INTERVIEW

VC(ベンチャーキャピタル)インタビュー

ビジネスモデルが美しいSaaS企業に特化し、
「人」に軸足を置いた支援で起業家の成功を導く。

ALL STAR SAAS FUND

Managing Partner 前田 ヒロ氏
Partner 神前 達哉氏

日米で多数の投資案件を手がけた経験から、可能性にあふれたSaaSにフォーカス。

まずは、ALL STAR SAAS FUNDを率いる前田さんのご経歴を教えていただけますか。

前田

私は神戸に生まれて地元のインターナショナルスクールに通い、小学生の時からビル・ゲイツにずっと憧れていました。私も彼のようにテクノロジーの世界で何か新しいことに挑戦したいと思い、高校卒業後は米国に留学してコンピュータサイエンスを専攻。ちょうど私が大学に入った頃、YouTubeがGoogleに買収されたり、Twitterがローンチしたりと、IT系のスタートアップが社会で注目されはじめた時期でした。

私もこの波に乗りたいと、在学中に起業してWebサービスをいくつか開発したものの、結局どれもうまくいかなかった。失意のまま大学を卒業したのですが、帰国後、ITベンチャー企業のネットプライスドットコム(現BEENOS)の代表を務めていた佐藤(輝英)さんと知り合い、起業家の先輩として何かアドバイスをいただけないかとお願いしたところ「良い起業家になりたかったら、まずは投資活動を通して起業を学んだほうがいい」と。

それでそのまま彼の会社に新卒で入社して「Open Network Lab」というアクセラレータの立ち上げに携わらせていただいたり、同社のインキュベーション事業の運営に携わったりしてきました。そこで多くのスタートアップと出会い、BEENOSでの投資を含めて100社以上に投資を実行し、その経験をもとに2015年に独立してグローバルで投資をする「BEENEXT」というVCを設立。そのシリーズの一つとして2019年に起こしたのがSaaSに特化した「ALL STAR SAAS FUND」です。

SaaS企業にフォーカスしたVCを起ち上げられたのは、どのようなお考えからですか。

前田

これまで私は、日米の多くの企業に投資をさせていただきましたが、そのなかでも圧倒的に自分にフィットしたビジネスモデルがSaaSだったんですね。また、「BEENEXT」を起ち上げた2010年代半ばからクラウドが台頭し、SaaSのスタートアップが大型の資金調達を行なっていました。
こうした流れを見ても、今後クラウドが普及するのは必然であり、日本にもこの流れは必ず来るだろうと。しかし、当時は国内でSaaSという言葉すら知られておらず、SaaSに関する情報を入手する機会もなく、上場しているSaaS企業は1社だけという状況でした。
これから世の中でSaaSが求められるのは間違いなく、事業を起こせるノウハウや人材が集まる場を作るとともに、SaaSの起ち上げを支援できる深い知見と経験を持つ専門集団が必要だと考え、VCとして組織化して発足したのが「ALL STAR SAAS FUND」です。

SaaSというビジネスモデルが、前田さんにフィットしたのはどうしてですか。

前田

SaaSというのは、お客様に還元する価値を最大化すれば、それに応じて単価も上げることもできますし、お客様からの信頼も勝ち取ることもできる。したがって、お客様にひたすら向き合い、どうすればもっと価値を還元できるかを考え続ければ、必然的に成功に繋がるという、わかりやすくて美しいビジネスモデルなんです。
さらに、SaaSを成功させるためには組織力が重要であり、プロダクトマネジメント、セールス、カスタマーサクセスといった部門が連携し、明確な経営ビジョンに基づいて行動することでパフォーマンスが最大化される。組織マネジメントによって企業価値を高めていくことも私の好きなテーマの一つであり、その点でもSaaSは私の価値観とフィットした感じですね。

