INTERVIEW

VC(ベンチャーキャピタル)インタビュー

青臭いプロフェッショナルでいたい。
未踏領域を誰よりも先に踏破し、世界を変えていく。

UntroD Capital Japan株式会社

代表取締役 永田 暁彦氏
取締役 山家 創氏

経済の力がなければ解決できない課題に対して、資金と人材を流していく。

まず、このUntroDを率いる永田さんのご経歴を教えていただけますか。

永田

私は大学時代、スタートアップ投資と事業開発コンサルティングを手がける株式会社インスパイアのインターンシップに参加し、卒業後そのまま入社しました。そのインスパイアの投資先のひとつが、当時創業したばかりの株式会社ユーグレナで、私が担当することになったんですね。そして2年目でユーグレナの社外取締役に就き、3年目の時に移籍を決断。ユーグレナでは戦略担当と財務担当の役員を務め、2012年に東証に上場して以降は経営全般に携わってきました。そして2021年にユーグレナのCEOに就任し、2024年3月に退任して現在に至っています。

ユーグレナの経営に関わる一方、在籍中に永田さんご自身でベンチャーキャピタル(VC)の「リアルテックファンド」を設立されていらっしゃいますね。

永田

ええ。2015年にファンドを起ち上げました。もともと私は世界にインパクトを与えるようなスタートアップ、人類を救うようなスタートアップを支援したいという思いがあり、ユーグレナもその一社だったわけですが、やはりそれを実現する手段はディープテックだと考えていました。しかし、この領域に関わる研究開発型のスタートアップにはまったく資金が集まらなかったのが実情で、この問題を自ら解決したいとリアルテックファンドを創ったのです。以降、国内ではファンドを5本、グローバルでもシンガポールを拠点にして2本運用しており、このリアルテックファンドが発展して2024年6月よりUntroDとして再始動しています。

リアルテックファンドの思想や哲学が、UntroDにも継承されているのですね。

永田

私はファイナンスの出自なのですが、お金を増やすことへの興味はまったくなく、どうしても経済の力がなければ解決できない課題に対して、そこにお金と人を流すことがVCとして私が果たすべき使命だと思っています。VCとして優等生的発言をするのであれば、資本主義において最もボラティリティが高く、しかしアップサイドのある投資領域がVCであり、高いα値が期待できると訴えるのでしょうが、私はそんなことはどうでもいい。もちろん、お金を出してもらった人には絶対にプラスで返しますし、我々のファンドに出資して良かったと思わせます。しかし、我々が何のために投資するのかというと、お金でお金を増やすことではなく、そこにお金が届かないがゆえに発現しなかった社会的価値をきちんと生み出していくこと。そのためにこの仕事をやっているのであり、ですからグローバルにおいても、ディープテックが勃興しているアメリカではなく、まだまだ萌芽していない東南アジアをターゲットにし、そしてゆくゆくはアフリカにも進出していきたい。我々は新たな社会的価値を創造するために、未踏(untrod)の領域に挑戦し続ける存在でありたいと思っています。

そうした思いのもと、リアルテックファンドをUntroDに改称されたのですね。続いて山家さんもご経歴も教えていただけますでしょうか。

山家

私は仙台出身で東北大学を卒業後、2009年に研究開発型の半導体ファブレスメーカーであるザインエレクトロニクスに入社しました。私も大学時代からスタートアップに興味があり、東北大の准教授の方が起こしたスタートアップにインターンシップで参加していました。就職にあたってもテック系のスタートアップを志向していましたが、私自身は文系で技術のバックグラウンドはなかったので、エンジニアができないことをカバーする役割でスタートアップ経営に関わりたいと、当時まだまだ発展途上にあったザインエレクトロニクスを選んだのです。そちらで4年ほど、営業から生産管理、経営企画まで幅広く携わり、2013年に当時の副社長がスピンアウトして新たな半導体開発のスタートアップを起ち上げることになり、お誘いいただいて創業当初から参画。そちらで経営企画を担い、VCと関わる機会を持つようになったんですね。社長が資金調達に苦労しているのを間近で見て、何とか力になりたいと奮闘していたのですが、投資家と折衝しても「半導体はわからない」という反応がほとんど。技術が理解されないがゆえに、自分たちの本当のポテンシャルや革新性が伝わらず、当時は半導体というだけで「儲からない」と門前払いされてしまうような状況でした。悔しい思いを抱きつつ、ディープテックのスタートアップで上手に資金調達している企業はないかと自分なりに探していたところ、ユーグレナに出会ったんですね。そのCFOを務めているのは、自分とそれほど歳の変わらない若い方で、それが永田さんでらっしゃったのですが、ぜひお会いしてみたいとコンタクトを取らせていただいて……当時、永田さんがリアルテックファンドを起ち上げたばかりの頃で、その考え方に非常に感銘を受けて2015年にこちらに転職しました。

