後、国内のコンサルティングファームでキャリアを積んだ後、ハーバードに留学してMBAを取得しました。ボストン滞在中、スタートアップと接する機会がたびたびあり、新たなテクノロジーで社会にイノベーションを生み出している様を目の当たりにして、そのダイナミズムに大いに魅せられました。また、それを支援するベンチャーキャピタル(VC)の存在を知り、面白そうな仕事だと非常に興味を覚えたのです。帰国後、日本でも同じような経験ができる場がないかと探していたところ、GCPに出会ってインターンシップに参加。そこで投資検討に携わった社員数名のスタートアップが、ビジョナリーな起業家のもとで爆発的な成長を遂げていて「日本にもこんな凄いスタートアップがあるのか」と衝撃を受けました。実はそれがいまのスマートニュースなのですが、スタートアップ投資が社会にもたらすインパクトを身をもって感じ、またGCPの投資先ポートフォリオも私が魅力に思えるスタートアップばかりでしたので、ぜひここにフルタイムで参画したいと2014年に入社しました。