続いて、神前さんのご経歴を教えていただけますか。

神前

私は大学時代に教育関連のNPOの代表を務めた経験があり、人の可能性を最大化することにとても関心を抱いていました。その延長線上で、新卒で教育事業を手がけるベネッセコーポレーションに入社したのですが、そこで事業開発に携わる機会を得て、米国の「Udemy」という教育プラットフォーム事業を営むベンチャーとの事業開発など、海外プロジェクトをいくつか経験しました。
そうした活動を続けるなかで、SaaSというビジネスモデルに出会い、そしてヒロさんとの出会いにも繋がりました。2017年のことでしたが、当時、Webで「SaaS」という単語を検索すると「前田ヒロ」という人にヒットして、どうやらSaaS企業を対象としたVCを運営しているらしいと。
その時はVCについての理解がまったくなかったのですが、ヒロさんがSaaS企業の経営者の方と議論しているポッドキャストの番組があって、そこで得たナレッジをそのまま社内で実践すると新規事業で成果が上がったんですね。以降、個人的にヒロさんをフォローしていたのですが、コロナ禍で自分のキャリアについて深く考えるようになり、そんなタイミングでヒロさんがTwitterで新メンバーの募集をされていて、この機に個人で勝負できるキャリアを手に入れたいと応募したのです。

日本と世界を繋ぎ、SaaSに関する先進のノウハウやナレッジを国内に展開していく。

神前さんが採用に至ったのは、どのような経緯からだったのでしょうか。

前田

ALL STAR SAAS FUNDを起ち上げた際、まずは投資先に対して「人」にまつわる支援をしっかり行うことを掲げたんです。実際、経営者の悩みの8割は人に関することであり、良い人材が採用できないとか、なかなか定着しないとか、そうした問題を解決しないことには投資先の成長は望めない。
そこで、ALL STAR SAAS FUNDはタレント支援に重きを置いてスタートしましたが、次のステップとして採用した人材のパフォーマンスを上げるための戦略が必要になり、投資先と伴走しながらそれを担えるメンバーとして、SaaS事業に当事者として関わった経験のある神前を迎え入れたのです。

神前

私は実はキャピタリストを志望していたわけではなく、投資先の「人」を支援することに大いに魅力を覚えて参画しました。先ほど申した通り、私は人の可能性を最大化したいという思いがあり、そこから組織の可能性を最大化して日本経済に貢献できればと考えていました。
ALL STAR SAAS FUNDならば、まさにそのビジョンが実現できると感じて入社したのですが、実際に投資先と伴走し「人」を支援していく過程で学ぶことがたくさんあり、起業家と向き合って事業のバリューアップを図っていくうち、これはキャピタリストが担う責任と同じだと感じるようになって現在のポジションに移行しました。最初に投資先のバリューアップからスタートしたことは、いま振り返ると良いキャリアだったと思っています。

それではあらためて、ALL STAR SAAS FUNDの特徴を教えていただけますか。

前田

先ほどお話ししました通り、まずは「人」にまつわる支援に注力していることです。そしてSaaSに特化しているため、国内外のSaaS企業の経営者の方々と密なネットワークを築いており、そこから得られたナレッジやノウハウを豊富に有していることも強みです。
私たちが目指しているのは、投資先を支援することはもちろん、SaaSのエコシステムを盛り上げていくこと。当社が抱えるノウハウやナレッジを、ブログやポッドキャスト、カンファレンスなどを通して発信し、業界内で共有することに努めており、エコシステム全体を底上げできれば、当社も投資先もその恩恵を受けられるという思想で活動を進めています。

神前

加えて、海外との繋がりが大きいこともALL STAR SAAS FUNDの特徴ですね。当社のファンドに出資しているLP(Limited Partner)のほとんどが海外のファンドです。日本と世界を繋げ、国内のスタートアップに世界の資本を投じていくことを掲げていて、それも入社時に私が惹かれたポイントでした。

前田

海外で培われた知見は非常に貴重で、特にアメリカはSaaSの普及率が日本より高く、ビジネスの面でも少し先を進んでいるケースが多くあります。そうした海外の情報をいち早くキャッチして国内に発信することで、投資先にも貢献できる。さらに、いまアメリカで活躍されている有力なSaaS企業のCEOの方々ともコネクションを持っており、彼らを招いたカンファレンスなども開催しています。
そしてもうひとつ、外からは見えづらい私たちの特徴としては、SaaS企業が持っているバリューを自ら体現していること。たとえば「信頼のサブスク」や「チームサクセス」など、当社独自のバリューを掲げて、SaaS企業らしいカルチャーを築いています。そうしたバリューをしっかりと発揮することで、支援先に対してもあるべきSaaS企業のモデルを示すことができればと考えています。