我々がいなければ見向きもされなかった領域に、どれだけ光を当てることができたか。

山家さんは自らアプローチし、永田さんに吸い寄せられるような形でこちらに参画されたのですね。

山家

ええ。当時、ディープテック領域に果敢に投資しているVCはあまり見受けられませんでしたし、また、社会的価値を生み出すことを大義に掲げる永田さんの熱い想いにとても魅せられました。

永田

当時、投資先としてリターンを得るまで時間のかかる研究開発型スタートアップは見向きもされず、すぐに儲かりそうなスマートフォンアプリを開発するスタートアップばかりがもてはやされていたのですが、それでも我々のようなスタンスのVCに惹かれる人材が結構いたんですね。その頃、特に採用広報をしていたわけではなかったものの、山家のような人間が自然と集まってきてリアルテックファンドが軌道に乗った感じです。

では、あらためてUntroDが他の一般的なVCとは何が違うのか、その特徴をおうかがいできますか。

永田

一般的にVCというのは、ファンドのサイズが大きかったり、IPOの実績が豊富なほうが評価されると思うんですね。そうした指標はまったく眼中になくて、我々がいなければ見向きもされなかった領域に、どれだけ光を当てることができたかを誇りたい。けっして、現在のディープテック市場がすべて自分たちのおかげだと言うつもりはありませんが、間違いなくそこに貢献してきたという自負はある。我々のファンドのリターンが10倍になれば、もたらされるソーシャルインパクトが10倍以上になっていると言える仕事をやり続けたいのです。いま、世界の富は特定の層に集中していて、彼らが資金を回すことで資本主義にインパクトを与えているのは事実ですが、たとえば100億円を毎年10%ずつ増やしていこうとひたすら執着するような投資家のために、私は自分の人生を使いたくはない。この社会でUntroDに関わる仲間が、それぞれの人生においてどんな意味を成したかいうところに重きを置きたい。それは投資先が花開くことと同義であり、我々はいま全案件でインパクト評価を行おうとしているのですが、それは自分たちの活動がどう社会にポジティブインパクトを与えたかを可視化したいと思っていて、そこにこだわっていることが大きな特徴でしょうか。

そのための手段がディープテックというわけですね。

永田

ええ。いま最も社会にインパクトをもたらすのはディープテックであり、UntroDとして再始動してもその根幹が変わることはありません。エネルギー問題や貧困問題などの解決は、すべてサイエンスとR&Dの先にあるものだと思っており、ここに優秀な人材と資金が流れ続けないと人類の進化が失われてしまう。また、日本という文脈だけで考えても、我々の子供たちが将来日本で本当に豊かに暮らすためには、外貨を稼げる産業を作らなければならない。これから人口が減少し、資源にも乏しい我が国が、どうやって経済的に豊かになるのかというと、外からお金を稼いでくるより他はない。現在、日本の上場企業の上位の約半分がディープテック領域なんですね。トヨタさんなどはその筆頭。上場企業トップ40社のうち、20社が研究開発型のディープテック領域に位置づけられる企業で、その20社はすべて海外での売上のほうが大きい。ですから、日本を豊かにしていくために何をすべきかと考えたら、やはり世界でお金を稼げるディープテック企業を創ることだと私は強く思っています。