ファンドのメンバー全員が、起業家が魅力を感じる「人格」を築いていきたい。

神前さんは入社後、短期間でパートナーに就任されています。どのような点が評価されて昇格されたのでしょうか。

前田

ALL STARでは、特定分野でスペシャリティーがあり、チーム内のファンクションをリードする役割にパートナー(ファンクションによってはマネージャー)の肩書きをつけています。神前は、前職でSaaSの新規事業を起ち上げて運営しており、その専門性を活かして支援先の成長に貢献する当社のEnablement Programの構築・運営をリードする役割として当初Enablement Partnerとして入社いただきました。その後、投資チームでの活動の比重を高めるために投資チームのPartnerにスライドしていますが、引き続きEnablementをリードする役割も同時にもっています。今後も専門性を持ち、物事を推進する力を持つ候補者を充実させていきたいと考えております。

今後の日本のVC業界について、前田さんのこれまでのご経験も踏まえて、どのように変化していくとお考えですか。

前田

おそらく、VCの定義がより変化していくのではないでしょうか。かつては急成長の可能性を秘めた、スタートアップという生命体を誰よりも早く探し出し、投資して伴走することがVCのあり方でしたが、いまは起業家と共同創業のような形で会社を起こすなど、いろいろな形のVCが現れています。また、投資先の分野もSaaSはもとより、バイオや宇宙などの先端領域にも広がっており、それぞれVCが用意しなければならないリソースも多様になってきています。
こうした時代の変化に応じてVCもまた形を変えながら増えていくのは間違いないでしょう。起業家からすれば選択肢が増えることになるので、自社に最も適したVCをより選択しやすくなる、と言えるでしょう。
一方で、普遍的にVCに求められる価値もあると私は考えていて、それはファンドを運営している者の思想や人格であり、そこから起業家にもたらされる信用や信頼がいっそう重視されていく。「このキャピタリストと一緒に仕事がしたい」というモチベーションでVCを選ぶ起業家がいっそう増えていくと思っています。
だからこそ、ALL STAR SAAS FUNDとしてはメンバー全員がバリューを体現し、起業家の方々から魅力を感じていただけるような人格を築いていきたい。私たちがVCとしてさらに発展していく上で、最も重要なことだと認識しています。

起業家から選ばれる「人格」というのは、どうすれば身につくものなのでしょうか。

前田

非常に難しいテーマで、私自身も日々頭を悩ませています。現段階での私の答えは、きわめて難しい決断に責任をもって関わっていく、そんな経験をどれだけ重ねられるかということ。
この決断ひとつで、下手をすれば自分の信用をすべて失うかもしれない、いままでの実績がすべて台無しになってしまうかもしれない。そんな恐怖を抱きながらも、自分が最も正しいと思ったことを果敢に決断していく。みんながハッピーになれる状況ではなく、何かが犠牲になってしまうような場面に直面したとき、論理的にも感情的にも辛い思いをしながら起業家に最良の意思決定を提言し、実行に移していく。
そうした経験がVCに求められる「人格」を作っていくのであり、そこから逃げてしまうとせっかくのチャンスを逸することになる。それをALL STAR SAAS FUNDとしてメンバーにどう体現させるか、いま非常に悩んでいるところですが、そんな経験ができる機会をぜひ提供し、誰もが高い「人格」を備えた集団を目指していきたいと思っています。

VCは単なる仕事ではない。さまざまな人間ドラマを味わえるライフワークだ。

ALL STAR SAAS FUNDでは新たなキャピタリストの採用にも注力されています。どんな方に仲間に加わっていただきたいか、お二人の視点から意見をいただけますか。

神前

求められることは二つあると思っていて、ひとつはキャピタリストという役職にこだわらず、ALL STAR SAAS FUNDという組織に貢献する意思があるかということでしょうか。
キャピタリストというのは、その肩書を名乗れば簡単に務められるものではなく、起業家の課題に寄り添って解決していくのは相当に難度の高い作業です。やはり一定の修行期間が絶対に必要であり、そこで忍耐強く力を磨いていくことが大切です。私自身も現時点で自分で資金を集められるレベルに達していないので、一人前のキャピタリストとは到底認められません。チームの一員としてファンドに貢献しながら、自分を高めていくことを進んで実行できる方が望ましいと思っています。
そして、もう一つ大切なことは、学習力を備えていること。SaaSは業種業界を問わないので、投資先の事業環境について瞬時にインプットし、課題解決のための特有の知見を提供していかなければなりません。同じメトリクスでそれぞれの業態を見てしまうと、まったく的外れなアドバイスにつながる恐れもあり、起業家の方々からの信頼も失ってしまいます。