永田さんのおっしゃる通り、確かにトヨタ自動車もディープテック企業のひとつですね。今後、日本からトヨタのような企業は現れるのでしょうか。

永田

トヨタのように1社で10兆円売り上げるような企業が現れるかと言えば、それは難しいかもしれない。しかし、世界で1000億稼げるスタートアップが100社起こるのは想像がつくんですね。一方で、日本語で提供する言語系のサービスが、英語圏で勝ち抜くのはやはり難易度が高いと感じていて、非言語で技術の凄さが一目瞭然なプロダクトのほうが可能性は高い。トヨタの車は、英語が流暢に喋れない販売員でもおそらく売れる。そうしたディープテックベースのプロダクトに私は大きな価値を感じていて、たとえばiPhoneのイメージセンサはソニー製ですし、テスラのバッテリーはパナソニック製であり、そうした黒子的な戦い方でも日本企業は世界市場を十分に開拓できると思っています。

個人が目指す課題解決と、投資活動が直結しているのがUntroDの醍醐味。

山家さんは、フロントで投資先に向き合うキャピタリストの責任者を務められていますが、ご自身はUntroDでの投資活動のやりがいをどのようにお感じですか。

山家

UntroDはディープテック領域のスタートアップを支援することで、未踏の領域に到達しようとしていますが、ディープテックというのは実はいろんな定義を持つ概念だと我々は思っています。おそらく多くの人は、ハイテク的な解釈をして先進性とか革新性を想起されるのでしょうが、我々は、ディープイシューを解決できる技術、ソーシャルインパクトを創造できる技術はすべてディープテックだと捉えている。UntroDではキャピタリストのことをグロースマネージャーと呼んでいますが、それぞれが自らの志を満たすディープテックに挑める環境であり、個人が目指す課題解決と投資活動が直結しているのがUntroDの醍醐味だと思っています。私の場合、東北・仙台の出身なので地方が抱える問題に危機意識があり、地方でスタートアップを起こして経済を復興させることがモチベーションになっています。日本の各地方で世界と戦えるようなディープテックの上場企業を創れれば、人もお金も集まって地域産業が復活していく。それを自らの手でリードできることにとてもやりがいを感じています。

UntroDでは、キャピタリストのことをグロースマネージャーと呼ばれていますが、そこには何か意図があるのでしょうか。

永田

私自身、キャピタリストという言葉が好きじゃないんですよ(笑)。資本を投じて利益を得ることが我々の第一の使命ではない。名称というのは世の中の人の共通認識の塊なので、キャピタリストと名乗ると我々への期待役割がおのずと設計されてしまうんですね。

山家

そもそも当社でVC経験者は永田さんのほかに一人だけなんですね。私も含めて、あとはみな未経験で入社してグロースマネージャーを務めています。なので、一般的なVCのカルチャーを我々は持ちえていなくて、キャピタリストを名乗ると投資リターンをひたすら追求するようなイメージがあるので、それは何か違うということで設立初期の段階からグロースマネージャーという肩書を設けています。

グロースマネージャーという肩書はとても御社らしいと思います。では、今後の日本のVC業界はどのように変わっていくとお考えですか。

永田

日本のVC業界は二極化していくと思いますね。巨大なファンドサイズで高いパフォーマンスを上げるVCがますます勢力を得て業界を牽引する一方、VCのスタートアップのような存在も増えていくと思っていて、大手で成功を収めてスピンアウトしたインディーズもどんどん現れていく。そんななかで我々UntroDは、そのどちらにも当てはまらない第3極として、譲れないこだわりをもって独自の道を進んでいくことになるでしょう。

山家

若い世代からのVCへの注目度も高まっていて、優秀な人材の流入がますます進んでいくと思いますね。私も最近、VC業界を志望する若い方からよく相談を受けるのですが、そこでアドバイスしているのは、最終的にはパートナーを目指すべきだということ。VCというのは元来パートナービジネスで、個人の信頼で預かったお金を投資して、生み出した価値を還元していくことに意義があり、それはこれからも変わらないでしょうから、VC業界でパートナーになることが魅力的なキャリアとして広く認識されるようになると思います。

永田

あと、かつての私のように投資先に飛び込んで経営者になる人材がもっと増えていいと思うんですね。VCって、キャリア形成の観点から言えば「ズルい」ポジションにあるんですよ(笑)。投資側であるVCは役員を派遣する権利を有しているので、その企業の経営を担いたいと思ったら、最速の方法はVCに入ること。私の場合、新卒2年目でユーグレナの社外取締役に就きましたが、普通ならまず考えられない。そして投資先に長期的に関わり、きちんとパフォーマンスを上げて認められれば、CFOやCEOになれるチャンスもある。ですから、スタートアップ経営者へのキャリアパスのひとつとして、VCで経験を積むことは大いに有力な手段だと思いますね。

UntroDで辿れるルートでなければ、手に入らない幸福がきっとある。

今後、UntroDは新たなグロースマネージャーを募っていくことになると思いますが、どんな方に参加していただきたいですか。

永田

少し情緒的な表現になりますが、我々の仕事は一貫して利他的でありつつ、それが自己実現に繋がっていくことが本質だと思っていて、社会にとって良いことをするのは自分のためなんですよね。ですから、社会をどう変えたいのかという想いが最初にあり、そこに向かうエンジンが強力な人にぜひ仲間になっていただきたいです。キャピタリストとして成功したいという方よりも、自分が望む社会を実現するためにUntroDというツールを使いこなせるような方を期待したいですね。

山家

私も永田さんと同意見で、「こんな課題を解決したい」というイニシアチブを持っていることが大切だと思います。それをUntroDでのキャリアにリンクさせて楽しめるような方に参加していただきたいです。

永田

いま投資銀行やコンサルティングファームで活躍されている方々って、キャリアアップしてもっと高い報酬を得ることに力を傾けがちだと思うのですが、その力を社会に向けることに自分の人生の意義を見出したほうが幸せになれるかもしれない。当社に投資銀行から転職してきたメンバーがいるのですが、彼は自分の娘が生まれたことをきっかけに「彼女の将来のためになる場に資本を流したい」と生き方を変えたんですね。そうした志を我々は大いに歓迎します。

では最後に、UntroDに興味をお持ちの読者の方々に向けて、お二人からメッセージをいただけますでしょうか。

山家

我々はいわゆるVCとして長年スタートアップ支援を手がけてきましたが、現状をけっして肯定しているわけではなく、新しいVCのあり方を常に試行錯誤しながら模索しています。いわばVCのスタートアップを動かしているような感覚であり、金融でソーシャルインパクトを生み出す手段は何も投資だけではない。VCの枠を超え、金融のあらゆる知見を駆使してディープテックを社会実装していきたいと考えていて、それはとても面白いチャレンジであり、これから参加いただく方と一緒に堪能したいですね。

永田

我々に興味をお持ちなら、まずは気軽に遊びに来ていただきたいです(笑)。スタートアップ投資によって世界にインパクトを与えていく、そんな手触り感を強烈に味わえる場だと思います。ただ、そこで誤解していただきたくないのは、我々が追いかけているソーシャルインパクトというのは、常に経済性とセットになっているもの。どちらかに優劣をつけられるものではなく、そうでなければ世界は変わらない。それをしっかりと認識した方に仲間になっていただき、「この船に乗って良かった」と思ってほしい。ちょっと大上段に構えたメッセージになるのですが、個として人生を選択する際、UntroDで辿れるルートでなければ、手に入らない幸福もあると思っています。我々はいつまでも青臭いプロフェッショナルでいたい。青臭いだけでは投資先に迷惑をかけるので、プロフェッショナルとして絶対に収益を出すことを自分に課しつつ、ここに集う人たちがみなそれぞれ至福の思いを味わえる場でありたいと思っています。

永田 暁彦氏

PROFILE

UntroD Capital Japan株式会社

代表取締役

永田 暁彦氏

株式会社ユーグレナの未上場期より、取締役として事業戦略・財務・バイオ燃料領域を主に管轄。2021年より同社のCEOに就任し、全事業執行を務める。2024年同社を退職。2015年、社会課題としてのディープテック投資を推進するリアルテックファンドを設立。2024年にUntroDに改称して現在も代表を務め、資本主義におけるソーシャルインパクトの実現に注力している。

山家 創氏

PROFILE

UntroD Capital Japan株式会社

取締役

山家 創氏

研究開発型の半導体スタートアップを経て、2015年にリアルテックホールディングス(現:UntroD Capital Japan)に参画。2020年には地域発のインパクト志向ディープテックスタートアップへ積極的な投資を行う「グローカルディープテックファンド」の組成をリード。参画企業である地域金融機関や事業会社と連携して、優れた技術を持つスタートアップ企業を支援・育成することで、グローバルな課題の解決と地域経済の活性化を目指している。

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