神前さんは、投資先の事業環境を瞬時に理解するために、どんな情報をどのようにインプットされていらっしゃるのですか。

神前

まず官公庁が出しているファクトデータをとにかくインプットし、図書館でそれに関する書籍をだいたい5冊ぐらい読破しています。あとは、自分のネットワークを活用して情報を収集しています。たとえば、医療に関することなどはまったく未知の領域なので、医師の友人にインタビューして知識を習得したり……私の場合、おつきあいする起業家の方が話す内容は理解できるように毎回インプットに努めています。

前田さんは、御社で活躍できる人材についてどのようにお考えですか。

前田

先ほど神前が話した学習力を備えた人材というのはまさにその通りで、少し表現を変えると「マニア」的な気質が大切だと思っています。
私たちは常に新しい業界、新しい技術、新しい市場に触れていくので、それを面白いと感じてマニアックに学んで吸収していくような方でしょうか。あと、これはALL STAR SAAS FUNDならではの特徴かもしれませんが、当社のメンバーは、皆が色々な役割を担っているんですね。投資やオペレーションだけにフォーカスするとか、タレント支援だけを究めるとか、マーケティングの取り組みだけに集中するとか、そうしたポジションはありません。投資を担うメンバーも、メディアでの情報発信やカンファレンスの運営などにも関わりますし、タレント支援のチームのメンバーも、マーケティングやブランディングに携わったりしますし、マーケティングチームも投資のソーシングを強化するプロジェクトの推進もしています。社内で掲げているどの目標も一人の人間や一つのファンクションだけで完結できるものはほぼ無く、マーケ・投資・オペレーション・タレント等それぞれのチームが連携して達成する必要があります。私たちが果たすべきはALL STAR SAAS FUNDが掲げるミッションであり、そのために各自が専門外の分野にも積極的に関わり、チームとしてミッションを成し遂げていく。そうしたスタイルを良しとするマインドがあり、興味の幅が広い人のほうが当社にフィットするのではないかと思っています。

では最後に、VCを志す方に向けてメッセージをお願いします。

神前

求職者のみなさんとお話しをさせていただくと、ベンチャーキャピタリストという職業に憧れを感じている方々もいらっしゃるのですが、実態は非常に泥臭い仕事です。相応の覚悟をもって、投資先の成長にコミットメントしなければなりません。
そんななかで、自らの強みをしっかりと磨き、忍耐強く経験を重ねて自分を高めていくことで、成果が大きく花開く。本当にチャレンジしがいのある仕事だと思いますので、そうした形でスタートアップの成功に関わりたいという熱意のある方に仲間になっていただきたいですね。

前田

私が個人的に感じるのは、ベンチャーキャピタルというのは単なる仕事ではなく、もはやライフワークであるということ。そこには、人としてのさまざまな資質や能力が求められます。
たとえば、自ら責任を取って資金を集め、自分の信用を使って投資を実行し、起業家とパートナーシップを組んで問題に立ち向かっていく。本当に色々な要素が絡み合う、まさに波乱万丈の人間ドラマが味わえる職業だと思っています。さまざまな場面で得た経験値を最大限にレバレッジして、起業家とともに新たな価値を創り出していく、そんな生き方に大いに魅力を感じられる方に、ぜひALL STAR SAAS FUNDに参画いただければと思います。

前田 ヒロ氏

PROFILE

ALL STAR SAAS FUND

Managing Partner

前田 ヒロ氏

米国の大学を卒業後、BEENOS に入社。2010年、スタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括し、2015年にグローバルファンド「BEENEXT」を設立。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選ばれる。2019年、SaaSに特化した「ALL STAR SAAS FUND」を起ち上げ、Managing Partnerを務める。

神前 達哉氏

PROFILE

ALL STAR SAAS FUND

Partner

神前 達哉氏

学生時代から「人」の可能性を最大化することに関心があり、東京大学卒業後、ベネッセコーポレーションに入社。法人営業を経て、新規事業開発室に異動。海外スタートアップとの日本向けB2B SaaSの事業化を果たしてセールス組織開発を担当し、その後カスタマーサクセスの責任者として事業成長を牽引。コロナ禍を機にキャリアを見つめ直し、自分の力を大いに試せる場を求めてALL STAR SAAS FUNDに参画し、2021年2月よりPartnerに就任。

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